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第一章 其の一



「よく来たな、勇者ユンベルクの子ユーリスよ。 我こそは人族の王であるアレクセイ四世である。こうして卿をこの場に呼んだ理由は分かっておるな?」

「もちろんです、国王陛下」


 そう答え、俺は目の前の玉座に座る壮年の男にひざまづいた。

 頭に金の王冠を乗せた緋色のローブを着たこの壮年そうねんの男が国王だ。


 ここは王都アールハイトの居城であるアールハイト城の二階の大広間。

 王の周囲には、高級そうな礼服を着た恰幅の良い男――こいつが宰相だ。

 更に豪奢な甲冑を着た騎士らしき男――こいつは王国騎士団長か?

 その他にも近衛兵や執事やメイド達が立ち並んでいる。


 そしてその多くの視線が俺を見据える。

 好奇、興味、あるいは警戒心などが混ざった視線。


 まあ無理もない。 なにせ俺は勇者の子だからな。

 そしてこの後に勇者の試練を受ければ、正式な勇者になる。

 勇者の試練は国王が直々に立ち会い、その過程を見守る事になっている。


「うむ。 先代の勇者が魔王を倒して早二十年。

 魔族が住む魔大陸に新たな魔王が現れて、我等人族に宣戦布告をしてきた。 勇者の子ユーリスよ。 卿は勇者の試練を受けて、新たな勇者となり、魔王を討つ事をここに誓約するか!」

「ははっ! それが私の使命であります!」

「うむ、流石は誇り高き勇者の血筋。 余も卿には期待しておるぞ」

「身に余る言葉に恐縮しております」


 我ながら心にもない言葉がポンポン出るもんだな。

 だがこういう連中には、平身低頭の姿勢を貫くべきだ。


 それと大人の事を良く聞き、素直で明るい少年。

 そういう大人が望む理想の少年を演じれば、こういう連中には効果的だ。

 大体勇者の試練に王族が立ち会うのは、国事的な意味もあるだろうが、

 新たな勇者が自分達の制御下に収まるか、どうかを見極める意味もあるだろう。


 要するに世界を救うなんてのは建前。

 本音は自分達の地位と権力を護る道具の品評会、ってとこか?


「うむ、それでは勇者の試練を正式に受けるか?」

「はい、それが私に与えられた使命であります!」

「良かろう、ならばこの場にて勇者の試練を行う。

 騎士団長、この少年に剣を与えてやれ!」

「はっ! 受け取るがいい」


 そう言って騎士団長なる銀の甲冑の男が俺に白刃の片手直剣を手渡した。

 ほう、少々使い込まれているが、悪くない剣だ。


 というかここで勇者の試練を受けるのか?

 これは少し予想外だったぜ。


「――では勇者の試練を行う。 いでよ、勇者ユンベルクよ!」


 え? 勇者ユンベルクだって?

 俺は国王の視線の先を思わず目で追った。

 するとそこには、豪奢な白銀の鎧を纏った渋い中年の男が剣を片手に立っていた。

 俺は一瞬、呆気に取られたが、直に我に返った。

 間違いねえ、先代勇者こと俺の親父ユンベルクだ!


「勇者の試練、それは先代勇者と戦い打ち勝つ事だ。

 ユーリス、お前が勝てば名実ともにお前が新たな勇者になる。

 だがお前が負ければ、勇者の座は継承されず、

 先代勇者が再び魔王と戦う、これが勇者の試練の真相だ」


 やや芝居がかった台詞で、手にした白銀の片手長剣で俺を指す親父。

 なる程、勇者の子である俺にも勇者の試練の具体的な内容は、

 知らされてなかったが、こういう事だったのか。


「子はいずれ父を越えねばならん。

 先代勇者に勝てないようなら、勇者の資格はない。

 だがもし勝利を収めたら、お前は大いなる力を手に入れるだろう。

 さあ、どうする? お前は私と戦うか、それとも勇者になる事を

 諦めるか? 好きな方を選ぶが良いっ!」


 いつになく親父の表情が真剣だ。

 流石は先代勇者。 こういう勇ましい親父の姿は息子として誇らしい。

 だが俺も伊達や酔狂で厳しい修行を受けてきたわけではない。


 もしここで勇者になれなければ、俺は負け犬の人生を歩む事になる。

 そりゃそうだ。 勇者の子が勇者になれなきゃ存在意義が無くなる。

 冗談じゃねえ、俺は真面目に勇者をする気はねえが、

 勇者というブランドを自ら放棄するつもりは、微塵もねえ。


「当然戦うさ。 父さん、いや先代勇者よ! 

 我が名はユーリス・クライロッド! 貴方を倒して新たな勇者になる者だ」

「そうか、ならば手加減はしない!」


 そう言って手にした白銀の片手長剣を構える先代勇者。

 俺も騎士団長から手渡された白刃の片手直剣を前に突き出す。

 

「うむ、双方とも見事な覚悟じゃ!

 では国王の名において命ずる、双方とも正々堂々戦うが良い!」

「「はい!」」


 結果的に王の言葉が戦闘開始の合図となった。

 だが俺は摺り足で相手との距離を一定に保つ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの父親と戦うことになるとは! 続きが楽しみです。
[良い点] 読み始めました。 志が強い! 大願成就するように頑張れとなりましたが、試練がつらそう。 (。>ω<。)
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