04 花と天使
「花、落ち着いて聞いてね。今花の耳から咲く花弁は、俺のせいなんだ」
二回目の言葉。
今度は本当だとすんなり信じられた。
びっくりするくらい、私は落ち着いていた。
「赤い糸が見えただろ?あれが花の耳を悩ませる種だ。……でも、それは俺と花を繋ぐ、縁みたいなものだ」
悪魔と恋に落ちたから。
結ばれちゃいけないものと結ばれてしまったから。
私の耳からは、花弁が出るらしい。
花弁が出るのも、トリガーがあるらしいけど、月はそれを知らないと言う。
私は、わかってしまった。私のトリガー。
きっと、それは、悪口を言われたとき。
花弁が出てきたのは、全部いじめっ子から悪口を言われたときだった。
「多分俺らのことを邪魔しようとする奴が近々現れる。そいつは赤い糸を察知できるから」
「じゃあ、どうすればいいの」
「心配いらない。あいつは赤い糸を切ることなんてできない」
赤い糸を切る資格があるのは、花だけだ。
そう言って私を指差す月。
……赤い糸を切る資格があるのは、私だけ。
赤い糸は、私と月を繋ぐ、縁。
「じゃあ絶対、切れないね」
「ありがとう。花ならそう言ってくれると思った」
今後は、外を歩くとき気をつけて。
家まで送ってくれながら、月は私を過剰に心配する。
別に、その邪魔する奴なんかに何度そそのかされても、私の意思は揺らがないのに。
変なの。そう思いながら家の玄関を開けた。
「じゃあね、花」
「また明日、月」
バタン、とドアが閉まる。
ただいま、と呟くけど、両親はまだ帰ってきていないみたい。
私は自分の部屋のベットに寝転んだ。
「すごい」
赤い糸が、まだ私の小指に巻きついていた。
月がここにいるみたいで、ドキドキする。
心臓がうるさい。
一人でにやけていると、窓から強い風が吹き込む。
変ね、窓なんて開けたかな。
確認しようと窓辺に行けば、羽が生えたスーツの女の人がいた。
……コスプレ?でも、ここ、二階だよ。
「佐藤花さんでよろしいですね?」
その人は、私が戸惑っているのを知ってか知らずか、話を進める。
「貴方は、悪魔と赤い糸が繋がっています。お心あたりは」
「月のことですか。これは切りません、絶対に。あなたになんと言われても」
キッと女の人を睨んだ。
月が言っていた邪魔する奴って、この人のことか。
女の人はにこりと笑って、全く取り乱さずに続ける。
「すみません、自己紹介が遅れましたね。私は天使です、なんとでもお呼びください」
誰が呼ぶもんか。
多分この人は、月がいない時を狙ってきたんだ。
私一人だったら、丸め込めるとでも思ったのか。
「悪魔に目を付けられる方、いるんですよね。世界に10人程度ですが。でもご安心ください。私が新しくお相手を紹介させていただきますので」
「新しい相手なんていらない!私は月がいいの!」
「もし、どうしても悪魔がいいという場合、こちらで悪魔を処分しておきますが、よろしいですか?」
笑顔のまま、私に聞いてくる。
天使って、どこが天使なの。
こっちの方がよっぽど悪魔らしい。
私は小指を守るようにして握った。