プロローグ
・プロローグ
あるところに一冊の本がおりました。
その本はたいへん頑固者で、偏屈で、言うことを聞かない困った子であったため、その本を書いた者は困り果てました。
なだめても、おだてても、本の機嫌は直らないからです。
その者は盛大なため息を吐きながら問いかけました。
一体何がそんなに気に食わないのか、と。
すると本は答えました。
何故私は読まれることがないのか。
何故私はこのように記されたのか。
何故私は存在するのか。
何故私は――
何故私は――
何故――
何故――
止め処ない本の疑問が百を超え、千を数えるまでになったころ、その最後の疑問は震える声と共に呟かれました。
何処かに、……何処かに私を読んでくれる者はいるのか? と。
止め処もない本の疑問に、書き手が答えます。
お前は私のメモ書きであり、落書きであり、乱雑落丁の未完成品である。
故にお前は読まれることは無く、記されたことに意味はない。
とてもへそ曲がりな本でしたから、知恵の輪よりも複雑にまがりくねるのは、それはそれは簡単でした。
その本は信じていたのです。
焦がれ、願っていたのです。
ただ一つ欲しいものが、いつか傍に訪れる事を……。
終には手に負えなくなった本にため息を一つ吐き、手に取ると、いくつかの紙片に破き放り投げました。
静かになった世界で、書き手はまた自らのやるべき事にもどります。
その者はとある一大巨編の物語の執筆をしている最中でした。
数億の編から成る、兆を超える頁と数えきれない文字を湛えた本の群。
生物という空想上の存在からなる、生と死を繋ぐ物語。
青色の背表紙に黒の縁で紡がれたその物語には、本人しか読めない文字でこう綴られていました。
ミュトスフィア。
そしてこの時、まだ誰も、書き手さえ気がついてはいませんでした。
破かれ、投げ捨てられた本が、いつの間にかその巨編に混ざり混んでいたという事を……。
欲しいものが訪れないのならば、自ら傍に行くことを決意した、頑固で偏屈で言うことを聞かない一冊の神話が居たことを……。
本気で小説を書くのは、およそ6年ぶりです。
書きたいけど書けないを脱却するため、拙くても書き続けたいと、あえて連載小説の投稿に踏み切りました。
3日に1話の更新を目標に、自身が楽しめる作品をまずは目指していきます。