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第一章 其の二

 

 今まで様々な修行や訓練を受けてきたが、

 正直まともに戦ったら、勝機はほぼないに等しい。


 何故なら俺には、守護聖獣しゅごせいじゅうの加護がないからだ。

 この世界では、十五歳で成人を迎えたら、両親のいずれから、

 守護聖獣なる存在を継承する事になっている。


 守護聖獣と契約する事によって、様々な恩恵を受ける事が可能だ。

 例えばモンスターなどを倒して得られる経験値エクセリア

 守護聖獣を介してでないと、ちゃんと受け取る事が出来ない。


 守護聖獣は云わば神の化身。

 各種族の頂点に立つ神の化身の聖獣せいじゅうと契約する事によって、

 契約者は経験値蓄積によるレベルアップやステータス向上の恩恵を

 受ける事が可能なのだ。 要するに守護聖獣との契約は、

 勇者や冒険者にとって、絶対に欠かす事が出来ない過程なのである。


 俺はこの勇者の試練で何らかの形で、親父の守護聖獣を

 継承するとは思っていたが、まさかこんな形とは想像外だった。

 こっちは云わば、レベル1の状態に対して、

 向こうは守護聖獣の恩恵に受けた歴戦の勇者。


 これで勝てというのは無理がある。

 やべえな、そう思いながら俺は乾いた唇を舌で舐めた。


「どうした、ユーリス? まさか守護聖獣の恩恵がない事が不服か?

 だがこれは私だけでなく、多くの勇者が歩んで来た試練だ。

 勇者の力は絶大だ。 だからこそ継承する相手は慎重に選ばねばならん。

 例えば真面目に勇者をする気のない者に、この力を与えるわけにはいかん!」

 

 そう言って鋭い目つきでこちらを睨む親父。

 クソ真面目な親父の事だ。 先日の一件で俺の本性を知り、

 深く失望したのであろう。 息子のような人間に勇者を継承させてはいけない。

 それならばまた私が勇者として、魔王と戦う!

 みたいな事を思っているのであろう。 まあ親父の気持ちも分からなくはない。


 だがもうすぐ四十しじゅうを迎えようとする中年男に再び勇者として、

 魔王と戦わせる状況は、いくら鬼畜な俺でも耐えられない。


 親父、アンタはもう充分頑張ったよ。

 だからもう静かに余生を送るがいいさ。

 しかし俺が圧倒的に不利な状況には変わらない。


「ハアアアアァッ! ――ダブル・ストライクッ!!」


 気勢と共に凄まじい速度で、白銀の刃が眼前に迫り来る。

 親父の二連撃が繰り出されるが、俺は片手直剣で防御ガードに徹する。

 剣と剣が、金斬り音を立てて、切り結び、周囲に火花を飛び散らす。


 幾度目かに切り結んだ時、俺と親父は、

 武器を押し合いながら、間近で睨み合う。 

 親父は、不意に双眸を細めて、微笑を浮かべた。


「ほう、守護聖獣の加護なしで、私の剣技に耐えれるとは大したものだ」

「いや単純にアンタの力が衰えているんでしょ?」

「抜かせ!」


 俺達はそう言葉を交わして、再び間合いを取った。

 もっともこれは俺の強がりに過ぎない。


 実際は親父の剣を受ける度に、両腕や両手が異様に痺れた。

 流石は魔王を倒した勇者様だ。 その実力は本物だ。


 だが親父の力が衰えているのも事実であろう。

 そうでなければ、守護聖獣の恩恵なしのレベル1の俺に

 魔王を倒した勇者の剣を受け止めれる道理はない。


 いくら勇者とはいえ、寄る年波には勝てぬという事か?

 それならば、俺にもまだ勝機はある。

 そう思いながら、俺は全身に炎の闘気とうきを纏った。


 闘気は魔力を変換する事で、任意の箇所に纏う事が出来る。

 例えば両足に纏えば、ジャンプ力が著しく飛躍するなど、

 身体能力が大幅に向上する効果がある。


 また武器に纏えば、武器の威力や硬度も増す。

 更には魔法同様に闘気にも、四元素に光と闇を加えた六属性があり、

 それらの属性を纏う事で様々な効果を得る事が出来る。


 俺は守護聖獣の恩恵は受けてないが、

 闘気の扱いに関しては、少々自信がある。

 なにせ俺は五歳の時から、親父に剣術や魔法の英才教育を受けてきた。

 だから闘気を自由自在に操れるし、二つの属性を合成させた

 合成魔法ごうせいまほうを使う事も出来る。

 

