エピローグ
俺達は魔王討伐を終えて、王都アールハイトへ帰還。
すると国王アレクセイ四世をはじめとした国の重鎮から手厚い歓迎を受けた。
俺は魔王を倒した証として、魔王の宝玉と魔剣ラバルカスを国王に献上した。
これによって魔王討伐を疑う者は居なくなり、俺達は名実共に英雄となった。
それからは夜会や晩餐会に毎夜招かれ、貴族や貴婦人達から持て囃された。
まあ正直それ自体は悪い気分はしなかった。
多くの貴婦人から「勇者様、凄いですわ」とか「私と踊ってください」などと
言われて、慣れないダンスを毎夜踊った。 毎晩ご馳走と美酒。
それに魔王討伐の恩賞として、俺個人に五千万ラン(約五千万円)と
伯爵の爵位、それと俺の実家の周辺に多くの領地を貰い受けた。
これ自体は素直に喜んで受け取った。
金や爵位、領地はあって困るものじゃないからな。
だが俺自身は何処か冷めた気分になりつつあった。
魔王を倒す前は、あれ程、富や名声を求めたが、いざ手にしてみると
「なんだ、こんなものか?」という何処かシニカルな気分になった。
まあ富や爵位、領地を手放す気はないが、
人々からの賞賛の言葉はやや食傷気味だ。
妙齢の御婦人から「勇者様、素敵ですわ」と言われても、この女性は
勇者という立場の俺に興味があって、
俺個人には興味がないとか思うようになった。
不思議なものだ。 アレだけ金が欲しい、権力が欲しい、女にモテたい!
と思っていたのに、現実のものになると何処か冷めた自分が居た。
今なら親父の言っていた言葉の意味が分かる気がする。
とはいえ今更模範的な勇者になる気もない。
……まあいいや、とりあえず実家に帰ろう。
「……ただいま、父さん」
「……おかえり。 良くやったな、ユーリス!」
数ヶ月ぶりの実家に加えて、父親との会話。
父さんは微笑を浮かべて、俺を温かく迎えてくれた。
そして魔王討伐後の俺の素直な心情を父さんに打ち明けた。
すると父さんは顎に指を当てて「うむ」としばらく考えて込んでから――
「そうか、お前は名実共に真の勇者になったんだな」
と、だけ漏らした。
「……それどういう意味?」
すると父さんは俺に視線を向けて、にっこりと笑った。
「実はな、父さんも現役時代――つまり勇者をやっていた頃には、
心の奥底にはそれなりの野心や邪知な欲望があったんだよ」
初めて聞いたぞ。 ちょっと信じられないな。
「だがいざ魔王を倒して、国に帰り色んな人々から賞賛されてもな。
何処か空しい気分になった。 だから父さんは俗世間から離れる事にしたんだ。
愛する妻と息子。 それさえあれば後はどうでもいい。 と思ったのさ」
なる程、今なら父さんの気持ちが分かる気がする。
「まあでも俺はお前の言うように愛する女性一人守れなかった。
だからお前には同じ轍を踏んで欲しくない。 無償の労働や自己犠牲は
美徳とされるが、それで本人やその家族が不幸になっては意味がないからな。
そしてお前は栄光を手にしても、冷静に自分を分析できる。 それが真の勇者さ」
「……父さん、俺、酷い事を言ったね、ゴメンッ……」
「気にしてないさ。 ユーリス、今から母さんの墓参りに行かないか?」
「……いいよ。 俺も母さんに色々報告したい気分だよ」
そして俺達は家の正面玄関を開いて外に出ようとしたが――
「あっ、こんにちは。 ユーリス様」
何故か家の前にナタリアが立っていた。 なんで彼女がここに居るんだ?
「あ、ユーリス様。 それと先代勇者様、はじめまして!」
と、薄い緑色の法衣姿で綺麗にお辞儀するナタリア。
「よろしく、ユーリスの父ユンベルクです」と自己紹介する父さん。
「……なんでナタリアが俺の実家に居るんだ?」
素朴な疑問をぶつける俺。 するとナタリアは少し頬を膨らませて――
「あら? 来ては行けませんの? 私はユーリス様が急に王都から発ったので、
心配して後を追ってきたのです」
「ああ、そうか。 でも君だけでなく、アリシアやラルも個人個人に、
恩賞を受け取っただろ? もしかして俺の報奨金も分けて欲しいのか?」
「ち、違いますわよ! わ、私はそこまで守銭奴じゃありませんわ!
私は純粋にユーリス様を心配していただけですわ!」
そうなんだ。 意外と優しいところもあるんだな。 少し見直したよ。
「それはどうも。 まあそんなに心配する事はないさ。
なんかいざ魔王を倒してみたら、なんか妙に冷めた気分になってな。
だから色々煩わしいから実家に帰ったのさ」
「……私も最初こそ過剰な接待、歓迎に感激しましたが、
だんだん疲れてきましたわ。 だからユーリス様の気持ちも少し分かる気がします」
「そうか、ならナタリア――」
「ごめんなさい! まだお付き合いするのは無理です!」
いや違うって! なんで俺、いきなり振られているのよ!?
「い、いや違うよ。 良かったら俺の母さんの墓参りを付き合わないか?
って言おうとしただけなのに、何で急にフラれるんだよっ!?」
「え~、でも冒険中は常に私の事を視姦していたじゃないですか?」
してない、してない!
……多分してない。 というか親父の前で何を言うんだよ!?
