第四章 其の二
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エルベーユから魔大陸に向かう定期船に乗って三日後。
俺達はようやく魔大陸に辿り着いた。
だが魔大陸の人族の船着場は、
船を着岸させるのがやっとというくらいの荒れ具合だった。
俺達を出迎えたのは、たった十人の人族の騎士と船乗りであった。
とりあえず船の積荷を降ろしてもらい、
責任者らしき騎士から簡単な説明を聞かされた。
「私は王国騎士団の騎士グレンです。
この魔大陸の船着場の責任者を任されております。
勇者様一行とお会いできて光栄です。 以後、宜しくお願いします」
「どうもです。 まあこんな小僧に頭を下げなくていいですよ?」
「いえいえ、そうはいきません。 それはさておき、見てのように
魔王軍の侵攻により、魔大陸における人族の拠点はほぼ壊滅状態であります。
故に非常に心苦しいのですが、人族の支援は期待できない状況と思ってください」
騎士グレンは、申し訳なさそうな表情でそう告げた。
まあそれは最初から分かっていたから、別に問題ない。
しかしこうしていざ魔大陸の大地に立ってみると、この大陸の特異さを痛感する。
今は午後の二時過ぎくらいの時間だが、周囲の気温は真夏のように高い。
湿気が強い暑さだから、立っているだけで額にじわりと汗が浮かんでくる。
「それは気にしませんよ。 ですが我々は魔大陸の知識はあまりありませんので、
簡単な説明をして頂けると助かります」
「そうですね、わかりました」
そう言いながら小さく頷いて、「コホン」と軽く咳払いする騎士グレン。
「ご覧の通り、魔大陸は昼間は砂漠のような灼熱地獄です。
砂漠に比べたら、樹木や水源があるだけマシですが、
魔大陸の水は魔力濃度が高いので、出来れば飲まない方がいいですね。
面倒と思いますが、魔法で生成した水を飲む方が安全です」
まあそうだろうな。
生水を安全に飲めるのは人族の領土でも多くはないからな。
少々面倒くさいが、水は俺やナタリアが魔法で生成した方が安全だろうな。
「了解です。 飲料水は自分達の魔法で生成します」
「はい、ですが夜間は非常に冷え込むのでご注意ください。
野営する際には、最低一人は見張り番を置く事を心がけてください。
ここのモンスターは魔力濃度の影響もあり、かなり狂暴ですから」
まあこの辺も事前に聞いてた通りだな。
とりあえず見張り番は俺とアリシアが交互でやるのが無難かな?
「とりあえず基本は馬車移動を心がけてください。 無駄な戦闘は極力避けるべきです。 私から言える事はこれくらいです。 では勇者様一行の御武運を祈っております」
「はい、必ずや魔王を倒して見せますよ!」
そして俺達は騎士グレンやその部下達に見送られて、馬車を走らせた。
魔大陸の大地はひび割れており、時々地面からじゅわと魔力が噴出される。
樹木も少なく枯れ木が目立つ。 これは想像以上に過酷な旅になりそうだな。
まあでも住めば何とやらというやつだ。
どのみちこれから先は、この魔大陸で過ごす事になる。
ならばこの環境に慣れるしかない。 そう、俺達は観光に来たわけじゃない。
魔王を倒しにこの魔大陸にやって来たのだ。 だから少々の事は我慢するさ。
「さあこれからが本番だ。 皆、気合を入れて行くぞ!」
「はいですわ」「了解」「了解でち」
その後、俺達は馬車のスピードに任せるまま、
ただひたすら魔大陸を駆け抜けた。 当然道中にモンスターが出現したが、
騎士グレンの助言通り、極力戦闘は回避した。
魔総帥ガーランドを倒した事により、俺のレベルも28から一気に35まで上昇。
これによって再び俺の能力値は強化され、新しいスキルや魔法も覚えた。
当然新しいスキルや魔法を使いたいという衝動に駆られるが、そこはあえて自重。
どのみちこれから先は、嫌と云う程、戦闘が繰り返されるのは明白だ。
なので無駄な消耗は避け、最短距離で魔王が住む魔王城を目指す。
とはいえ全ての戦闘が回避できるわけもなく――
「お兄ちゃん、アリシアお姉ちゃん。 光属性の付与魔法するよ?」
「おう、任せたぜ」「頼むよ、ラル」
するとラルが両手で持った銀色の魔法銃の銃口を空に向けて、発砲する。
次の瞬間には、俺達の周囲に眩く輝いた光の闘気が渦巻いた。
そして俺とアリシアは抜剣して、目の前のモンスターに向けて突貫する。
今、戦っているモンスターは、巨大な蠍のマッド・スコルピオンだ。
体長は二メーレル(約二メートル)くらいで、長い尻尾で標的を刺す。
尻尾の毒は猛毒で、解毒するには中級以上の解毒魔法が必須との事。
とりあえず俺とアリシアは解毒魔法を使えるナタリアを守る形で、
マッド・スコルピオンと対峙する。 ここでナタリアがやられたら終わりだからな。
「我は勇者、我はクレセントバルムの大地に祈りを捧げる。
母なる大地クレセントバルムよ。 我に力を与えたまえ!
