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最終章 其の三

累計2500PV達成!

これも全て読者の皆様のおかげです!



 そして俺達は風の闘気を両足に纏い、

 半壊した中央階段をジャンプして、飛び越えた。

 この城は思った程、広くない。 魔王が居るとしたら、三階か、四階か?

 などと考えていたら、新たな敵がこちらに駆けつけて来た。



「凄い爆音がしたと思ったら……貴様ら何者だぁっ!?」

「お、おいっ! その男の頭上に浮遊しているのはペガサスの守護聖獣じゃないのか?」

「な、なっ……本当だ。 という事はこいつ等は勇者一行か!?」



 やれやれ一難去ってまた一難か。 まあここは敵の居城だからな。

 当然そう簡単には魔王のもとに辿り着けないであろう。



「うろたえるな、貴様ら。 むしろ手柄を立てる絶好の機会と思えっ!」


 慌てふためく兵士達を押しのけ、耳の尖った金髪の美形の男が前へ歩み出た。

 こいつ、もしかしてエルフ族か?


「……貴様、エルフか?」

「そうだ。 正確にいえばダークエルフだ。 勇者ユーリス!」


 エルフは総じて男女共に美形だが、自尊心が高く、非常に排他的な種族で、

 他の亜人や魔族からも嫌われている。 ダークエルフは、そのエルフの中でも、

 抜きん出た存在であり、自らこそが至高の存在と信じてやまないとの噂だ。


「フフッ! 我が名はアーバイン。 魔王軍親衛隊の親衛隊長だ。 

 勇者ユーリス。ここで貴様と出会ったのも、何かの縁、

 貴様の首はこの俺が貰うっ!」



 他の兵士同様に漆黒の鎧を纏い、

 手にした戦槍せんそうを前に突き出すアーバイン。

 やれやれ、こいつの相手をしている暇はねえんだけどな。 

 やるしかない――



「おっと……アンタ如きが勇者様と戦うなんて百年早いわよ。

 アンタの相手は、この魔剣士アリシアがしてやるよ!」


 と、アリシアが前へ歩み出た。


「あん? 貴様、猫妖精族ケットシーか?」

「そんな事はどうでもいいんだよ! 勇者様、ナタリア。 

 今のうちに先に進んで!ここはあたしとラルで食い止めるからっ! 

 はあぁっ……『マインド・リンク』ッ!」

「了解です、アリシアお姉ちゃん。 お兄ちゃん、ここはあたち達に任せて!」



 そうだな、ここはアリシア達に任せた方が賢明かもしれんな。

 俺とナタリアはお互いに顔を見合わせてから、小さく頷いた。



「分かった。 ここは二人に任せるぜ! 絶対に生き残れよっ!」

「アリシアさん、ラルちゃん。 後は任せたわよっ!」


 俺とナタリアがそう声をかけると、二人は右手でサムズアップする。

 悪いな、アリシア、ラル。 必ず生きて再会しような。 

 その時には飯を奢るぜ。


「ナタリア、あの階段を登って、一気に三階へ行くぞ」

「はいですわ!」



 そう言葉を交わしながら、俺達は全速力で三階への階段を駆け登った。

 階段を登り三階に駆け登ると、二名の警備兵が待ちかねていた。

 しかし敵は俺達を見て明らかに動揺している。 ――ならば!



「――遅いぜっ!」


 俺は即座に間合いを詰めて、素早く剣を振るった。

 一人目は喉笛を、二人目は額を狙い、瞬く間に二人を切り捨てた。


「ぎゃあああっ」



 テンプレ通りの断末魔を上げる二人。

 後はこの長い渡り廊下を渡りきれば、多分魔王の所に辿り着く筈だ。

 だが廊下の中央付近で、漆黒のローブを着込んだ女の魔族が待ち構えていた。



「おっとそれ以上進むんじゃないわよ!

 ここを通りたければ、この魔導師ロマリーを――って!?」

「問答無用ですわっ!! 『プラズマ・バスター』!!」



 相手が名乗り終わる前に、ナタリアが得意の電撃魔法をぶっ放した。

 ナ、ナタリアさん、容赦ねえなあ。


 散々人の事を「引く」とか「ないわぁ」とか言ってたけど、

 俺は今のアンタに本気でドン引き状態だよっ!?



「な、何さらすんじゃ! このクソ女ッ!」



 どうやら眼前の魔導師ロマリーさんは、咄嗟に対魔結界を張ったらしい。

 おかげでほぼ無傷状態。 

 だが柳眉を逆立てて、凄い剣幕でナタリアを罵倒する。



「あら? この生ける聖女の私に対して、

 クソ女とは随分言ってくれますわね」

「ハアァッ? 誰が聖女だよっ? 

