表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

第二章 其の五


 敵、敵、敵。 見渡す限り周囲には敵軍だらけ。

 魔王軍は基本的に青白い肌の魔族なる人型の種族が主要構成だが、

 ガーゴイル、オーガ、トロル、ゴブリン、コボルドなどの魔獣や魔物も従軍しており、

 上官らしき魔族の命令に従いながら、戦場を駆け回っている。



 基本的に魔王軍は漆黒の甲冑、軽鎧や武具を装備しているので、

 この乱戦でも周囲の冒険者と間違える事はない。

 とりあえず俺はゴブリンやコボルドに狙いを定め、ひたすら斬り捨てた。

 こいつ等は数が多いだけで、非力なうえに耐久力も脆いので簡単に倒せる。


「八、九、十……アリシア。 とりあえず雑魚から片付けるぜ!」

「了解よ、勇者様! せいやあああっ!!」


 そう気勢を上げながら、漆黒の大剣を縦横に振るうアリシア。

 瞬く間にゴブリンやコボルドが斬り捨てられていく。

 流石は上級職の魔剣士。 やるじゃねえか、俺も負けてられないぜ!


「――喰らえ。 『シャープ・スライダー』ッ!!」


 俺はそう叫びながら、初級剣術スキルを放った。

 この『シャープ・スライダー』は初級剣術スキルだが、汎用性は高い。



 剣を水平に振るう初歩的な剣技だが、剣の基本動作である為、

 用途法は多種多様である。

 更には俺は歴代勇者から受け継いだ守護聖獣ペガサスと契約している。



 守護聖獣の恩恵もあり、この『シャープ・スライダー』の熟練度値は異常に高い。

 故に初級スキルとはいえ、かなりの威力を誇る。


「ウ、ウギャアアアアアアッ!!」


 断末魔を上げる漆黒の軽鎧を着込んだゴブリン。

 俺は更に『シャープ・スライダー』を連発して、次々と敵を切り捨てた。


「ひゅう、やるじゃん。 勇者様」と口笛を鳴らすアリシア。

「お兄ちゃん、凄いのだ! ならあたちも頑張るよ! えいっ!」



 そう言いながら、ラルが両手で持った銀色の魔法銃の銃口を空に向けた。

 そして魔法銃の引き金を引き、銃弾を発砲。

 だが彼女の放った銃弾は只の銃弾ではない。 属性効果を持った魔弾丸である。

 そして放たれた魔弾丸は、俺達の頭上で弾けて、周囲が緋色の闘気で覆われる。


「とりあえずオーソドックスに、火炎属性で付与魔法エンチャントしたよ!

 あたちの見た限り、敵に火炎耐性のある奴は居ないみたい。

 だからお兄ちゃんもアリシアねえちゃんもガンガン敵をやっつけて!」


 と、このようにラルは味方に付与魔法エンチャントと同じ効果を与える事が

 出来る。 更には対魔結界のように属性の防壁を張る事も可能だ。


「助かるぜ、ラル。 よし、アリシア。 一気に敵を蹴散らすぞ!」

「あいさ、勇者様」と、軽口で答えるアリシア。



 俺とアリシアは敵に目掛けて突貫して、手にした武器を縦横に振るう。

 炎の付与魔法エンチャントの効果もあり、面白いように敵が倒せる。


 そこで気を良くした俺は調子に乗って、更に豪快に剣を振り回した。

 だが俺の死角を突いて、背後から蛮刀を持ったゴブリンが襲ってきたが――


 ばしゅんっ!!