 剣術では流石に先代の勇者には、勝てない。

 だが闘気の扱いや魔法に関しては、こちらに分がある……と思いたい。


「何やら色々思案しているようだが、私に小細工は通用しないぞ。

 お前も男なら正々堂々勝負するがいい。 ――行くぞっ!!」


 親父は大仰おおぎょうな台詞を吐いて、こちらに目掛けて突進してきた。

 そして次の瞬間、親父が手にした長剣を、物凄い勢いで叩き込んだ。 


 だが俺も素早く手にした直剣を翻して、白銀の刃を受け止める。 

 硬質な金属音が周囲に響き渡り、俺達は、一合二合と切り結んだ。

 うむ、やはり手が痺れるが、受け止められないレベルではない。

 というか親父の奴は、闘気を纏っていないようだ。


 この圧倒的に有利な状況で、闘気を纏う事に躊躇っているのか。

 あるいは勇者としての自尊心プライドか?

 いずれにせよ、そういう余裕や無駄な自尊心プライドは、

 戦いの場においては邪魔にしかならん。 


「なかなかやるではないか! ならばこれならばどうだ!!」


 親父が再び斬撃を放つが、俺も手にした剣で斬り返す。

 鋭く速い斬撃が眼前を通過し、一度防げば次には二度の剣閃が迫ってくる。


 正面で向き合った瞬間、親父は栗色の髪を翻し、懐へ、側面へ、

 死角へと回り込み怒涛の乱打ラッシュを繰り広げた。 

 だが俺もその怒涛の乱打ラッシュを必死に剣で防御ガードする。



「――甘いっ!」



 親父はそう言いながら、渾身の薙ぎ払いを放った。

 俺も即座に剣で防御ガードするが、勢いに押されて、

 後方にやや吹っ飛んだが、剣を床に突いて転倒を防ぎ、踏みとどまった。


 やはり剣術では勝ち目がない。

 だがよく見ると親父は「ぜいぜい」と呼吸を乱し、肩で息をしていた。


 スタミナ切れか? 勇者様も歳には勝てないようだな。

 どうやら苦しいのは俺だけじゃなさそうだ。

 どのみちこのままではジリ貧だ。 俺も覚悟を決めて勝負に出よう!


「もうスタミナ切れか? 勇者も案外だらしないんだな。

 大丈夫さ、後は俺に任せて、父さんは大人しく隠居しなよ?」

「まだだ……まだ私は戦えるっ!」

「無理するなって!」


 そう言いながら、俺は両足に風の闘気を纏い、全力で床を蹴った。

 約五メートルの距離が一気に詰まる。


「ちっ、やらせはせん!」


 即座に水平に白銀の長剣を振るう親父。

 俺はそれを大きくジャンプして回避。

 そして親父の背後に回る。 即座に右手に炎の闘気を宿らせて、

 腰を内側に捻り、渾身の右ストレートで親父の背中を殴打。


 背面攻撃に加えて、炎の闘気を宿らせた渾身の一撃。

 その破壊力に歴戦の勇者も「うおっ」と呻き声を上げて、

 よろめきながら千鳥足で、前へ何歩か進んだ。


 流石は勇者様。 今の一撃で倒れないところは流石だ。

 だがそれがかえって大きな苦痛を招く事になるのさ!

 俺は素早く前進して、右掌に光の闘いを纏い、

 親父の背中に掌底打しょうていうちを喰らわせた。

 「ぐほっ」と喘ぐ親父。


 そして炎属性と光属性が交わり、魔力反応「溶解ようかい」が発生。

 二つの属性が交わると、このような魔力反応が起こり、

 それらを生かした攻撃方法は、連携攻撃や連携魔法と呼ばれている。


 そしてこうして単独で連携攻撃するのは、

 単独連携たんどくれんけいと呼ばれる高等技術だ。


 炎と光が交わり、高熱が発生して、

 親父の豪奢な白銀の鎧の表面から蒸気が発生して、鎧をゆっくりと溶解させる。

 だがそれでも親父は戦意を失わない。 ぎりぎりと歯軋りしながら――


「み、見事な攻撃だ。 流石は我が息子。 だが惜しむべきはその精神。 ユーリスよ、勇者には何よりも自己犠牲精神が大切なのだ。 だから勇者は無欲であるべきだ。 この言葉の意味はわかるか?」


 うーん、親父も頑固だなあ。

 言わんとする事は分かるが、それで自分が不幸になっちゃ意味ねえじゃん。

 まあでも俺もこれ以上実の父親をなぶるのは、正直辛い。


 だからここは――


「父さん、そ、そんなになってまで戦うなんて凄い!

