第3話 翌日、村長の家へ
翌日、ハルは住民票の手続きも兼ねて村長の家を訪れた。
格好は昨日と同じ黒ずくめのヒップホップファッション、もちろん第一印象を最悪なものにするためだ。
(村長、どんな人が分からないし、もしいかつい見た目だったらどうしよう……いや、俺はもう異世界転生なんてしないんだ。これくらいどうってことないわ!)
一抹の不安を感じつつも、態度は横柄に。
ハルは柄が悪そうな雰囲気を保ちながら、村長の家に入っていった。
「チィ〜〜〜ス、新しくイデ村に越してきた者っす」
「あぁ、君がハルくんか。長旅ご苦労様だったね。さ、ここに座ってくれ」
「あざっす」
(や、優しそうな人だぁ〜〜〜)
ハルは心の中で深く安堵しながら、村長の向かい側に置かれた来客用の椅子に静かに腰かけた。
「フム……じゃあ、早速手続きの方を始めようか。印鑑と身分証明書になるものは持ってきたかね?」
「ういっす。今出します」
ゴソゴソ……ハルは腰に巻きつけていた小型冒険バックから、まず印鑑を取り出した。
この世界の神のご加護で朱印が無くてもはっきり捺印することができるようになっている優れものだ。
次に身分証明書であるギルドカードを取り出そうとするが……。
「あ、あれ?」
「どうしたんだい?もしかして家に忘れてきたのか?」
バックの隅々まで手を這わせても、身分証明書らしき手触りは感じられない。
どうやらハルは本当にギルドカードを家に忘れてきてしまったらしい。
……しばらくの沈黙の後、ハルは冷や汗を垂らしながら村長にこう言った。
「いや、出せないっす。俺ギルド追放されたんで」
「なにっ?」
ハルは嘘をついてしまった。それもつく必要のない嘘を、だ。
必要書類を忘れてしまったという焦りと、悪ぶらなきゃという使命感の合体事故である。
ハルは自分でも無意識に出てしまった言葉に焦りつつも、続けざまに言い訳をしていった。
「いや、ホラ俺めっちゃヤバイやつなんで」、「ここに来る途中なんて道ゆく女冒険者にちょっかい出してましたし」……。
「ハルくん、一体なぜそんなに悪ぶるんだい?」
「えっ」
突然の村長の言葉に、ハルは体をこわばらせた。
村長はハルの不自然な態度から嘘であることを見抜いたようだった。
硬直したハルを真っ直ぐと見据えながら、村長は言葉を続けた。
「君がこの家に入った時、最初は柄の悪そうな男だと思ったよ。だけどね、椅子に座る姿で直感した。ハルくん、君は何か訳があってそんな振る舞いをしているんじゃないかい?ワケを話してくれないか。手続きはそのあとでいいからさ」
「村長……!」
ハルは勢いよく立ち上がり、村長に向けてブラック社員時代に培った完璧な土下座を披露した。
ブラック社員時代のような形だけのものではなく、ハル自身の誠意に溢れたものだった。
一方で、村長は「何もそこまでやらなくても」と両手を小さく振りながら慌てふためいていた。