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黒猫保護条令  作者: イカニスト
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第五話「凶星」

黒猫保護条令

第五話「凶星」


つくば市。

雨脚はいよいよ強まり、季節外れの落雷に気の弱い者が首をすくめる。

豪雨や豪雨。

教えておくれ。

いったいどうやったらこれほどの水が天高くへと昇ってゆけるのか?

風が弱いのは幸いだが、バケツの水をぶちまけたような雨量に、足元からびっしょりと雨水に浸ってゆく。

こうなると表に居るのは考え物で、大通りに車は見えるが、人影はぽつりぽつり。

ばしゃり!

車が跳ね上げた汚れ水を、ケイ子が傘で防いだ。

気に止める者はいなかったが、良く考えて呉たまえ。そんじょそこらの人物に同じ真似ができようか?

尋常ではない反射神経、ケイ子は誰もが気にとめないほど自然に、さらりとそれをやってのけた。

彼女もまた武芸の達人。

元々平李家と縁があり、幼いころより久利人、千枝子兄妹とは親しくしていた。

三年前、平李家に奉公に来て、彼女は六車の血の宿命に殉じた。

彼女は血の一滴まで、平李家に捧げる契約下にある。

だからこそ千枝子のそばに立つ。

次の世代の平李を背負う宿命の少女。

その小さな背中を守りそばに立つ。

この背中を守るのが自分の役割だと知っている。

六車の家に生まれたからには、自分の命に一銭の価値も無い事を知って居る。

嵐を予感させる豪雨の中、二人、歩いて行く。


新幹線で、先ずは東京駅へ向かう久利人。

少年はあまりにひどい天候に、列車が止まるのではないかと心配をする。

嗚呼、哀れなるかな、少年の行く道に晴れ間は無し。

謀略と陰謀の黒雲が行く道の天空そらを覆いつくす。

銃弾の雨が降り。

血の雨が降る。

雨粒は硝煙と血のりを吸って濁り、風は淀んで不幸を運んでくる。

今も…

ドオオオオオオンンンッッ!!!!

地雷が爆発した。

大宮駅を出て、東京駅まで残すはわずか30分足らず。

国道17号線と交差し、荒川を渡らんとした処。

そう、まさに荒川こそが、襲撃にうってつけの場所だったのだ。

爆弾テロ。

新幹線は脱線して横転。横倒したまま線路を滑ってゆく。

線路に仕掛けられた爆薬は、完全に計算をされており、新幹線は荒川を渡る橋の上で停止。

橋の上で足止めをくらっては、流石の久利人も容易には逃げられない。

そういう算段に違いない。

だが少年には、不屈の魂と行動力を授けてくれる存在がいる。

愛猫ビラリーだ。

愛しい黒猫を助けたいという強い決意が言うのだ。

そんな策略にむざむざハマってやるものかよと。

「これしきの事で、自分の歩みは止められぬぞ。」

少年はDコックで空気を抜き、手動でドアを開けて新幹線の外へ飛び出した。

見れば横転した車両は、線路に沿ってきれいに倒れている。

適当に爆弾を転がして、闇雲に爆破したのとは訳が違う。

そこにはプロフェッショナルのルールがあった。

忍者の子である少年だからこそ、爆破のプロのこだわりを感じる。

これは誇りある忍者の仕事だ。

だが、その仕事っぷりに見惚れている暇はない。

線路の両側から、追手が迫って来ているのだ。

タオルをつないでタスキを作り、ビラリーを自分の背中に固定する。

少年は、川の水深が深そうなところを狙って、迷わず飛び降りた。

ズバアアッッ!!

つららの様に細く長い水柱を伴って着水。

水中。

水中に追手は居ない筈。

そう考えていたので、着水した時には”逃げ切った”と心に隙があったのだと思う。

眼前で視界を塞いでいた水泡が四散して、視界が開けてビックリ。

目の前に尖った岩が待ち構えている。

「ぬおあああっ!」

流石に冷静さを欠いた久利人は、ジタバタと手足を動かして、何とか沈んでいく方向を変えんと試みる。

首をむち打ちになるほどひねって頭が衝突するのはかわしたが、岩の側面に胸がヒット。

「ごふうっ!」

これはキツイ。貴重な空気を吐き出したうえ、衝突時に水も飲んでしまった。

必死にもがいて水面に浮上。咳き込んで水を吐き出す。

「あばら、逝ったかな?」

シャツに血がにじむ胸を抑えながら、水面に寝て愛猫ビラリーを腹の上に乗せた。

それにしてもひどい雨だ…

バシュッ!

