第1話 とある大神殿にて
神々の集う大神殿の廊下で、とある女神が真剣な顔つきで壁に貼りついていた。
きめ細やかな黄金の長髪に見目麗しい顔立ち、そして特徴的なハートの瞳をした女神ーーティナスは行き交う神々の「何やってんだコイツ……」という視線も気にせず、壁の向こうから聞こえる噂話に耳を澄ませていた。
「ねぇ、聞いた?例の噂、『勇者ハルが異世界転生を避ける計画』をしてるって」
「私知ってる!何でも次の転生先の神に、救世の褒美として珍しく休暇を貰う約束したそうじゃない。その休暇中にハルは何かやる気よ」
(そ、そんな……はるたんが⁉︎)
ティナスは信じ難い噂話に耳を疑った。
ティナスの知るハルは、何度も自分の世界を何度も救ってくれた心優しい男だ。
「俺が世界を救って喜んでくれる人がいる限り、この使命を担い続けたい」……過去にはティナスにそう語ったほど、その心優しさは確固たるものだった。
そんな男が世界を救うという誉れ高い使命を放棄しようとすることを、ティナスは信じられなかった。
(きっと何かがあったのね。あのはるたんだもの、何か私たちの知らない巨悪と闘っているに違いないわ!)
ティスは壁から勢いよく身を放ち、廊下の奥に向かって走っていった。
(待っててね、はるたん……あの2人も連れてあなたの元に向かうから!)