02 花開く
教室に帰ると、一斉にみんな私を見る。
そのくせ、私がその人たちを見ようとすると、目を逸らされる。
ただ一部を除いて。
「うわーゴミ虫、今日もぼっち飯?」
「お前いつもどこで食ってんの?便所?」
キャハハハハ、と高い笑い声が耳につく。
いつものこと、そう言い聞かせて席につこうと早足で進む。
「無視してんじゃねーよ」
横腹を蹴られて、盛大に転んでしまう。
ガシャン、と机に突っ込んでしまって、その机の持ち主には、ごめんなさいと謝っておいた。
「うえー、佐藤菌がついた」
佐藤菌、ゴミ虫。
私が教室で呼ばれるような名前は、それくらいだ。
立ち上がって、今度こそ自分の席に座る。
「次世界史だって、サボろうよ花チャーン」
「ばか、虫語で喋らなきゃ聞こえないでしょ!」
いつも通りの、悪口なのに。
今はとても、耳が痛かった。
……耳が、熱い。
血でも出てくるのかと思って、立ち上がった。
「逃げんなよおい!」
教室から聞こえる怒鳴り声を置いて、耳を押さえてトイレに走る。
個室に入って、恐る恐る耳を押さえていた手を開けば、花弁。
え、花弁?
「これが……私の耳から?」
紛れもなく、私の耳からは花弁が出てきたのだ。
証拠に、手にも耳にも、髪に絡まった花弁もちゃんとそこにあった。
嘘、うそ、うそ……。
「気持ち悪い……」
自分のことなのに、ひどく吐き気がした。
ハナハキビョウ、……花吐き病。月の言っていたことの意味がわかって、頭痛がする。
「ここにいるのかよ!おーい、花チャーン!」
「あたしたちと一緒にあそぼーよ!」
ドンドンと個室のドアが叩かれる。
無視を決め込んでいたら「聞いてんのかよゴミ虫」とまた悪口が飛んでくる。
また、耳が熱くなった。
花弁がひらりと、床に落ちる。
……冗談じゃない。
私はその日が終わるまで、ずっとトイレにこもっていた。
保健室にも行けない。誰にも言えない。
耳から花弁が出てくるなんて、どう考えても異常だから。
「月、月……」
早く月に、あいたい。