右耳の横を11.5cm余りのMPS弾頭がかすめて行く。

「APS水中銃か!」

水中に追手はいない…そう、高をくくった自分が甘かった。

追手は水中でも待ち伏せをしていた。忍者め!なんという完ぺき主義か、線路上にも水中にも、少年Aに逃げ場などなかったのだ。

水中に顔を突っ込んで追手との距離を確認する。

濁った水の向こうに揺らめいて見えるものは、かろうじて人影であると判別できる。

あれが敵だ。

まだ20mはある。

水中から見れば岩が待ち構えているところに飛び込もうってバカはいない。

だから少年が着水した、そこの包囲網は手薄になっていたのだ。

久利人の運は良かったのか悪かったのか?

岩はヤバかったが、結果的に逃げ延びるチャンスが残った。

「ビラリー、潜るぞ。」

黒猫をシャツの中に押し込む。

ネクタイを緩めてシャツのボタンを2つ外すと、黒猫は少年の顎の下にちょこんと首を出した。

少年と黒猫、大きく息を吸い込んで水中へ。

水中銃は水深が深くなるほどに有効射程が減る。しかもこの濁った水で視界は悪い。潜れば逃げ切れる。

岩や不法投棄された冷蔵庫などに捕まりながら水中深くを逃げ行く。

沈没したボートの側面を伝ってゆくと、頭のすぐ上に追手の一人が見えた。

APS水中銃を手にして居る。

相手も久利人に気付いたようだ。

これは危機的状況か?いいや、少年はチャンスだと考えた。

少年は河底を蹴って一気に接近。

手刀を突き出して相手をディスアーム、APS水中銃を奪い取った。

これで互角に渡り合える。

少年は相手の太ももを撃ち抜き、水面へと向かった。正直、息が続かない。限界を超えて水中で粘っていたのだ。

「ぶはっ!!」

枯渇していた空気を一気に肺に取り込む。

豪雨の中、雨水も口に入ってきて咳き込む。

さて、あとは岸に向かって一気に泳ぐだけだと、銃を担いで岸辺をにらむ。

だが、間もなく久利人はその場にくぎ付けとなる。

水中から迫る追手に、四方八方取り囲まれてしまったのだ。

得物を狙うサメの様に取り囲んでくる、その数、5…10…15…20…20を超えている!

まさか高校生一人にそこまでの大人数を投入してくるとは。

この水中部隊の他に、線路上の地上部隊だっているのに、総勢でいったい何人いるのだ!?

唖然。

呆れかえって、逆に笑えてくる。

「くっそ、」

少年は銃を水中に落として両手を挙げた。

これだけの数に囲まれては、文字通りお手上げだ。

ビラリーは、シャツの中では踏ん張りがきかず居辛いのか、肩の上に這い出てきた。

それにしても大庭おおば良久らくという男を侮ったのが悔やまれる。

ここまで徹底してくるとは恐れ入った。

そう、この時点で久利人は、すべて痩せ男の仕業だと考えていたのだ。

さて、降参の意は示したが、果たしてきゃつらが命までは取らずに見逃してくれるかどうか?