 そ、そうか。 俺が間違っていたよ。 勇者はただ強いだけじゃ駄目なんだ。

 俺は父さんから高潔な精神を学んだよ。 だから俺は人族を救う為に

 己を犠牲にするよ。 そ、それこそが勇者に必要不可欠なものなんだね!」

「よ、ようやく分かってくれたか?」


 ゴメン、親父。 全部口からの出任せだよ。

 でもこれ以上俺もアンタを攻撃したくねえんだよ。

 そういう意味での鬼畜にはなりたくない。 だからあえて

 ここはアンタを理解したように見せかけて、話をまとめるよ。


「ああ、俺は父さんの代わりに世界を救うよ。

 今分かったよ、俺はその為にこの世に生まれてきたんだよ!」

「そ、そうか、ならば私の仕事はもう終わりだ」


 そう言ってその場で崩れる親父。

 俺は床に倒れそうな親父を両腕で抱える。


「おお、なんという美しい光景だ。 これこそ親子愛だ!」

 と、玉座に座りながら感嘆の声を上げる国王。

「うむ、父を越えた子が父を抱き抱える。 これぞ親子愛ですな」

「そうですな。 実に感動的な場面だ」


 高みの見物をしている連中が口々に適当な事を言う。

 まあこういう連中には、こういう分かり易い演出が効果的だ。


 どうせこいつ等は何もしない。 だけど無責任な立場で、

 こういう光景を見れば、周囲の空気を読んでこのように悦に浸る。

 ならば精々、感動的な場面を演出してやるさ。


「ユーリスよ、では我が守護聖獣を受け取るがいい」


 親父がそう言うなり、親父の頭上に光り輝く白い天馬ペガサスが現れた。

 おお、これが勇者の守護聖獣か! 天馬ペガサスか、いいじゃん!


「我は守護聖獣ペガサス。 勇者ユンベルクの子ユーリスよ。

 汝は魔王を倒して、世界を救う為に我と契約するか?」

「ああ、だから私に力を貸してくれ、ペガサスよ」

「うむ、良かろう。 我はペガサス。 汝ユーリス・クライロッドよ。

 我と力を合わせて、共に魔王を討とうではないか!」


 そう告げると、光り輝く白い天馬ペガサスは、

 明滅しながら、俺の胸部に触れて、その姿が消滅する。

 すると俺の全身に眩い光が包み込んだ。


 うおおお……おおおっ!!

 凄い、凄い力が全身から漲ってくるぞ!

 これが勇者の守護聖獣の力なのか!


「どうやら無事継承できたようだな、 後は任せたぞ、ユーリス」

「ああ、父さん。 必ず世界を救ってみせるよ!」

 

 これで俺は正式に勇者になったわけだ。

 ふふふ、ふふふふふふ、ふはははははは!

 凄い、凄過ぎる。 この力があれば魔王討伐どころか、

 世界征服も夢じゃねえ。 いいね、いいね、夢が膨らむぜ!


 だがとりあえず今は魔王討伐に専念しよう。

 その後の事はまたその時考えればいいさ。

 だから俺は人前では、精々清く正しい勇者を演じてやるさ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 晴れて勇者になれて良かったです! そして、バトルのシーンでは事細かに書かれていたのでわかりやすかったです。
[良い点]  迫力ある戦闘シーンです❗  二人の動きが目に浮かぶように書かれて、映画のワンシーンを観ているようでした。  凄い文章力ですね❗  とても圧倒されました❗ [一言]  お陰様でやっと脱スラ…
[良い点] 人というものは得てして裏と表があると言いますが、ここまでくっきりと。 そしてそれを他人に見せずにしっかりと使いこなすユーリスさん凄い。 これからの鬼畜勇者としての活躍。 こっそりと楽しませ…
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