第二章 其の一
守護聖獣の継承が終わると、俺のレベルが1から一気に15まで上がった。
それに加えて、先代の勇者達が磨き上げた武器スキルや魔法も継承した。
武器スキルや魔法には熟練度なる項目があり、
スキルや魔法を使えば使う程、熟練度が上がり、威力や精度も増す。
武器スキルや魔法は初級、中級、上級、英雄級、聖人級、
帝王級、神帝級の七つのランクに分けられる。
魔法に関しては、火、水、風、土、光、闇の六属性攻撃魔法。
自身や味方の能力を上げる補助魔法。 魔力で結界を張る結界魔法。
使役する精霊などを呼び出す召還魔法。
医学方面でも重宝される回復魔法や解毒魔法。
などの多種多様な魔法が存在する。
とりあえず俺は剣術スキルを十個程、継承。
どのスキルも熟練度が高く、初級から帝王級まで使える。
魔法に関しては攻撃魔法は炎と光の二属性だが、
それぞれの魔法の熟練度はかなり高い。
更に英雄級の結界魔法と聖人級までの回復魔法と解毒魔法が使えるようだ。
これは想像していた以上に凄い力だ。
ふふふ、これが勇者の力か。 おらぁ、ワクワクしてきたぞ。
「うむ、無事守護聖獣の継承を終えたようだな。
ならば次は共に魔王と戦う盟友が必要であろう。
そしてその盟友になりうる者達をここに呼んでおる。
後は勇者ユーリスよ。 そなた自身が盟友を選ぶが良い」
国王はそう言って、指をパチンと鳴らした。
すると近衛兵が大広間の扉が開き、十名前後の男女が中に入ってきた。
ああ、そりゃそうだよな。
いくら俺が凄くても流石に一人では魔王を倒せないよな。
なる程、守護聖獣の継承の後は勇者の盟友選びの時間か。
こいつはなかなか重要なイベントだぜ。
そう思いながら、俺は盟友となるべき十人の男女の品定めをする。
どれどれ、男女の比率はちょうど五分五分という感じだな。
種族に関してもまばらだ。
人族は当然として、エルフ族や竜人族、ドワーフ族などの亜人に加え
猫妖精族、犬人族などの獣人の姿もあった。
俺が品定めしていると、人族の派手な甲冑を着た巨漢の男と眼が合った。
すると巨漢の男は白い歯を見せて、きらりと笑った。
うむ、見るからに強そうな男だ。 だがこいつは却下。
理由? 決まってるでしょ? 男だからだよ!
どうせ長旅をするなら、美少女や美女と一緒の方がいいだろ?
もちろん下心はあるぞ? でも文句は言わせないぜ。
なにせ俺は世界を救うんだからな。 これくらいの役得は当然さ。
などと思っていると、一人の人族の少女と目線が合った。
俺はその少女の姿を見るなり、思わず絶句した。
そこには美の女神から愛されたような清楚な印象の美少女が立っていた。
黒髪のロングヘア。 眼はやや大きくて、雪のように白い肌。 ピンク色の唇。
背丈は身長160セレチ(約160センチ)前半ってとこか?
やや丸顔で全体的の肉付きも良いが、ウェストはきゅっとくびれている。
服装は薄い緑色の法衣姿。 手には両手杖を握っているから、魔法職か?
「君、名前は?」
「ナタリア・バロンナイツと申します、勇者様」
「ナタリアか、いい名前だ。 職業は?」
「賢者です、勇者様」
「うむ、君。 採用! 共に魔王を倒そうじゃないか!」
「本当に私でいいのですか?」
「うむ、賢者は攻撃魔法と回復魔法が出来る万能職だからね。
それに君はとっても可愛いからね。 パーティの華になるよ」
「あら、いやですわ。 勇者様ったら」
と、僅かに頬を赤らめるナタリア。
だがそこで俺は妙な違和感を感じた。
何というかこの少女は全てにおいて完璧過ぎる。
それが妙に引っかかるが、まあとりあえず今は気にしないでいこう。
さて魔法職は確保したから、後は前衛か、中衛だな。
無難に選ぶなら、前衛は戦士か、聖騎士の二択だ。
だが今回の面子は戦士と聖騎士は全員男。
故に戦士と聖騎士は除外。
そこで俺は一人の猫妖精族らしき美女に目をつけた。
銀色のセミショートの髪からシャープな形の三角耳を生やした猫妖精族。
漆黒の軽鎧に背中に同じく漆黒の大剣を背負っており、
眼はやや切れ長。 肌は褐色。 身長は170前後ってところか?