ふと、ため息でもつこうかとうつむきかけた少年の顔が空を仰ぐ。

何かが接近してくる。

「小僧!!もうちょい手を高く上げろ!!」

プロペラ音が上空から一気に近づいて来る。

悪天候の中舞い降りるは空飛ぶ自動車、AeroMobil4.0。

急降下からの背面飛行。

一瞬水面を叩いて体勢を崩しながらも、禿は運転席のウィンドウから身を乗り出して、少年Aの手首を捕まえた。

久利人は肩からずり落ちそうになった黒猫の背中の皮をつまんだ。

20を超えるAPS水中銃が一斉にAeroMobil4.0を狙う。

MPS弾頭がボンネットやフェンダーに突き刺さる。

落雷が映し出したAeroMobil4.0のシルエットはハリセンボン。

「飛べるのですか?」

少年Aの質問に禿は「落ちるまでの間はな。」と首をすくめた。

上昇をしながら東京方面へ飛び去る。

追手は振り切ったが、まもなくリヤのエアインテイク付近から煙が上がる。

助手席に座った久利人は、不安げに後方に伸びる煙を見つめる。

禿は口笛を吹きながら上機嫌。

「なぁに、コイツは役目を果たした。俺をお前に引き合わせるという役目をな。大往生さ。」

「それでは困る!」

久利人は、彼の膝の上でヒューヒューと苦し気に呼吸をしている黒猫を撫で、目に涙を浮かべている。

禿のため息。

「行き先は横浜だったな。」

「行ってくれるのか?」

「俺はその気になったが、コイツもその気かは知らぬぞ。」

禿は半円形のステアリングホイールをぺーんとひっぱたいた。

ばらついたエンジン音も危なっかしく、空飛ぶ自動車は飛んで行く。


いぶし銀のベテラン刑事デカ娘咲むすめざき

彼が信頼を置く情報屋、美浦みうらは阿羅漢手の闇に迫りつつあった。

品陀耶洞窟寺院ぴんだやどうくつじいん

美浦もこの寺院の存在は一時間前に知ったばかり。

何しろ地図に載っていない。秘密の寺院なのだ。

ググってもミャンマーの洞窟しかヒットしない。

どうも意図的に衆目から隠蔽された形跡があり、あからさまに胡散臭い。

娘咲は、少年Aをめぐる一連の騒動の仕掛人が、大庭良久である事に疑問を持っていた。

娘咲と美浦が聞き込みをして集めた情報。良久の人物像が明らかになるにつれ、浮き彫りになったのは、良久が小物であると言う事実。

確かに全体を見渡せない小物は、迂闊にして滅多なことをしがちだ。特に恐怖などの激情に駆られたなら。

しかし、それは大胆と言うよりはやけっぱちな策略となる筈。今回の騒動には冷徹かつ歪みない鋼の意思を感じる。絶対に大人物の仕業なのだ。

二人は手分けをし、足を棒にして更なる情報を集めた。

そして二時間前。

40年前に阿羅漢手本堂で師範代を務めていたという老人と話をすることができた。

少年Aをめぐる一連の騒動を話す。

よわい90を超える老体の耳に音は残り辛く、大声で幾度も説明を繰り返した。

そして、老人は事態を理解した。

最悪な事態を。

「それはいけない…」

「ええ、何とかしなければいけません。」

「本堂と縁を切って、もう20年になる。今は、誰が阿羅漢かな?」

迦諾迦かなか麺痔州人めんじすとです。」

「師範代は?」

平李ひらり呂舵夢ろだむです。」

「ううむ。そうか。」老人は難しい顔をする。

「何か分かりましたか?」

「ああ。だが、わしの口からは言えぬ。」

「そこを何とか!」情報屋は拝み倒す。

「判っておる。この老骨の残り少ない命と引き換えに、一つだけ情報をくれてやる。」

老人は、何の前触れもなく手刀で己の首を切り裂き、畳の上に倒れ、絶命した。