行くぜっ! 『ライトニング・ブラスターッ』!!」
俺は万が一の危機に備え、接近戦は避け、
新たに覚えた英雄級の光属性魔法を放った。
まばゆい光線がマッド・スコルピオンに命中すると激しい爆発が巻き起こる。
爆発によってマッド・スコルピオンの身体が木っ端微塵に砕かれた。
思っていた以上に強力な魔法だな。 だが英雄級の魔法は魔力の消費も激しい。
なのであまり乱発は出来ないな。 ならばここは火力を落として攻めよう!
「ラル、俺が光属性の魔法で標的を狙うから、
それに合わせるように火炎弾を頼む!」
「了解でち。 任せてください!」
「では行くぞっ! 我は勇者、我はクレセントバルムの大地に祈りを捧げる。
母なる大地クレセントバルムよ。 我に力を与えたまえ!
『シャイニング・ボルトッ』!!」
俺は右腕を前に突き出して、そう砲声する。
そして右掌から放出された光弾がマッド・スコルピオンに命中。
どおおおん! という爆発音と共に周囲に爆風が巻き起こる。
「では行くでち! えいやっ!」
続け様にラルが火炎弾でマッド・スコルピオンを狙い打つ。
すると魔力反応『溶解』が発生して、巨大な蠍の身体がどろりと溶けた。
俺達はこの手順を繰り返して、計十体以上のマッド・スコルピオンを討伐。
そしてその死骸から魔石やドロップアイテムを回収して、腰の皮袋に詰め込んだ。
基本的にモンスターは、魔石を核としており、魔石が破壊されたら、
その生命活動に終止符を打つ。 魔石には不思議な力が宿っており、
多方面で使用される為に、冒険者ギルドなどに持って行けば換金してもらえる。
でも今回は大体は俺の魔法攻撃で倒したから、魔石も消し炭と化している。
まあ別に金には困っていないから、無理に魔石を摘出する必要はないけどな。
その後も道中にはたくさんのモンスターが出現した。
キリングベア、ワイルドウルフ、ゴブリン、コボルド、オーク、キラービー、
蜥蜴人間、半鳥人などの様々な魔獣や魔物が、
群れをなして襲い掛かって来たが、俺達は冷静に対処してモンスターを排除する。
基本陣形は、俺が防御役兼攻撃役。
アリシアは攻撃役に専任。 ラルは中衛で射撃及び支援。
ナタリアは後衛で魔法で敵に妨害及び攻撃、更には回復役も兼任。
そんな感じでモンスターと戦闘を繰り返し、戦闘が終わればまた馬車で移動。
夜は基本的に野宿。 ナタリアが土魔法でカマクラ状のシェルターを作り、
外に俺とアリシアを交互で見張りに置いて、残りの者は中に入り仮眠を取る。
モンスターや魔王軍による夜襲も考えられるので、
見張り役は否が応でも緊張する。 だが幸いな事に敵襲はなかった。
だがそれよりもある意味大変だったのが、女性陣の入浴問題だ。
何せナタリアとアリシアは、年頃の女性。 それ故に不潔を嫌う。
そういうわけで野営の度にナタリアが土魔法で木製の浴槽を生成して、
水魔法で水を作り、火炎魔法で水を適温にして、浴槽に注ぎ込んだ。
そして女性陣二人が覗きの見張り番をしながら、残り一人が入浴する。
という事を毎日毎日繰り返した。 でも彼女らは俺がその浴槽を使う事を拒んだ。
なので基本的に俺は、その辺で水魔法で大量の水を生成して、頭から被り、
風魔法で身体を乾かすという方法で身を清めていた。
まあ年頃の娘が男と浴槽を共有したくないという気持ちはわからなくもない。
だが毎日毎日魔力を消費して、入浴するのは魔力の無駄使いとも言える。
とはいえ意見しても、全力で拒否されるだろうから、あえて何も言わない。
え? 何? 覗きはしないのかだって?
いや正直言うと少し考えたさ。 俺だって健康な少年だからね。
でもこの件に関しては、俺はパーティの信頼を全く得られず、
ナタリアとアリシアは、入浴中に守護聖獣を見張り番として配置していた。
そういう訳で覗きイベントなるものは一切発生していない。
悪いな、期待に応えられなくてさ。 まあとにかくそんな感じで二週間が過ぎた。