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小説株式会社

作者: セレソン28

「お宅のネタ、最近、鮮度が落ちたんじゃないの?」

 着想ちゃくそう課の仕入れ係からそう言われ、『ネタ元』という刺繍ししゅうの入った作業服を着た男は、頭をかいた。

「すいません。近頃不作ふさく続きでして。かと言って、二次ネタはおかみが厳しくて使えないもんで」

「しかしなあ。今時、こんな古くさいネタじゃ、少々細工したって売れないよ」

「本当にすいません。次はきっと、ピチピチした活きのいいのを見つけてきますんで」

「頼んだぜ。今回はしょうがねえから、これをもらっとくよ」

 仕入れ係はそのネタに『暫定ざんてい』という赤いスタンプを押すと、構成こうせい課へ回した。

 受け取った構成課の筋書すじがき係は頭をかかえた。

「何だ、これ。こんなネタで、ストーリーなんか作れるかよ」

 すると、そこを通りかかった調査課の時流じりゅう観察係が、筋書き係に声をかけた。

「どうした、難題なんだいかい?」

「ああ、ヒドイもんさ。こんなネタで一本なんて、無理だよ」

「どれどれ。うーん、こりゃヒドイな。だけどまあ、舞台を異世界ということにして、少々辻褄つじつまが合わないところがあっても、『そこが異世界なんですよ』ってことにすりゃ、いいんじゃねえか」

「だめだだめだ。その手は、こないだ使ったよ。まあ、別の手を考えるさ」

 筋書き係はなんとかストーリーをひねり出し、試作課の下書き係に手渡した。

 下書き係はななめ読みしながら、フンフンとうなずいた。

「ちょっとストーリーに無理があるな。まあ、おれには関係ねえけど」

 下書き係はそのストーリーを、小学生の作文に毛がえた程度の誤字脱字ごじだつじだらけの文章にし、推敲すいこう課に内線FAXで送った。

 受け取った推敲課の錬成れんせい係は、苦行僧くぎょうそうのような表情になった。

「どうせ書き直されると思って、雑な文章を書きやがって」

 錬成係は、かみをかきむしり、四苦八苦して、どうにか読める文章に変えた。それをプリントアウトし、封筒に入れて校正こうせい課に持って行った。

 校正課の奥の、何冊もの辞書に埋もれたようなデスクに、添削てんさく係がいた。度の強いメガネしに、錬成係の封筒をにらんだ。

「ふん。どうせくだらん話だろう。そこに置いといてくれ」

 錬成係はちょっとムッとした顔になった。

「確かに話はくだらんが、一応読める文章にはしたつもりだ」

「どうだかね。前々から言ってるように、気取きどった美文びぶんなんか、今時流行はやらんぞ」

「あんたに言われる筋合すじあいはない!」

 二人の間に険悪けんあくな空気が流れたため、たまたま居合いあわせた販売課の売り込み係が割って入った。

「まあまあまあ、ご両人りょうにん、落ち着いて。もう少し、柔らかく行きましょうよ。それでなくても、文章がかたいとか、肩がるとか言われてるんです。もう少しくだけた言い回しで、横文字なんかもぜちゃってくださいよ」

 二人は余計に激昂げっこうし、三つどもえの言い争いとなった。

 それを横で見ていた反省課の自己評価係がつぶやいた。

「小説って、こんなことでいいの?」

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