 という銃声と共にゴブリンの頚椎にラルの魔弾丸が命中。


「注意一秒、怪我一生……だよ、お兄ちゃん!」



 などと俺は幼女にさとされた。

 やれやれ、これは少々恥ずかしいな。 だが見た目は幼女だが、

 ラルは実際役に立つ。 俺とアリシアに迫ろうとする敵兵を

 次々と銃撃して、的確に急所を撃ち抜いた。 

 これはベテランの銃士さながらの芸当だ。



 次第に敵兵達も驚き戸惑いながら、硬直し始めた。

 これは流れがこちらに傾きつつある。 ならばここで一気に決めたい。



「ナタリアッ! 強烈な攻撃魔法を頼む!」

「わかりましたわ、ユーリス様。  我は賢者セージ

 我はクレセントバルムの大地に祈りを捧げる。 母なる大地クレセントバルムよ。 我に力を与えたまえ! 行けえええっ……スーパー・フレアッ!!」



 と、ナタリアが叫ぶなり、彼女が手にした両手杖の先端の青い宝石から、

 燃え盛る炎の塊が生み出された。 

 そして次の瞬間、ナタリアの両手杖の先から、

 緋色の炎の塊が連続して発射された。



 そして次の瞬間、どおおおん、という轟音を立てながら、放たれた緋色の炎が、

 敵の集団を呑み込んだ。 球形に膨れ上がった炎が、

 たちまち激しい爆発を引き起こす。 それと同時に敵兵が激しく吹っ飛んだ。

 なかなかエグい破壊力だ。



 だが相手は魔王軍。

 故に俺は同情も躊躇いもしない。 これはるか、られるかの戦いだ。



「我は賢者セージ、我はクレセントバルムの大地に祈りを捧げる。

 母なる大地クレセントバルムよ。 我に力を与えたまえ! 

 行きますよわよっ!! 『プラズマ・バスター』!!」



 ナタリアは更に風と光の合成魔法である電撃魔法を連発して、

 魔王軍を蹴散らせて行く。 激しい電撃を浴びた魔王軍は悲鳴を上げながら、

 右往左往する。魔王軍が次第に動揺し始めた。


 ――よし更に追い討ちをかけるぞ!


 俺は手にした銀の片手直剣を頭上に掲げて――


「魔王軍よ、我こそは勇者ユーリス・クライロッドである!

 この勇者とその盟友が貴様ら魔王軍に神罰の鉄槌を下してくれよう!」


 と、やや芝居がかった台詞を言い放った。

 そして俺は更に勇者の守護聖獣であるペガサスを頭上に出現させた。

 するとしばらく周囲が静寂に包まれていたが――


「ま、マジかよ!? 本当に勇者とその盟友かよ!?」

「あの守護聖獣は伝説の天馬ペガサス!? 勇者の守護聖獣は代々、

 天馬ペガサスと決まっている。 つまりあの勇者は本物だっ!!」

「マジかよ。 この眼で本物の勇者を拝める日が来るとは……」

「お、おい! 俺達も勇者とその盟友に続くぞ!」

「お、おうよ!」


 どうやら俺の想像以上に効果があったようだ。

 それまで士気が下がっていた冒険者による討伐隊は、見る見ると息を吹き返し、

 気勢を上げながら、周囲の魔王軍と交戦する。



 雑魚は彼等に任せて問題ないだろう。

 ならば俺が狙うのは、敵の総大将だ。



「おい、魔王軍の司令官よ、聞こえているかっ!!