彼は息がある束の間に、畳に人差し指を走らせ「品陀耶洞窟寺院」と血文字で殴り書きをした。

まさか自害するとは思ってもみなかった。

美浦は腰を抜かして、床を這って逃げるように彼の家を去った。

簡単に死を選ぶとは…阿羅漢手の闇の深さを思い知った。

恐怖に身はすくむが、もう、その闇に両足とも突っ込んでいる。

足を止めて後ろを振り返れば、追ってきた闇にのまれてしまう。

決して、後ろを振り返ってはいけない。

一旦闇の魔窟に足を踏み入れたなら、光の出口にたどり着くまで、前に進む道しかないのだ。

そして美浦は品陀耶洞窟寺院の前に居る。

寺院の前?いや、寺院の上か。

何せ寺院の入り口は、足元の岩の亀裂なのだ。

雨水がどぶどぶと流れ込んで行っている。

雨に濡れて滑りやすくなった岩肌を手足で探りながら、闇の底へ下りてゆく。

阿羅漢手の闇にふさわしい不気味さだ。

「うわっ!」

左手を放したとき、上体のバランスを保っていた右手が滑った。

「ひーっ!ひーっ!」

濡れた岩肌を滑り落ちて行く。

手足であちこち岩肌を探って、掴まれそうなところを探す。

右足がでっぱりの上に乗っかった。

「よし!」

ずるん。

体重を乗せた瞬間、右足が滑り再び落下。

「そんなぁー!」

ざぼん。

「イタタタ…」

一番下にたどり着いたようだ。膝下くらいまで雨水がたまって居る。

スマートフォンを取り出し、周囲を照らす。

腰程度の高さ。横に進む亀裂が一つだけある。

その奥を覗き込むと、十数メートル先で広く開けていそうだ。

亀裂は高さがなく四つん這いにならないと入れない。

美浦は出っ張った自分の腹をさする。

「この洞窟はデブ立ち入り禁止ではなかろうな?」

文字通り腹をくくって亀裂を這い行くが、後ろを振り返るたびに、雨水がさらにたまってこの亀裂が塞がれてしまわないかと不安になる。

「はっ!はあっ!」

無駄な脂肪を餅の様に伸ばして進む。

息を荒げているのは、肉体の疲労のみによるものではない。精神的にも、消耗しているのだ。

ここは阿羅漢手の秘密の洞窟。

今回のの騒動では、既に死人が出ている。

この横穴だって、いつ機械仕掛けの槍や回転ノコギリに襲われてもおかしくは無い。

そういう場所に来ているのだ。

「はっ!はっ!」

汗が顎から滴り落ちる。

やっと細く険しい横穴を抜け、広間に出た。

湿った空気がねっとりと首筋に絡みつき、闇を恐れてスマートフォンで視線の先を照らす。

そこに見えた光景。

圧倒される。

後頭部をハンマーで殴られたような衝撃。

「見事だ。」

極彩色をふるいながら、決して下品ではなく、ただ厳かな仏教的装飾の数々。

爪のディテールにまでこだわった色鮮やかな仏像であり、背景に居る豆粒ほどの大きさで描かれた男でさえ表情豊かな天井画であり、目に入るものすべてに息を呑む。

この寺院を完成させる為に、どれだけの資材が必要であったろうか。

その全てを狭い亀裂から運んできたとは信じ難い。

中でも圧巻は天井画。

天井を照らすと、数メートルの高さに宗教画が描かれている。

緻密な筆で綴られた仏陀の伝記。

その心洗われる美しさ。

気高さ。

わかる人が見たなら、きっと崇高な思想を読み取れるのだろう。

無学な自分が恨めしい。

だが美浦も、仏教の最低限の知識は持ち合わせている。

感じ入ることは多々ある。

仏教に限って言えば、推定2500年前に人は思想的な頂点に至った。

2500年の間に文明は進化したが、思想は進化したのだろうか?

