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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
11/117

武者と将官

「エイッ!エイッ!ヤアッ!トウッ!」


 西堂丸が目覚めた時には、既に外からは子供達の掛け声が聞こえていた。急いで支度をして庭に出る。皆、熱心に素振りをしている。


「「「西堂丸様!おはようございます!」」」


「おはよう。皆とても早くから鍛錬しているのじゃな。儂が一番寝坊助のようだ。面目無い限りじゃ。」


「今日は西堂丸様とご一緒できるので、皆張り切っているのです。普段はもっと寝坊助なんです。」


 年長の狩野泰光が答えてくれた。泰光は今年15歳。武勇に優れ、元服の日取りも決まっている。ここで学べるのもあと僅からしく、共に学べる機会を楽しみにしていたそうた。


「泰光。今日は其方が儂の介添えをすると聞いている。宜しく頼むぞ。」


 泰光に型を直してもらいながら、皆と一緒に素振りをする。まだ身体ができていないということで軽く汗を流す程度だ。年長の者達は大人顔負けの気合に満ちた剣筋である。


「これから皆はそれぞれの得物の鍛錬を行いますが、若様は如何されますか?」


「儂は武芸をするには早いと言われているのじゃ。なので印字打ちをするつもりじゃ。」


 折りたたんだ手拭いに2本の組紐を括り付けて即席のスリングを作る。遠心力を利用した投石器だ。拳大の石を手拭い部分で包み2本の組紐を利き手で持つ。頭上で一回転させ遠心力をつけ、サイドスローで投擲した。


 ビュン!カツン!


 小気味良い音がして的に当たった。 「「「おおっ!」」」皆から驚きの声が聞こえた。こちらを盗み見ていたようだ。泰光も驚きの声を上げる。


「若様!かなり本格的なのですね。子供の遊びかと侮っておりました。失礼しました。」


「いや、よい。武芸とは言えぬ足軽の技じゃ。じゃが儂は侮れぬ技だとも思っているのじゃ。投石紐を竿に付ければ更に飛距離も威力も出る。弓術と比べたら威力も精度も劣るが、集団となればそれも補えると思う。」


 武士は己の武芸を拠り所として立つ。特に関東の武士はその傾向が顕著で、足軽衆を下に見る傾向がある。


「北条は身代が大きくなり、戦の規模も大きくなったと聞く。良き武士を集めることが何よりも大事であるが、軍勢のほとんどは足軽共じゃ。お爺様の氏綱公が足軽衆を組下に置いた意味を考えるとよい。足軽衆の底上げをし、その足軽衆を巧く率いることのできる者でなければ、これからの武士は務まらぬと思うのじゃ。」


 泰光は驚いた様子で疑問を口にした。


「西堂丸様!お言葉ですが、優れた武士に足軽は従うものだと思います!なればこそ、我等は武芸を磨くのではありませんか?」


 まあそうだよね。これが鎌倉武士の普通の感覚だ。


「武芸を磨くことは勿論、大前提じゃ。国人同士の争いや一国同士での争いならそれでも良いと思う。だが、大規模な合戦になればなるほど使番の役目が重要になるであろう?目の前の己の手柄に目が昏み、全体の作戦行動を理解しなければ大きな成果を得ることはできぬ。」


 泰光だけでなく、他の子等も真剣な目をしてこちらを見ている。


「北条家は大きくなり過ぎた。戦の規模も必然と大きなものとなる。古の中華に項羽という無敵の武者があった。しかし、中華を統一したのは負け続けた劉邦じゃ。劉邦は武者ではないが、将であった。武者の代わりは他の者でも務まるが、将を得るのは難しい。ここにいる皆にはただの武者ではなく、将となってもらいたいのじゃ。」


 まだ、戸惑いから抜けだせていない様子だが、最初はこれくらいで十分だろう。近い将来、鉄砲が普及し、足軽の重要性が増すのだ。北条家全体の意識改革はすぐには無理だろう。世代交代と共に少しずつ変えていかねばならないのだ。

登場人物


狩野泰光(?-1590)康光、一庵。氏康馬廻衆。後に氏照麾下。八王子城にて討死。

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