 ここに貴様らが憎む勇者が居るぞ。 もし貴様に勇気と戦士としての

 誇りというものがあるならば、この私と一騎打ちしてみろ!!」



 俺は大声で周囲にそう叫んだ。

 正直これは一種のブラフだった。 だがこのブラフに相手が乗ってきた。



「我こそは魔将軍ザンライル。 勇者よ、貴様の挑発にあえて乗ってやろう。

 他の者の手出しは無用だ。 魔将軍の誇りにかけて、我が手で勇者を討つ!」



 そう言いながら、凄まじい威圧感を放つ漆黒の鎧を着た魔族が前に出て来た。

 緋色の長髪を翻しながら、魔将軍ザンライルは鞘から漆黒の長剣を抜剣する。

 そしてその漆黒の長剣を俺の居る方向に突き刺し――


「貴様の望み通り一騎打ちに応じてやろう。

 勇者よ。 貴様の首を魔王様への手土産にしてやるから、前に出て来い」



 やれやれ、正直はったりだったんだけどな。

 こうも簡単に相手が乗ってくるとは思わなかった。

 だがどういう形であれ、こうして一騎討ちに持ち込めたのは悪くない状況だ。

 ここでコイツを倒せば、とりあえず俺達の勝利が確定する。



 しかし相手は魔将軍。

 いくら勇者といえど、レベル21で魔将軍と戦うのは厳しいな。

 出来ればここで華麗な剣技で魔将軍を倒して、周囲の評判を上げたいところだが、

 ここは勝つ為には、手段を選ばない戦法で行くぜ。



「どうした、勇者よ? かかって――」

「――せいっ! 『テラ・スラッシュッ』!!」

「ちょ、ちょっ……おまっ!? ――ぐほっ!?」



 俺はザンライルが喋り終える前に、

 英雄級剣術スキル『テラ・スラッシュッ』を素早く放った。


 光属性と電撃属性の二種類の属性を有した英雄級の剣技が華麗に決まり、

 魔将軍ザンライルの漆黒の鎧の胸部を鋭利に切り裂き、血飛沫が迸った。


「き、貴様あぁぁぁっ……ひ、卑怯だぞっ!?」



 と、抗議の声を上げるザンライル。

 まあ確かに卑怯だわな。 うん、自分でもそう思うよ。

 だけど正攻法で戦ったら、負ける可能性があるのでな。

 それにこれは剣術大会などではない。 剣を使った私闘なんだぜ?



「卑怯? 何を言う? これは剣術勝負などではない。

 油断している貴様が悪い。 それに数多あまたの部下を連れて

 人族の領土を侵犯してきたのは、貴様ら魔王軍ではないか?

 私は人族を守る為なら、卑怯者と呼ばれる事もいとわんよ!」


 俺はやや苦しいが、それっぽい台詞を言ってみた。

 すると周囲のギャラリー達は――


「確かに少し卑怯だが、相手は魔将軍だからな。 先手必勝ってやつじゃね?」

「いや勝負事に卑怯も糞もない。 油断した方が悪いんだ」

「そうだよな。 おい、俺達で勇者に声援エールを送ろうぜ!」



 などと好き勝手に解釈しながら、「頑張れ、勇者!」と声援エールを送ってくれた。

 うーん、勇者ブランドって凄いな。

 なんか勝手に都合の良い方向に解釈してくれるぜ。

 だがそれはそれで助かる。 ならばここは一気に攻め抜くぜ!



「そういうわけだ? 貴様も仮にも魔王軍の魔将軍であろう?

 戦いにおいては油断する方が悪いのさ。

 俺を卑怯者と云う前に己の甘さを反省せよ!」

「こ、この野郎っ!? 言わせておけば……もう許さんぞっ!」



 そして次の瞬間、ザンライルが手にした漆黒の長剣を、物凄い勢いで叩き込んだ。

 だが俺も素早く白銀の長剣を翻して、漆黒の刃を受け止める。


 しかしその衝撃で俺はやや後ろに後退した。

 流石魔将軍だ。 一撃の重さが違う。 剣の重さは先代勇者より上かっ!


 そしてザンライルは素早く前進して、漆黒の長剣を高速で振り下した。

 俺は咄嗟にバックステップで回避したが、ザンライルも追撃してくる。



 剣の重さを感じさせない鋭く速い斬撃が、四方八方から襲いかかってくる。

 俺は華麗なステップを駆使して、なんとか斬撃を躱しながら、

 時折パリィで漆黒の刃を受け止めるが、一撃受けただけで大きく後ろに仰け反った。


「ふはははっ!! どうした? 勇者の力はその程度かっ!?」


 ザンライルは高笑いしながら、漆黒の長剣を縦横に振るう。

 どうやら剣術では分が悪いな。 このままだとジリ貧だ。

 だが要は勝てばいいのだ。 勝てば官軍。 俺はその言葉を実戦すべく――


「うおおお……おおおっ!!」


 俺は風の闘気を両足に纏い、全力で地を蹴った。

 ザンライルは突撃に対応すべく、身構えていた。 ――チャンスだ!