 お高く留まってんじゃねえぞ、クソビッチッ!」

「うふふふ、この完璧美少女の私に対して、

 ビッチ呼ばりするとはいい度胸ですわ」

「ハア? 自分で自分の事を完璧美少女とか

 言ってて恥ずかしくないの? ねえ?」



 うわあぁっ……。 この短期間の間でよくお互いにここまで罵倒できるなぁ。

 まあロマリーさんが怒る気持ちも分かるが、ナタリアさんもブレないなあ。

 でも俺の中のナタリアさんの好感度はブレそうです……。



「恥かしくなどないですわ。 何故ならそれは真実だからです」

「へ? アンタ、頭大丈夫? よくもそう自画自賛できるわね?」

「だって事実ですから、てへっ」と言いながら可愛く舌を出すナタリア。

「ぺっ……やってらんねえ~。 もういいわ。 お前はこの私がぶっ殺す!」



 ロマリーさんはそう言って、手にした両手杖で前方にぐっと突き出した。

 対するナタリアさんも手にした両手杖を構える。



「ユーリス様。 この女は私が食い止めますから、先に進んでください」

「あ、ああっ……分かったよ」

「大丈夫です、こんな雑魚女すぐに秒殺しますわ。 

 私も魔王と戦いたいですから!」

「はんっ! 舐めるんじゃないわよっ!」



 そう言って二人は全身から魔力を解放し始めた。

 なんか女の子に対する幻想が打ち砕かれた気がする。

 あれが女の本性だったら、僕ちゃん、今後女の子と付き合えないかも……。



 まあ多分あの二人は例外だ。 うん、そうだと信じたい。

 なんて思っている間に、二人の女によるキャットファイトが始まった。

 二人とも魔法職なのに、何故か両手杖を振り回して、チャンバラを始める。

 なんかこれ以上見ていると、女性不信になりそうだな。 ――先へ進もう……。



 ハアハアハァ。

 俺は全速力で廊下を駆け走り、大きな鉄の扉の前に辿り着いた。

 扉越しにも凄い魔力を感じる。 間違いない、この先に魔王が居るっ!?



 俺は目の前の扉を開き、中へ突き進んだ。

 室内は他と同様に黒と白を基調にした内装で、部屋の真ん中に、

 金の刺繍がほどこされた豪奢な赤い絨毯が敷かれていた。

 そしてその赤い絨毯の終着点である玉座に容姿端麗な魔族が座っていた。



 綺麗な白銀の長髪に、切れ長の緋色の瞳。 

 鼻筋も高い。 うん、イケ面だ。

 派手な漆黒のコートを見事に着こなし、優雅な仕草で玉座に座っている。

 間違いない、こいつが魔王だ。 今までの魔王軍の幹部も強敵だったが、

 こいつの放っている闘気や魔力は段違いだ。 やべえ、勝てるかな?



「遂にここまで辿り着いたか、勇者よ」


 声も凄く美声だ。 

 だがこの場の空気に呑まれてはいけない。


「……貴様が魔王か?」


 俺も負けじと勇者らしく、威厳のある声でそう返した。


「いかにも。 余が魔王。 魔王ガルガンガニスだ。 勇者よ、貴様の名は?」

「……ユーリス、ユーリス・クライロッド」


 とりあえず俺も自己紹介する。

 お互い名前くらい名乗っても罰は当たらないだろう。


「勇者ユーリスよ。 貴様の噂は耳にしているぞ。 

 勝つ為には、手段を選ばぬとな。

 だが余は貴様のそういう部分を高く評価している。 

 余は先代の勇者を目にした事もあるが、貴様はまるで違うな。 

 実に勇者らしくない。 だがそこが良い!」



 何だ、コイツ? 急に自分語りを始めたぞ?

 というか親父を知っているのか。 

 そりゃ親父とは違うさ。 ……親子だけどね!



「どうだ、今からでも遅くない。 勇者よ、余に仕えてみないか?

 さすればこの世界の半分を貴様にくれてやろう!」


 なんか何処かで聞いた気がする言葉だな。 ……多分気のせいだ。

 ……世界の半分ね。 なかなか魅力的な提案だ。 だが俺が選んだ選択肢は――


「……だが断るっ!!」



 これも何処かで聞いた台詞だが、一度言ってみたかったんだよな!

 おお、いい場面で最高の台詞が言えた。 ナタリア達に聞かせたかったぜ!

 すると魔王は微笑を浮かべながら、こう問うてきた。



「ほう、意外と無欲なんだな。

 それとも勇者としての誇りは持ち合わせているのか?」


 と、興味深そうに俺を見据える魔王。

 だが残念ながらそうではない。 俺は無欲どころか究極の強欲なんだっ!