「……でも魔王を倒したから、君からすれば俺は用済みなんじゃ?」
「あ、あのですね。 私はそこまで酷薄な人間じゃありませんよ。
それにユーリス様がどうしてもというなら、お友達から始めてもいいですよ?」
ん? 何だ? これって遠回しのアピール。
でも彼女の本性を知ったからなあ。
まあ外見は完璧美少女なんだが、内面は結構俺に似ているからなあ。
「あら? あたしならいきなり恋人でいいわよ?」
と、ナタリアの後ろからアリシアが現れた。
「あたちはまだ結婚できない年齢ですが、お兄ちゃんなら結婚していいですよ!」
と、アリシアの横からひょこっと顔を出すラルレイア。
なんだ、この二人も来ていたのか。
というかどさくさに紛れて何を言っているんだ?
「おお、アリシア、ラル。 お前等も墓参りに付き合うか?」
「いいわよ、勇者様」「うん、お兄ちゃんっ!」
「ちょっと二人とも抜け駆けはなしですよ? というかユーリス様は誰を選ぶの?」
「あははは。 ユーリス、お前モテモテじゃないか?」と、父さん。
「とりあえず今は誰とも付き合う気がない。 まあとりえずお友達から
始めようぜ? それでゆっくりとお互いの事を知っていけばいいんじゃないのかな?」
「な、なっ……この私のラブコールを無視ですか?」と、地団駄を踏むナタリア。
「いや君、外見は完璧だけど、内面が少しアレじゃん?」
「ゆ、ユーリス様だけには言われたくないですわ!」
「そんな事より早く母さんの墓参りに行くぞ!」
「そ、そんな事よりってどういう意味ですかっ!?」
やれやれ、騒がしい連中だ。
でも俺を心配して、わざわざ訪ねて来るなんて可愛いところあるじゃねえか。
まあ以前の俺なら『全員妊娠させてハーレムエンドだ!』とか
のたまっただろうが、今は何処か達観した心境で、
彼女らと接する事が出来る。
「ごちゃごちゃ言わず、俺の、勇者様の後をついて来い」
すると彼女らは笑顔になり、
「ようやく調子が出ましたわね」と、ナタリア。
「だね」「そうでちね」
そして俺達は母さんの墓地がある丘へと向かった。
こうして、俺の人生に一区切りがついた。
だがこれで俺の物語が終わったわけではない。 むしろこれからが本番であろう。
いずれは魔王と再び戦う日が来るであろう。
あるいはその前に王族や貴族から何かされるかもしれない。
まあその辺の事はおいおい考えるとして、今はしばらくゆっくり過ごしたい。
「ユーリス様、待ってください」
「早いよ、勇者様」「お兄ちゃん、待ってよ」
「父さんはあえて何も言わんよ。 お前の意思で決めなさい」
と、後ろから追いかけてくる俺の仲間。
あと父さん、ちょっと気が早いよ。 と思わず苦笑してしまった。
――今この瞬間、結構幸せかもしれないな。
俺はそう思いながら、軽い足取りで丘を駆け抜けた。
エピローグ・おわり
「真面目に勇者なんかやってられるか!? 俺は鬼畜勇者になる!!」・おわり
これで「真面目に勇者なんかやってられるか!?
俺は鬼畜勇者になる!!」の物語は終わりです。
それでは編集さんから頂いた評価シートの内容を記載しようと思います。
総合評価5(10段階中)
世界を救ったはずが評価されない父の姿を見て、
鬼畜勇者を志すユーリスの物語。
テンポよく物語が進んでいくのですらすらと読むことができました。
一方で、魔王軍が現れる、ユーリスがだまし討ちで返り討ちにする
といったパターンが繰り返されるため、展開が一本調子に感じられました。
正統派主人公像を描こうとする意欲は伝わってきましたので、
ユーリスの魅力が伝わる様なシーンを考えてあげると良いかと思われます。
勇者だけど鬼畜というユーリスのキャラクターは立っており、
印象に残る登場人物でした。ナタリア達ヒロインにも、
魅力的な個性があると尚良かったと思います。
※10段階評価
キャラクター:4 卑怯な戦い方をするユーリスという
主人公の個性が印象的でした。
仲間のヒロインのキャラ造形に
もうひと工夫欲しかったです。
オリジナリティ:4 勇者が仲間とともに魔王をたおすという
王道的な展開であったため、
鬼畜な勇者の設定を活かすストーリーを考える
工夫があると思いました。
同時代性: 7 正統派のファンタジーではなく、
ちょっと捻った主人公が好きな人や
ウェブ小説を読み慣れた読者層に
受け入れやすい作品に感じました。
ストーリー:5 敵が現れてユーリスがだまし討ちをする、
という流れが連続で続いたり、
やや一本調子感はありました。
文章力 : 5 空行の多さが気になりました。
読みやすいように工夫が施されている点は
よいのですが、紙面で見た時にボリュームが
少ない印象を持たれてしまう懸念があります
まあこんな感じです。
やはり全体的に一本調子な感じでしたね。
鬼畜勇者というタイトルも若干タイトル負け気味ですね。
でも同時代性で7がついたのは少し嬉しいですね。
ただ全体的に少しマンネリ気味だったので、
やはりもう少しプロットをしっかり練って
書くべきだったと、思います。
ただ主人公が少し評価されたのは嬉しいですね。
その反面ヒロインの評価は低いので、
今後の作品ではその辺を改善したいと思います。
それと自分は長らく長編タイトルに抵抗あった口ですが、
一次選考落選が続き、この作品で心機一転で長編タイトルを
つけたら、一次選考突破という結果になりました。
まあ自分の拘りなんて他者から見れば、
その程度なんですよね、現実は得てしてこんなもんです(苦笑)。
では改めまして。
ご愛読、誠にありがとうございました。