03 花が好き
「耳から……はなびら?」
月に話すと、彼は少しだけ驚いてみせた。
俯いて肯けば、悲しそうな顔をされた。
なんで月が悲しそうなのか、私にはわからない。
「花、あのね、……もしこの先、なにがあっても俺と友達でいてくれる?」
不安そうに、それでもしっかり目を見て話す月。
そんなの、当たり前じゃん。
「月こそ、私がこんな……。耳から花弁なんか出るのに」
「それ、俺のせいなんだ」
ごめん、と月は謝ったけど、そんなの私を慰めようとして言った言葉だと思った。
事実じゃない。信じられなかった。
「本当だよ。あのね、俺は人間じゃないんだ」
……不思議と、今度の嘘は、すとんと落ちてきた。
もしかしたら、嘘なんかじゃないとも思った。
だって、私に人間の友達なんか、できるはずがないもの。
「……人間じゃなかったら、月はなんなの?」
取り乱さないように、笑って聞いた。
出会いは、はっきりと覚えていないけど、窓のある部屋で私が遊んでいたとき、その窓から顔を出してきたのが月だったよね。
小学校も中学も、高校だって一緒じゃないけど、放課後はいつも私の隣にいて。
「悪魔だって言ったら、花は困らない?」
あくま。
……だからか。学校にいなくても、私の傍にいるのは。
困るとか、そんなんじゃない。
文句でも言ってやろうとか、思いもしなかった。
だって月は月だもの。
「困ったとしても、この手離さないけどね」
ぎゅっと私の手を強く握る。
ドキドキする。ああ、私は、月に。
この悪魔に。
「好きだ、花」
恋をしている。
ぶわっと、私だけに風が吹いた。
目を開ければ、私と月の間に、赤い糸が見えた。
「私も、……私も、月が好き」
耳から咲いた花なんて、どうでもいいくらいに。
こんな私を好きでいてくれる月が。
私と月を結ぶ赤い糸が。
愛しくて、なんだか涙が出た。