 俺はザンライルに衝突する前に、大きく頭上にジャンプした。

 釣られるようにザンライルも上空に視線を向ける。

 その瞬間、俺は身体を少しだけずらした。

 すると俺の背後に隠れていた太陽の光をまともに浴びたザンライルが一瞬怯む。


「し、しまった!?」

「――遅いぜ!」


 そこから更に追い討ちをかけるように、俺は両手に水の闘気を纏い、

 両手を上下に合わせながら、掌から水属性の水弾を直線状に放った。


 水弾がザンライルに命中。

 それによってザンライルの漆黒の鎧が水で濡れた。

 俺はこの絶叫の機会を逃さす、剣を手にした右腕を引き絞った。

 そして片手直剣を光の闘気で覆いながら――


「貰った! 『テラ・スラッシュッ』!!」

「ちょ、ちょっ……ま、まさかっ!? ――ぐああああああっ!?」



 水で濡れた漆黒の鎧に光属性と電撃属性を有した英雄級剣術スキルが命中。

 その結果、ザンライルの全身は感電状態になり、「ぎ、ぎゃあああ」と

 悲鳴を上げながら、全身を痙攣させた。 感電に加えて、魔族の弱点属性の

 光属性も相まって、この一撃でザンライルは戦闘不能状態。



 漆黒の鎧のあちこちから白煙を吐き出し、地面に倒れこむザンライル。

 そして糸の切れた操り人形のように動かなくなった。



 我ながら鬼畜というよりかは、少々こすい真似で勝ったが、

 勝ちは勝ちだ。 俺は手にした銀の長剣で勝鬨を上げながら――


「魔将軍ザンライルはこの勇者ユーリスが討ち取った。

 残すは雑魚だけだ。 冒険者諸君、共に残敵掃討をしようではないか!」


 と、高らかに勝利宣言した。

 その言葉に呼応するように冒険者達も残敵掃討に励んだ。



 そして三十分後。

 既に大勢は決した。


 魔王軍は壊走状態で助けを求めるべく、敵の本陣であるエルベーユまで後退する。

 一部の血気盛んな冒険者の一団が深追いしようとしたが、「その必要はない」と

 俺が一言だけ言うと彼等も渋々ながらその言葉に従った。



 そして俺達勇者一行は、古都ロザリアを魔王軍の魔の手から救ったと

 大衆から賞賛された。 これによってまずます俺の――勇者の株が上がった。


 ここまでは恐ろしいくらいに順調だ。

 でも俺はこの程度では満足しない。 もっともっと俺を褒めてくれ。

 とりあえず次の目標は、港町エルベーユの奪還だ。



 だが今は今宵の宴を愉しもう。

 俺は古都ロザリアの広場に集まった人々に囲まれながら、

 赤ワインの入った杯を右手で上げた。


「これも全ては皆様のおかげです。 まだまだ若輩者の身ですが、

 魔王を倒すまで頑張りますので、どうか皆さん応援の方をよろしくお願いします!」


 俺がそう言うなり、周囲がまた歓喜の渦に呑まれた。

 うん。 いいね、いいね。 この感じ最高だよ。


 とりあえず今はこの最高の雰囲気に酔いしれておこう。

 だが俺の野望はこんなもんじゃ終わらないぜ。

 そう思いながら、俺は口の端を僅かに持ち上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  戦闘シーンの迫力が半端ないです❗   [一言]  勇者のこずるさも小気味良いです。  とにかく面白くて、ノンストップで読みだしそうで困ります。笑
[良い点] こんな主人公って結構好きです! 勝てば官軍ですもんね! この調子でガンガンいきましょう!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