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そんだけ?

 仕分け人と針の番人の話で伝えたい、いわれのない偏見や誹謗中傷に苦しんでいる人に読んでみてほしいメッセージの1つ目です。

 いちばん伝えたいメッセージは連載の最後に書きますが、今回、ここで書いていることも、伝えたいことのひとつです。

 人から何かキツいことを言われたときに、そういうことを言われるだけの何かが自分にある場合とは違い、人を傷つけるようなことを何もしていないのに、理不尽なバッシングを受けてしまう場合は、本当につらいと思います。そういうつらい目にあった人が傷つくのは、絶対におかしい――。

 心の小人たちの仕事がうまく機能して、人の言葉に傷つけられた人たちの心が少しでも楽になれば――と思います。

 


 仕分け人が、人からひどいことを言われたのが、自分に問題があったせいだと判断したら、針の番人が心の持ち主に痛みを与える。

 針の番人が与える痛みは、自分のせいで傷ついた相手の心の痛み。

 だから、針の番人の与える痛みは、大切な痛み。

 ミヤくんはさらにたとえ話をする。

「そいじゃ、例えばオレがバナナの皮が落ちてるのに気づかずに皮を踏んで滑って転んで、そのときに近くにいたクラトを巻きこんでクラトまで一緒に転んだら、クラトは尻もちついて痛い思いさせられてる。その場合は?」

「え?」

 バナナの皮⁈

 と、余計なところが気になったものの、ミヤくんに言われたたとえ話について考えてみる。

「えっと、それってわざとじゃないから、ミヤくんが悪いわけじゃない……けど……」

 その場合はどうなるんだろう?

 ミヤくんは()らさず、答えを告げた。

「別にわざとクラトを転ばそうと思って巻きこんだワケじゃないから、オレ、悪くないやん、ってなるかっつーと、そうじゃなくてさ。わざとじゃないけど、オレがもっと足元に注意してれば転んでなかったかもしれなくて、そしたらクラトを巻き添えにしないですんだワケだから、そこはやっぱり、わざと転ばせたんじゃなくても、クラトが痛い思いすることになったのは、オレのせい、ってなる」

 わざとやったことでなくても、『自分に問題アリ』に仕分けられてしまう。けどそれは、わざとかどうか関係なく結果がすべてだ、ということじゃなく。きっと、巻き添えで転ばされた人の痛みを思えば、巻き添えにしないために何かできることがあったんじゃないか、ってことなんだろう。

 なんだかそれって――。

「思いやり、みたいだね」

 自分で言って、自分でびっくりする。思いついたことが、口から出ていた。

「思いやり?」

 ミヤくんに聞き返されて、少しあわてる。自分でも、頭の中がまだちゃんと言葉になっていなくて、うまく言えない。

「ええと、なんていうか……」

 口ごもりながら、頭の中をフル回転。ミヤくんはせかすことなく、僕の言葉がカタチになるのを待ってくれる。

「針の番人は、意地悪や嫌がらせするために痛みを与えるんじゃなくて、人の心を考えさせるために痛みを与えるんだな、って。人のことを考えるのは、人を思いやるってことだから、ミヤくんの言うように罰じゃないんだな、って」

 うまく言葉で言えたかな?

 口にした瞬間に違う風になってしまったような気もするし、ちゃんと思っているとおりのことが言えた気もする。

「思いやる痛みか~。……うん、そうかも。自分が傷めつけられるための痛みじゃなくて、自分が傷つけてしまった相手の痛みってことは、相手の気持ちを思いやって胸を痛めているってことで。ホントだ、思いやりの痛みやん」

 うんうん、とミヤくんは何度もうなずく。僕は、ミヤくんにほめられているような気になって、少し照れくさなった。

「思いやりの痛みだから、ちゃんと痛みを感じなくちゃいけないんだね」

 僕が照れ隠しに、少し早口になりながら言うと、ミヤくんは「そうそう」といつもの調子でうなずきを返す。

「人の痛みだからこそ、針の番人に与えられる痛みは、オレら人間が知らなくちゃいけない痛みで、知って当然の痛み、知るべき痛み――ってコトで。胸が痛むと、自分の方こそがひどい目にあってる被害者になった気になりそうだけど、ホントはそうじゃなくて、自分のせいで人がつらい思いしてる。だから、その人の痛みを思いやって、自分の胸を痛めないといけないんだ」

 ミヤくんの厳しい声。

 その痛みは、大事な痛み。

 僕は、少しだけ息苦しくなった気がして、深く息を吸う。新鮮な空気が肺に入って来ると、少し気持ちが落ち着いた気がした。

 と、

「でさ、仕分け人が報告書を『自分に問題ナシ』に仕分けた場合、なんだけど――」

 ミヤくんが軽い口調になって、もう一つの話に移る。

「あ」

 ホントだ。

 『自分に問題ナシ』の方はどうなるんだろう?

 自分に問題がないんだから、針の番人の出番はないと思うんだけど――?

 他に、なんとかの番人とか、いるのかな?

 なんて考えていたら、

「報告書が『自分に問題ナシ』って書いてある箱の方に入ってたものだったら、運び役の小人は、仕分け人の部屋を出て、白い道の途中の二股(ふたまた)に別れたとこで、針の番人のいる方とは逆へ進むんやけど、その先には倉庫があんの。運び役の小人は、報告書をその倉庫に持って行って、倉庫の中のどっか適当なとこに報告書を置いて帰ります。以上! 終わり!」

 とミヤくん。

 僕はきょとん。

 一拍おいて、

「え? ええ⁈」

 驚きの声を上げた。

「報告書、倉庫に置いて帰るの? それで終わり? もっと……次に何かあるんじゃないの?」

 僕は信じられなくてミヤくんに聞いた。 

 ミヤくんは僕の不思議そうな顔に共感するように、うんうんとうなずいている。

「せやろ、そんだけ? って思うよなー。けどさ、それがさー、それだけなんだよ~。倉庫に放りこんで放置しとけばいいんだってさ~」

「そ、そうなの……?」

 本当かな? 