むしろ退化してはいまいか。

思想が退化したなら、あるいは文明も実は…

自然と涙が出てくる。

「この寺院を造ること自体が修行だったんだ。」

いや、修業は完了形で語ってはいけない。現在進行形で語るべきだ。

修業は続いているのだ。湿度の高い悪条件の中、この寺院を維持するという修業が。

ここは、心と体を鍛える修業の場なのだ。

「ここに、どのような秘密が隠されているというのか。」

話し相手がいるわけでもないのに、心に浮かんだものがそのまま口の外に出てしまう。

それ程に謎は複雑に絡み合っている。

老人が自害した理由。

このような寺院が隠されている理由。

そして…阿羅漢手の秘密。

美浦は生唾を呑み込んだ。

「それにつけてもありがたい寺院だ。ここで迎える死は、きっと安らかに違いない。」

おっと、感傷に浸っているばかりでは話が進まない。

ここには仕事できたのだ。

謎の手がかりを探し出さなければならぬ。

まずは一番何かありそうな祭壇に向かって歩き出す。

が、前に進めた足はすぐに立ち止まる。

「嗚呼、やはり警察に任せるべきだった。」

情報屋を襲う後悔の念。

やはりうかつに立ち入るべきではなかった。

今美浦は、背中に…背中に刃物をあてがわれている。

両手を上げる。

背後に居る者は問う。

「この場所を教えた者はどうした。」

美浦は恐怖に震えながら「自分で首をかき切って、死んでしまったよ。」と答えた。

彼は老人が首を掻き切った瞬間、そこに阿羅漢手の闇を見て恐怖した。

今彼は、老人の死に様を、阿羅漢手の恐怖を思い出しているのだ。

「そうか」

祭壇の上の梁を飛び越して、蝋と油を染み込ませた三味線の三の糸が降りてきた。

そして糸は美浦の首に巻き付けられ、彼の身体は宙に浮きあがる。

彼の体重で、首が締ってゆく。

肥えた体重で糸は首に食い込んでいく。

「この寺院を血で汚すわけにはゆかぬ。」

久利人ならばこの状態から脱したかもしれない。

細身で筋肉質、運動神経に秀でた久利人なら。

だが、彼はデブだ。しかも運動神経などかけらもないデブだ。

美浦はジタバタしたり、首のあたりを掻き毟ったりするばかりで、死ぬのを待つばかり。

もう死ぬのだと諦めたとき、ふと冷静になって下方を見やった。

そこに見つけた人物。

今、自分を殺しつつある人物。

美浦はその者を知っている。

なるほど。ここに有るのはあの一族の秘密だったか。

幸いなことに、スマートフォンは落とさずに右手にあった。

娘咲に電話をかけ、数字の”3”を押し続ける。

首が締まっているので、何しろ声を出すことができないし、もう、意識が途切れる寸前だ。

情報屋にはこれが限界だった。

ビィン…

三味線の糸をはじく音。

スマートフォンは彼の右手から落ちて、彼はこと切れた。

最後の瞬間。美浦は娘咲が自分のメッセージに気付き、見事に一連の騒動を収める夢を見た。

幸せな夢を。

それは、この慈悲深い洞窟寺院の奇跡。


ラーメン屋。

「俺だ。」

美浦からの電話に出た娘咲は、彼が何か有力な情報を入手したに違いないと期待をしていた。

しかし彼からの言葉は全くない。無音だ。

「おい美浦、返事をしろ。」

無言電話?

情報屋はこの様な悪戯を働く程暇人ではない。

「お前、美浦なのか?」

言葉を変えても一向に返事はない。

「ん?」

無音…かと思われたが、かすかにポポポポポとトーン音が聞こえる。

Nexus 4の音量を最大に上げる。

ギリギリと何かがきしむ音、その前面に、ただ同じトーン音が延々と聞こえてくる。

これはきっと、ただ事では無い。

「おい!美浦!美浦!」

突然、トーン音すら聞こえなくなって、回線がブチ切れた。

バッテリーが尽きた時と同じ症状だ。

実際には、床に落ちた美浦のスマートフォンを、彼を梁に吊るした人物が踏み割った。

娘咲は美浦に電話をかけるが、何度発信しても全く応答がない。

挿絵(By みてみん)

ベテラン刑事デカは美浦が殺されたのだと悟った。

激しい雨足は衰えず、暗雲はいっそうたち込めて不穏。


ぼたぼたと重たい雨粒に打たれながら、千枝子とケイ子は阿羅漢手本堂に現れた。

羅睺羅大門をくぐり抜け、参道を進み、本堂の表玄関に到着する。

将来を約束された千枝子の名は知れ渡って居る。

すれ違ったものは皆、少女にこうべを垂れる。

少女はそれが当然だという風体で、まるで意に介さず歩を進める。

たどり着いたるは本堂の心臓部たる金堂。

引き戸をスパンと横に投げ開けてずかずかと踏み入る。

十六羅漢像の前には麺痔州人と良久の二人。

無礼であるぞと詰め寄ってきた良久を、ケイ子が横に払い投げる。

かくして千枝子は麺痔州人と対峙する。

「ナモー タッサ バガワトー アラハトー サンマー サンブッダッサ!!」

少女の甲高い怒声。

「まてい!!大師父は!大師父は!」

麺痔州人のもとへ駆けつけんとした良久の腕をケイ子がひねりあげる。

「おのれぇ、汚らわしい血の飼い犬めがぁ。」

六車の宿命に殉じているケイ子の目に一切の感情はなく、表情は死人しびとのごとし。

故にいかなる罵りも、今の彼女の心には響かない。

「良久さん。あなたに聞きたい事があります。」

「ちいいっ!」

良久は震え上がった。

六車の人間は、必要ならば相手の爪を剥ぐし、顔の皮を剥ぐ。

苦痛と屈辱を与えて、情報を聞き出す。

仕える者のために、全自動で何でもやる、心を捨てたロボットなのだ。

千枝子は右腕を振り上げて、久々の獲物に目を血走らせた狼の様に、老拳士に襲いかかる。

「大師父!!」

老人の身を案じる痩せ男はしかし、六車の手刀を顎に突き付けられ、すくみ上がるのみ。

六車の手刀は血の匂いがする。

これは比喩ではない。ケイ子の手は実際に血を吸っている。彼女は全身に返り血を浴びているのだ。

洗っても洗っても落ちはしない、恨みのこもった、彼女の全身に永久に残り続ける万年血痕。

器の小さい痩せ男はしかし、老人のために恐怖に打ち勝ち一歩を踏み出した。

「大師父!!」

バキム!!

