01 花吐き病
「花吐き病って知ってる?」
ちうー、と牛乳をストローで飲んでいた月が顔を上げて私に聞く。
月は月人っていって、私の小さい頃からの唯一の友達。
ハナハキビョウという言葉を聞いたことがなくて、首を傾げる。
「知らないよ。なにハナハキビョウって」
「いや、俺も詳しくは知らないんだけどさ」
またストローを口に咥え直した彼。
知らないのなら、なんでそんなこと聞いたんだろう。
テレビかなにかでやってたのかも。
あんまり深く考えずに、お弁当に向き直る。
「いつもごめんね、俺のために」
お弁当を、こんなところで食べていることか。
月はこの学校の生徒じゃないけど、お昼になったらふらっと現れる。
だから私は毎日学校の裏門の近くで月とお昼を食べる。
「気にしなくていいって言ったじゃん」
私には、友達がいないから。
そのことは月は知らない。
言ったらきっと、心配するから。
ずぞぞぞぞ、と空になった牛乳パックをいつまでも吸い続ける彼。
仮に私に友達がいても、私はきっと、月と食べるよ。
「じゃあ俺放課後また来る!」
「ありがとう」
バイバイ花、と大きく手を振りながら行ってしまう月を、ずっと見ていた。
完全に彼が見えなくなってから、ため息を吐く。
教室に戻るの、憂鬱だ。
だって私は、友達がいないどころか、いじめられているから。