「君、名前は?」
「アリシア・レッドマーベル。 職業は魔剣士よ」
魔剣士か。 これはこれで意外とありかもしれん。
魔剣士は闇属性の魔法や攻撃が得意な前衛職だ。
勇者は光属性の魔法や攻撃は得意だが、闇属性は一切使えない。
だが魔族やモンスターによっては、闇属性が弱点な場合もある。
ふむ、見た目もクールな美女って感じだし、二人目は彼女にしよう。
「アリシア、君の力を貸して欲しい」
「いいわよ。 よろしくね、勇者様」
これで二人が決定。
まあパーティは四人一組が基本だから、残りは一人だな。
賢者、魔剣士と後衛と前衛が決まったから、後は中衛だな。
中衛は付与魔法などの支援が得意な職業が望ましい。
オーソドックスに決めるなら、魔法剣士が鉄板だが、
魔法銃士も悪くない。
だが魔法剣士らしき者は全員男だった。
仕方ないので、魔法銃士らしき者の姿を探す。
すると一人のドワーフ族の女子が視界に入った。
しかしそこで俺は少し思い悩んだ。
何故ならその魔法銃士らしきドワーフ族の女子は、
見た感じまだ子供であったからだ。 それも十二歳前後の子供。
流石に鬼畜者の俺でも十二歳は守備範囲外だ。
本当だぞ? 俺は美女や美少女は好きだが、美幼女は興味ない。
だがその美幼女の女ドワーフがつぶらな瞳で俺を見据える。
肌は薄い黄緑色。 身長は140セレチ(約140センチ)あるか、ないか。
髪はアイスブルーのツインテール。 身軽な青い軽装に両腕に銀色の銃を抱えている。
なんというか庇護欲を掻き立てるタイプの幼女だ。
「勇者のお兄ちゃん。 あたちはラルレイアだよ。
ラルレイア・ラインジャック。 職業は魔法銃士!」
「……」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
い、いかん、一瞬思考が停止したぞ。
一人っ子の俺はお兄ちゃんと呼ばれるのは、初めての経験だ。
意外に破壊力あるな。 でも別に嬉しくはない。 ……本当だぞ?
「あたちの魔法銃は六属性の銃弾を使い分けるんだよ。
攻撃にも使えるけど、味方に付与魔法する事も可能だよ!」
「ほう、つまり属性を使い分けて、攻防共に使えるんだな?」
「そうだよ。 こう見えて六歳の頃から魔法銃を使ってるんだよ。
お父ちゃんに連れられて、よく森で狩りもしたし、銃の扱いには自信あるよ!」
「そうか……」
見かけによらず結構腕は立ちそうだな。
だがやはり幼女はまずい。 鬼畜者の俺も幼女愛好家の称号は欲しくない。
この幼女をパーティに加えると、ナタリアとアリシアからも軽蔑されそうだ。
それは困る。 特にナタリアには嫌われたくない。
今のところ彼女は俺的正妻候補の筆頭格だからな。
だからここはあえて――
「あたちらドワーフ族は長年魔族に虐げられてきたんだよ。
あたちはドワーフ族を庇護してくれた、人族に恩返しをしたいの。
だからあたちをパーティに加えて、お願い。 お兄ちゃん!」
「……」
うーん、なんか重い話になってきたな。
仕方ない、ここは仲間の意見を聞こう。
「ナタリア、アリシア。 君らの意見を聞きたい」
「そうですねえ、いいんじゃないでしょうか。
勇者と共に戦った種族はその後、人族の社会で厚遇されます。
勇者様と私で人族二人、アリシアさんで獣人一人。
そしてこの子が加われば、亜人が一人。 職業構成も種族構成も
ちょうどいいバランスになると思いますわ」
なる程、勇者の盟友にはそういう政治的な背景もあるのか。
そういう意味じゃナタリアの言うようにこの構成は理想的と言えるが……
「アタシはどっちでもいいわよ。 勇者様の決定に従うわ」とアリシア。
アリシアは喋り方通りさばさばした性格なんだろうな。
「うむ。 つまり君達二人は賛成というわけなんだな?」
「そうですわ」「そうよ」
まあならいいか。 だが俺はけっして幼女愛好家ではないぞ?
あくまでラルレイアが戦力になりそうだから、
パーティに加えるんだからな?
「……わかった。 ラルレイア、君の力を貸して欲しい」
「やったー! お兄ちゃん、ありがとう! あたち、頑張るよ!」
こうして勇者の盟友が正式に決まった。
人族の賢者のナタリア・バロンナイツ。
猫妖精族の魔剣士アリシア・レッドマーベル。
そしてドワーフ族の魔法銃士のラルレイア。
俺はこの三人と共に魔王と戦う事となった。
とりあえず超美少女一人、美女一人。 ついでに幼女一人という構成。
まずは最初の狙い通り全員女でパーティを組んだ。
まあ幼女のラルレイアは俺の守備範囲外だがな。
兎にも角にもこの三人と力を合わせて、魔王討伐を目指そう。
「うむ。 どうやら盟友選びも終わったようじゃな?
これは少ないが旅の資金にするが良い。 それでは勇者ユーリス。
そしてその盟友達よ。 卿らが無事魔王討伐する事を祈ってるよ」
「ははっ! 国王陛下のご期待に添えるように尽力したいと思います」
「うむ、では行くが良い。 勇者とその盟友達よ!」
「ははっ! 必ず魔王を倒して、世界を平和にしてみます」
こうして俺の魔王討伐への成功物語が始まった。
公約通り魔王は倒すつもりだ。 だが俺は王族や貴族の道具では終わらない。
隙あらば成り上がる為に手段は選ばないつもりだ。
それが俺が勇者をやる本当の目的だ。
軽蔑したけりゃすればいいさ。 でも俺は善意だけで生きるのは御免だ。
とりあえず当面はナタリアと仲良くなる事が最優先だ。
というか国王の旅の支度金はたった十万ラン(約十万円)だった。
魔王討伐の支度金がこれかよ。 マ、マジでしけてるねえ。
やはり俺は間違ってない。 必ず俺は勇者として成り上がってやるぜ!