第1話①
太陽が空高く上り燦燦と輝く正午。森林地帯と都市部の間にある公園、その中にある広い原っぱではたくさんの人たちが休日を謳歌していた。
子供と一緒にキャッチボールをする父親、ラジカセで軽快な音楽を流しながらダンスの練習をしている高校生たち、ベンチに座って遊んでいる人々を眺めて微笑む老夫婦・・。
その中に混じって、佑たちは三角形になるような形で並び、ボールを足でパスしあって遊んでいた。ボールを落としたら負け、というシンプルだが意外と楽しい外遊びだ。
「佑!パース!!」
「はいはい!よっ・・と!」
佑はピーターの足から蹴りだされたボールをつま先を使ってうまく真上に蹴り上げ、それと同時に前を向きながらお辞儀するように上半身を曲げ、落ちてきたボールを首の上で受け止めた。
見事な技にピーターとマリエは目を見張った。
「おおー!上手い!」
「へへっ!いっぱい練習したからね!」
「並大抵の練習でできることではないですよ。素晴らしいです。」
「えへへ・・照れるなぁ。じゃあ次は・・マリエ!」
佑はそういってボールを首から落とし、そのままマリエの方に向かって蹴り上げた。
だが照れていた佑は動揺して力加減を間違えてしまった。ボールはドン!と強めに蹴り出され、かなりの速さでもってマリエの顔面に向かっていく。
それを見た3人から笑顔が消えた。3人とも1秒後に起こるであろうことを想像し、恐れたからだ。
(まずい!!)
佑が思ってももう遅い。
ボールは凄い速さでマリエの顔に激突・・・
するかと思われたその時、マリエがその場でバク転した。
ボールを追っていた佑とピーターの目は、そのままあまりにも突然で華麗な動きに向く。
危険を察知して活発化していた視神経は、マリエの一挙手一投足をとらえる。水墨画のように空中を流れる長い黒髪、風を受けてはためくメイド服の膝丈のスカート、そこから伸びる白い足・・。
そしてその足がガシッとボールをつかんだのも、見逃さなかった。
スタッとマリエがきれいに着地したと同時に、佑とピーターは飲んでいた息をプハァ~と吐き出した。
そして『ボールがぶつかるかも。着地が失敗するかも。』といった不安から解放された2人の胸に押し寄せたのは、『なんだいまの!?』という感動と興奮だった。
思わず佑とピーターはまだ放心しているマリエに詰め寄った。
「マリエすごいじゃん!!すごすぎるよ!!」
「なんだよ!俺なんかよりよっぽど練習してんじゃん!!」
「あ、いえあの・・自分でもなぜこんなことが出来たか、不思議で・・」
「そんなこと言って~!ホントは練習したんでしょ?じゃなきゃよっぽど才能が無い限りあんな動き出来ないって!」
佑の誉め言葉にもマリエの表情は変わらず曇ったままだった。眉間にしわを寄せ、何か思案するようにボールを見つめている。
(何か気になることでもあったのかな?)
佑が心配していると、ピーターの明るい声が響いた。
「よーし!じゃあ今度は俺が2人にスーパープレイを見せてあげるよ!マリエ!ボールちょうだい!」
「あ、はい。どうぞ。」
マリエからボールを受け取ったピーターはトトトと歩いて少し距離を空ける。
そして胸の前でボールを持ち、自信たっぷりの顔で仁王立ちした。
「いっくよー・・それ!!」
ピーターは掛け声とともに腕を振るい、ボールを空高く真上に投げ上げた。
それと同時にピーターはその場でぐるぐると回転し始める。最初はゆっくりだった回転は徐々に速くなり、ボールが限界まで上がって制止した時にはフィギュアスケーターのスピン並みの速さになっていた。
その速さに佑とマリエはおお!と目を見張る。
感動する二人と降下をはじめたボールを見て、ピーターはニヤリと笑って高らかに技の名前を叫んだ。
「いくぜ!!スーパーハイパートルネードキックアタァァッック!!!」
ピーターの足元まで落ちてきたボールは、遠心力によって生み出されたパワーのあるキックによってとんでもない横回転がかけられる。
そのボールはピーターの足、胴、首、頭をギュルギュルと螺旋状に駆け上がっていき、最後には頭頂部からポンと真上に打ち出される。
・・はずだったが。
足にボールが当たる直前、ピーターは芝生でツルっと滑って転んだ。
これによってボールの蹴り方が変わった結果、本来ならばその場で横回転するはずだったボールは思いっきり蹴り上げられ、ポーンと原っぱを超えて奥にある森林、キャンプエリアへと飛んで行った。
佑とマリエは一緒に顔を弧状に動かしてボールの軌道を追った。
ボールが森林に生える木々の間に消えていくのをぽかんと眺めていると、ピーターの「いてて・・」という声が聞こえた。二人は慌てて振り向き、しりもちをついているピーターの所へ向かう。
「ピーター!大丈夫?」
「お怪我はありませんか?」
「うん・・大丈夫・・イチチチ・・」
大丈夫といいながらも腰をさするピーターに、マリエはスカートのポケットから湿布を取り出して渡した。
マリエのは他にも絆創膏や消毒液をもっており、けがした時はいつでもそれらを使って処置をしてくれる。
ピーターは「ありがとう」といって湿布を受け取り、シャツの後ろを少しめくってそれを貼り始めた。
佑はひと段落してふぅと息をついた後、ボールが飛んで行った森林の方を見つめた。
(ボールが落ちたのはちょうどキャンプサイトのあたりか・・。誰かのものに当たってたら謝らなきゃだし、早く取りにいったほうがいいな)
そう考えた佑はピーターとマリエにしゃべりかけた。
「2人ともちょっと待ってて!今ボールとってくるよ。」
「あ!佑!俺が行くからだい・・イテテテ・・」
「ピーターは無理しないで!腰これ以上痛めたら、ボール取ってきても遊べなくなっちゃうよ!マリエはピーターを看てあげて!」
「分かりました。ありがとうございます。」
「ありがイテテテ・・」
ピーターとマリエの返事を聞いた佑は急いでボールの落ちた所へ向かって走り出した。