六車の拳が良久の左ひじを殴り砕いた。

「ぐあああっっ!!!!」

痛みにのけ反り倒れそうになる。

六車の人間は、どうやったら苦痛を与えることができるのか、人体の急所を熟知している。

ケイ子は、そんな六車の血が大嫌いだ。

痛みに悶絶する人間を、虫でも観察するように冷静に見て…正しく痛みを与えられたかどうかを推し量っている。

そして、苦痛が不足していると判断すれば、さらに痛みを与える。

そんな血も涙もない、人体を破壊する機械になってしまった身の上を、彼女は悲しむこともできない。機械である六車の血には、悲しむ機能が実装されていない。

「イチ!ニッ!くっそ!!」

麺痔州人と千恵子の激しい戦いは続く。

その横で、ケイ子は良久の頭を踏みつけて、冷たい板の間に押し付けた。

ケイ子は思う。

ああ、まだ暴力をふるう相手が良久で良かった。

自分は、たとえ相手が年端もゆかぬ子供でも、何の罪もない老婆でも、等しく酷いことをしてしまえるから。

良久が相手なら、彼が久利人にした、それ以上のことをしてやって勘定が合う。

ケイ子は痩せた男の懐からわずかに顔をのぞかせているものに気が付いた。

気が付かれて慌てる痩せ男。

「そ、それはっ…うがっ!!」

彼女は良久のこめかみを蹴飛ばして、懐から独鈷杵を奪い取った。

そして今一度足で彼の頭を踏みつけなおして、硬い床にたたきつける。

「わたしの久利人をどうするつもりか。」

一瞬足の力を緩め、再び力を込めて床にたたきつける。

鼻血がタラタラと流れ落ちる。

「どうするも何も、奴を阿羅漢手一門から排除し、遠ざけたい。それだけだ。」

「命を奪って…か?」

これに驚いたのは良久。

「そこまでやる必要がどこにある!?奴は独鈷杵を奪い去った反逆者。そのうえで奴を負かせば鹿野苑ろくやおんの盟約がものを云う。血は無用。この身は六車とは違う。血に汚れた六車とはな!」

「その独鈷杵はここにある。お前の言うことは嘘ばかりのようね。」

「本当だ!第一、命を奪うだなんて話、どこから出てきたのだ!?」

ケイ子は首をかしげる。

「お前、ニュースは見ていないのか?」

「ニュースなど、俗世の阿呆のタコ踊り。阿羅漢手に帰依したこの身に興味はない。」

「千歳空港の狙撃事件も、旅客機のテロ事件も知らないのか?」

「なに!?し、知らぬ…」そんな大それたことが起こっているのか。声のトーンは急激に下がり、痩せ男はJCと一戦交えて居る真っ最中の麺痔州人の方を見やる。大それたテロ行為は自分の仕業でない…だとしたら…

ケイ子も良久の視線を追って老人を見る。

「どうやら、あのご老体に聞いた方が早そうね。」

これに焦ってケイ子の足にすがり付く痩せ男。

「全部話す!この身が全てを話す!大師父は何も知らない!何故なら大師父は…」ここで良久は口ごもった。

「ぐはぁっ」

老拳士はフラフラとよろめき、ドスンと尻もちをついた。

いよいよ、現阿羅漢麺痔州人と挑戦者千枝子の決着がついたのだ。

挑戦者の勝利という形で。

「朕を打ち負かすとは、流石は朕が認めた天才。非凡にして無双。」

老人は胡坐をかいてニヤリと笑うと、「ぐはあっ!」と吐血して、床に長く伸びてしまった。

不思議と、千枝子に勝利の実感がない。

確かに麺痔州人は強かった。

しかし彼は阿羅漢。阿羅漢手の頂点に立つ男。

この程度ではない筈だ。

千枝子が千年に一人に逸材だからだと、そんな一言で片付けられようか?