 それだけだと言われても、ちょっと疑いの目を向けてしまう。信じがたい、っていうのかな? だって、針の番人に心臓突っつかれるのと放置しちゃうだけでなんにもないのとじゃ、あまりに違い過ぎる気がして。『自分に問題アリ』の方の場合と比べて、何もなさ過ぎるんじゃ?

 だけど、ミヤくんは、本当にそれだけだと言う。

「だってさ、自分に問題があって、そのせいで、相手にしんどい思いさせたり、相手を傷つけたりしてるワケじゃないから、針の番人に痛みを与えられる必要ないしさ」

「う、うん、そうだね」

 確かに、僕もそうだと思った。

「だから、そんだけ。そんだけなんだけど――」

「それだけだけど――?」

「報告書を倉庫にしまうってことは、いちおう心の中に取っておくけど、取っておくだけってこと。それって、報告書を燃やして処分してしまったり、報告書で紙ヒコーキ折って心の外に飛ばしてしまったりするワケじゃないから、心の中からすっかり無くしてしまうことはないんだけど――」

「けど――?」

「倉庫にしまわれてるから、ふだんは報告書に書いてあることって気になんないの。それってつまり、誰かからひどいこと言われたり、否定的なことを言われたりしたっていうことを気にしないでいられる、ってコトなんだ」

 ミヤくんがそこまで話して、僕はハッとした。

 ひどいこと言われたり、否定的なことを言われたりしたっていうことを、気にしないでいられる――?

 なんだろう? なんでそんな話になるんだろう?

 話の繋がりがよく見えないけれど、大事なことかもしれない。

 だって、ひどいこと言われても、そのことを気にしないでいられるなんて――そんなこと、ある?

「自分に問題がある場合は、傷つけてしまった人の気持ちを考えたり、次にまた同じようなことをしないようにしようと心がけたりしなくちゃいけないわけやん。何がどうよくなかったか、ちゃんとしっかり心に刻んで生きてかなきゃいけない。それが『自分に問題アリ』な場合。――けどさ? 『自分に問題ナシ』な場合は、自分の何がどうよくなかったか心に刻む必要ってないワケ」

 ミヤくんは、繋がりが見えなかった話を、ひとつずつ繋げていく。

「ということは、キツいこと言われたこと自体を、心の中のどっかにやっちゃっても大丈夫、ってコトで。誰にどんなこと言われたかを心に留めて、何度も思い返したりしないでいい。そんなものは倉庫にしまいこんじゃえばいい、ってコトなワケ」

 つらいことを何度も思い返して引きずって生きて行かなくていいってコトだよ、とミヤくんが強調する。

 僕は軽く混乱した。

 自分に問題がないのにキツいこと言われた方がずっとつらくて、何度も何度も思い返して、つらさを噛みしめてしまいそうだけど……。

 気にしなくていい?

 ふだんは心の奥にしまいこんで、忘れちゃってていい、ってことかな?

「それでいいの?」

 僕は念を押すようにミヤくんに聞いた。

「それでいいんだってさ? ……だってさ、自分に問題がない場合は、自分に問題のないことを自分がどうにかできるワケないやん?」

 ミヤくんがさらりと言う。

「え?」

 意味を測りかねて(まゆ)を寄せる僕に、ミヤくんが説明を加える。

「自分に問題がない場合はさ、何の問題もないオレにキツいこと言ってくる人の方がおかしい、ってことになる。つまり、相手に問題がある、ってことになるワケだけど」

「あ、そっか」

「自分のことだったら、こういうことするのやめようとか、今度からはこうしようとか決意して、自分自身で自分を変えることができるけど。相手に問題がある場合は、オレが相手の心の中身を勝手にいじって、相手の心を違う風に作り変えることはできないっつーか。相手の人が自分自身で自分のことを変えようとしない限り、相手の人が変わることはないやろ?」

「あ、そっか」

「だからさ、相手に問題がある場合は、相手がどういう態度をとるか様子を見るしかないんだよ。それなのに、相手に言われたことを引きずってアレコレ気をもんでも……しょうがないやん」

 ミヤくんはさっぱりした顔で言った。

 けれど、僕はさっぱりしない。

 相手に問題があるってことは、相手がひどいってことだよね? それなのに、相手がどういう態度をとるか様子を見るってことは、相手をひどいままにしておくってことじゃないのかな?

「それってなんていうか、泣き寝入り、とかいうヤツ? ひどいこと言われても、がまんするしかないってこと?」

 首をひねる僕に、ミヤくんがあわてたように首を振った。

「違うって! 『相手のことは変えようがないからしょうがない』ってあきらめるしかないぞっていうんじゃなくて。ひどいこと言われても、言われっぱなしでガマンしろっていうんじゃなくて。そうじゃなくて、えっと……相手がなんでそんなこと言うのかを(さぐ)れ、相手がどういう人なのか知ろうとしろ、人のことを理解しろ、ってコト――なんやって」

「人のことを理解しろ……?」

 僕はまたもや意味がわからず、首をかしげた。

                                                つづく





 読んでいただき、ありがとうございます。

 仕分け人が『自分に問題ナシ』に振り分けた場合は、『自分に問題アリ』のときと違い、その後の展開がアッサリしてます。ただ、実際にはこう簡単に、単純に、自分の気持ちを整理できるわけではなくて……。そのあたりのことは、また、最後の方で書くことになりますので、この先もぜひとも、読み進めていただきたいと思います。よろしくおねがいします。

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