「違うね。 世界の半分なんかじゃ物足りねえんだよ。

 云うならば、俺は世界の全てが欲しい。 

 人族や亜人、獣人、いや魔族もいいぞ。

 それらの種族の美人という美人をかき集めて、

 俺だけの楽園を築くのが、俺の野望だっ!!」



 ドヤッ!! 俺は自分の中に潜む願望を躊躇なく言い放った。

 我ながら酷い願望と思うが、これが俺の本心だ。 

 そしてこの願望を叶えるには、この眼前の魔王を倒して、

 英雄になる必要がある。 つまり俺は何があろうとも、

 この男とは戦わなくてはならない。 これが勇者に定められた宿命なのである。



「……それが貴様の本音か?」


 と、やや顔を引きつらせながら魔王。


「ああ、だから悪いがお前には死んでもらう!」


 台詞はカッコいいが、目的は最低極まりない。 だがそれでも構わない。

 散々強敵と戦わされて、ろくな支援もなく魔大陸を放浪し、

 仲間からはガチで引かれて、ようやくようやくここまで辿り着いたのだ。

 全てはこの日の為に! 俺による、俺だけの、俺の為の酒池肉林の世界の為に!

 俺はこの男と――魔王を戦うっ!!


「ふ、ふざけんじゃねえぞ、てめえっ!?」


 え? なんか魔王が顔を真っ赤にしてキレ始めたぞ?


「てめえ、本当に勇者か? 

 なんだ、その欲にまみれた願望はっ!?

 聞いているこっちが恥ずかしくなってきたわ! 

 というか何なんだ、お前はっ!?

 お前それでも勇者かっ!? 

 もう少し真面目に勇者やれよ、この野郎っ!!」



 物凄い早口で呼吸を乱しながら、そう喚き叫ぶ魔王。

 ある意味正常な反応だよな。 でもこの程度で挫ける俺じゃない。



「残念ながら、真面目に勇者をやるつもりはない。 俺は親父のように

 王族や貴族の都合の良い道具にはならない。 俺は勇者というブランドを

 最大限に生かして、この世界で成り上がってみせる。 それが俺の夢だ」

「親父? やはり貴様はあの先代勇者の息子か? あんな立派な男から、

 こんなどうしようもない奴が産まれるとは、とんだ笑い話だな」



 うん、ある意味正論だ。 というか魔王より俺の言動の方が魔王っぽい。

 というかコイツもなんか魔王っぽくないよな。 いや最初こそ魔王っぽく

 振る舞っていたが、徐々に素の性格が浮き彫りになってるな。



「何とでも云え。 どのみち俺とお前は戦う運命にある。

 俺が強いか、お前が強いか。 さあ、魔王よ。 

 それを確かめようじゃないか?」

「……良かろう。 貴様のような邪悪……というか鬼畜勇者は非常に危険だ。

 このクレセントバルムの平穏の為に、余が貴様の野望を打ち砕いてくれよう!」



 そう言って、魔王は玉座から立ち上がり、右手を頭上にかざした。

 すると魔王の頭上に漆黒の一角獣ユニコーンが現れた。

 あれが魔王の守護聖獣か? ならばこっちも守護聖獣を出すぜ!



「――我が守護聖獣ブラユーンよ。 我の元に顕現けんげんせよっ!!

「――我が守護聖獣ペガサスよ。 我の元に現れよっ!!」


 互いにそう叫び、それぞれ守護聖獣を召喚した。

 こっちが白いペガサスに対して、魔王側はブラック・ユニコーン。

 なんというか守護聖獣からして、永遠のライバル、って感じだ。


「守護聖獣だけは見事だな。 鬼畜勇者には過ぎた代物だ」と、魔王。

「それでも俺が勇者であるという事実は変わらねえよ」

「ふんっ! まあ良い。 我は魔王、我が魔剣ラバルガスよ。 顕現せよっ!!」



 魔王がそう言うなり、魔王の手元に冥界の宝石のような妖しい輝きを放った、

 漆黒の長剣が突如現れ、引き寄せられた。 見るからに凄そうな魔剣だ。

 一方こちらは聖剣、なんて物はなく港町エルベーユで購入した銀の長剣。

 俺のレベルは41。 

 特別低くはないが、魔王と戦うには少々心もとない数値だ。



 対する魔王は全身から闇色の闘気と魔力を発し、その右手には魔剣が握られている。

 正直まともにやって勝てる相手ではない。 だが俺は引く訳にはいかない。

 俺がこの長いようで短い旅に出たのも、全てはこの時の為だ。



 魔王を倒せない勇者に価値などない。

 当然だ。 魔王を倒してこその勇者なんだ。 だから俺は戦うしかないんだ。



「――行くぞ、魔王!」

「――来い、勇者!」




次回の更新は2020年5月30日(土)の予定です。



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― 新着の感想 ―
遂に魔王との対決が始まりますね! 戦う前のやり取りも楽しませて頂きました。 ロマリーとナタリアの対決も迫力がありましたね。 言い合いの後の、杖で殴り合う場面が面白かったです!
[良い点] 何よりもまずですね。 ロマリーさんとナタリアさんの女性同士の頂上決戦的な戦い。 こちらにとはは注目させて頂きました。 いやぁ。タガが外れるとこうも言葉も、戦いもすごい解放されたものとなるの…
[良い点] 願望をドヤるところ、たまりませんね。
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