第三章 其の三
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そして北へ進む事、十五分。
俺達は船着場の近くに立つ二階建ての倉庫の屋根の上に身を潜めていた。
俺は腰袋から、双眼鏡を取り出し、船着場の状況を確認する。
船着場の出入り口には、二人の魔王軍の兵士が門番の如く立ち塞がっていた。
だがこの二人以外の敵影はなかった。 二人だけなら何とかなりそうだな。
船着場の構造は、出入り口以外は、
七メーレル(約七メートル)くらい高さの灰色の壁で囲まれている形だ。
闘気を纏えば、飛び越せない距離じゃないが、出来る事なら
出入り口から進入したい。 その方が敵に与えるプレッシャーも大きいからな。
俺は更に奥の方を双眼鏡で覗き込んだ。
すると船着場の中央辺りで、クロスボーンの赤いバンダナを頭に巻いた
派手な黒いコートを着た男の魔族が立っていた。
なんか海賊みたいな恰好だな。 でも見た感じこいつが一番偉そうにしている。
というかこいつの周りの連中もなんか海賊っぽい恰好をしている。
もしかしてこいつ等、本物の海賊か?
そういやここは港町だったな。 魔王軍の海賊部隊が魔大陸から海賊船で、
このエルベーユに強襲してきた。 という可能性もなくもない。
敵の数はあの親玉らしき魔族を含めて、十人。
それと出入り口の見張りが二人。 合計十二人の戦力。
これならば、やりようによっては十分に戦える。
「ラル、お前の魔法銃の最大射程距離はどれぐらいだ?」
という俺の質問にラルは少し首を傾げながら――
「そうね。 狙撃スキルとか込みで最大八百メーレル(約八百メートル)くらいかな?」
最大八百メーレル(約八百メートル)か。 ならばここから狙撃しても十分狙えるな。
ラルは身体も小さくて、中衛職だから接近戦には向いていない。
だからここで彼女に狙撃に専念してもらった方がいい。
「ラル、とりあえずあの出入り口の見張り二人を狙撃してくれないか?
ラルが二人を射殺した後に、俺とアリシアとナタリアが一気に出入り口へ
向かい、中に居るあのボスらしき男と戦う。 ラルはこの場に残り
長距離射撃で周囲の手下達を狙撃してくれないか?」
「そうだね。 あたちがあの人数相手に前線に出ても足手まといだからね。
でもこの距離からなら、十分敵を狙撃できるよ。 了解、お兄ちゃんの指示に従うよ」
「悪いな、ラル」
「いえいえ、これもあたちの役割でち。
んじゃとりあえずあの目障りな二人から、始末するよ!」
そう言うなり、ラルは伏射体勢になり、
自分の魔法銃のスコープに顔を寄せた。
そして額に装着したゴーグルをくいっと目元に引き寄せる。
このゴーグルは魔法道具で、暗闇でもある程度、視界が良好になるらしい。
しかし当のラルは「う~ん」と渋い表情で唸っている。
いくらラルといえど、流石にこの暗がりでは、長距離射撃は厳しそうだ。
するとラルはその場で立ち上がり、右手を夜空にかざした。
「仕方ないです。 ――我が守護聖獣ラビアスよ。 我の元に現れよっ!!」
ラルがそう叫ぶと、彼女の頭上に「ポン」という音を立てて何かが現れた。
「お呼びですかな? ご主人様!」
そう答えたのは、体長五十セレチ(約五十センチ)くらいの茶色の子熊だ。
この可愛らしい茶色の小熊が、ラルの守護聖獣ラビアスだ。
「ラビちゃん、リンクするよ!」
「了解です、ご主人様。 リンク・スタートッ!」
茶色の小熊ラビアスがラルの背中に飛び乗り、マインド・リンクが開始。
するとラルの周囲に、強い魔力と闘気が漲った。
「――『ホークアイ』発動開始っ!!』
そう叫ぶなり、ラルは左眼を瞑り、魔力を解放する。と
残すると残された右目が金眼となり、前方の標的を視界に捉えた。
弓兵や銃士の職業能力『ホークアイ』だ。
このスキルは左眼を瞑ることにより、
魔力で一時的に右眼の視力を大幅に向上させる。
ラルは通常時でも三百メーレル(約三百メートル)圏内なら、
人の顔を見分けられるが、この『ホークアイ』を使えば、
標的の細かい表情の変化すら読み取れる事が可能だ。
ラルはスコープ越しに標的である見張り役を見定めると、
魔法銃の引き金を引き絞り、魔弾丸を放った。
魔弾丸は目にも止まらぬ速さで、左側に立っていた見張り役の眉間を射抜く。
見張り役は口を開閉しながら、地面に力なく崩れ落ちた。
これを見て当然もう一人の見張り役が驚き戸惑う。
しかしその時には、ラルは狙撃体勢に入っており、再度、魔法銃の引き金を引いた。
放たれた魔弾丸は、先程のように驚き戸惑う見張り役の額に命中。
そして次の瞬間、地面に崩れ落ちて、地べたに接吻した。
「す、スゲえっ!!」
俺は思わずそう口にした。 ここから標的までは、
軽く見て四百メーレル(約四百メートル)くらいの距離がある。
それを立て続けに標的を狙い打つなんて神業の領域だ。
「驚いてる場合じゃないよ、お兄ちゃん。 すぐに敵に気付かれるよ。
ここはあたちに任せて、三人はあの出入り口へ向かってね!」
「そ、そうだな。 では行くぞ。 アリシア、ナタリア! 俺に着いて来い!」
「了解よ!」「わかりましたわ!」