忠貞の疑念
side島津忠貞
西堂丸様達が温泉から戻られた。明日に備えて英気を養ってきたようだ。
最近、西堂丸様の成長が著しいのだが、何か様子がおかしい。無邪気な思い付きかと思わせながら、大人顔負けの深い考察に基づいた意見であったりするのだ。極めつけは鉄砲に対する過剰なまでの反応だ。
10年前、明に留学した当時でさえ、鉄砲は倭寇集団の大頭領が僅かに所有していただけだ。帰国する際に知遇を得ていなければ、鉄砲の存在すら知らないところであった。
小田原に来てからも数人にしか鉄砲の話をしていない。興味を持ったのは砲術方の金石斎くらいのもので、それでも西堂丸様程の反応ではなかった。
西堂丸様は鉄砲の威力を【知っている】としか思えないような反応であった。なぜ知っている?どこで知ったのだ?疑念ばかりが膨らみ、恐怖すら感じる。一度腹を割って話をしなくてはならない。
就寝の時間になり、西堂丸様が横になった。
「忠貞も横になれ、今宵は共に語りたいのじゃ。疑念があるのであろう?」
「これは迂闊でした。顔に出ておりましたか?」
西堂丸様は意を決したような表情をされてから語りだした。西堂丸様が未来の世界を体験したかのような夢を見たこと。将来、畿内に鉄砲を主力とした大勢力が現れること。北条家がその勢力に滅ぼされること。
「嫡男が自家の滅亡を口にしてはならぬのじゃ。夢に見た知識を使ってでも滅亡を回避したい。忠貞!儂はまだ幼い!協力してはもらえぬか?」
俄かには信じ難い話だったが、西堂丸様の必死の思いが伝わってきた。それは童子でありながら当主として悩み、当主としての覚悟を持った男の願いだと感じられた。ならば、こちらも覚悟を持って答えなければならない。
「承知致しました。西堂丸様のため、身命を賭してお仕え致します。先程のお話は私の胸に収めておきます。他言できる話ではありません。きっと八幡大菩薩様のご加護を賜ったのでしょう。」
私の言葉に安心したのか、西堂丸様は静かに寝息を立て始めました。