否。

相手は老いたとはいえ阿羅漢。阿羅漢手の頂点に立つ男。その実力に疑いの余地はない筈。

勝つにしても、千枝子だって瀕死の重傷を負って然るべき。

嗚呼、それほどの激しさが常とは、阿羅漢手とはいかなる格闘術なのか!?

「話の大体は横耳で聞いていたわ。」

千枝子はケイ子の手から独鈷杵を受け取った。

ポーン、ポーンと、独鈷杵をお手玉する。

「フン。これはもう時代遅れよ。」

独鈷杵を真上に放り投げる。

そして、落ちて来たところに足を突き上げて、かかとで独鈷杵を粉砕してしまった。

良久は顔面蒼白。

「何ということを!その独鈷杵は阿羅漢手の魂なるぞ!」

千枝子はしゃなりとツインテールをかきあげた。

「今迄はね。でも、これからは違う。」

「何が違うというのか!?ああ、何という取り返しのつかないことを。」

「大昔の錆びついたおとぎ話は不要だと言っているのよ。これからは兄様が持っている独鈷杵こそが阿羅漢手の魂。」

「言うに事欠いて戯言を!」

「兄様は阿羅漢手史上類を見ない戦いをくぐり抜け、生きた伝説となって凱旋するわ。その兄様と運命を共にし、風呂桶一杯の返り血を浴びた兄様の独鈷杵こそが、腑抜けた現代に入魂する真の阿羅漢手の魂。」

「狂って居る。やはりそれが平李家の本質なのだ。正気ではない。」

「うーん、」

麺痔州人が気を持ち直した。

千枝子が麺痔州人の襟首をひねり上げる。

「さぁ、鹿野苑の盟約を。」

「ふっ、ふっ。何でも申すがいい。戦いの格は羅漢であったが、なぁに、朕の命でも構わぬぞ。」

「尽きかけの蝋燭のような命、豚の餌にもならぬ。お前の地位をよこせ。」

「ほう、”朕の地位”を所望か。言葉通りでよろしいかな?」

引っかかる物言い。

その裏を勘ぐってしまう。

「まぁ、確かに戦いに勝利した時点で手に入るものだけれど…何か?」

「小娘に務まるか心配をしたまで。」

「爺様の老婆心に過ぎないわね。黙ってよこしなさい。それ以外は必要ないわ。」

「ぬかしよる。」

良久が肩を震わせて床を殴りつける。

「ううぬ!黒猫が示した凶兆は、久利人では無く千枝子であったか!妹こそが凶星!」

これを千枝子が笑い飛ばす。

「馬鹿ね、黒猫が示したのは吉兆。紛れもなく兄様を示しているわ。阿羅漢手の全ては、煌星きらぼしである兄様によって書き換えられる。」

「終わりだ。千五百年にわたる阿羅漢手の歴史が終わる。」

麺痔州人は「案ずるな」と痩せた男に耳打ちして抱え上げ、二人はそそくさと金堂を去って行った。

ケイ子がスッとスマートフォンを取り出した。

だがそれはケイ子のものではない。

Sony Xperia X Sailfish OSバージョン。

「大庭良久のスマートフォンを、ちょっと拝借しておいたの。千枝ちゃん。どこかに使えるパソコンはなぁい?」

図書室に行き、共用のパソコンに千枝子のアカウントでログイン。

ケイ子はパソコンにスマートフォンをつなぎ、ものの三分でロックを解除、パスワードをクラックしてしまった。

千枝子はケイ子の手からスマートフォンをひったくり、通話履歴をチェック。

「千枝ちゃんここ、時間が旅客機テロ事件の直後よ。」

横からケイ子が指さす。

「分かってる。ケイ子さんがかけて。」

千枝子は通話履歴の”禿”という表記を見て嫌悪感。電話の相手をケイ子に任せた。

発信すると、禿はすぐに電話に出た。

『痩せ!最高のタイミングで電話をかけてきたな。このまま十秒待って居…ろおおおおおおおおっっっ!!!!』

禿の声の向こうに、激しい爆発音と、久利人の叫び声も聞こえてきた。

『こなくそおおおおおおおおっっ!!』

極楽浄土に行けるよう念仏を唱える久利人の声が、禿の声の隣に聞こえる。

ただ事ではない。また、またまたまた、久利人はトラブルに巻き込まれている。

それも死に直面するタイプのトラブルだ。

これが久利人との今生の別れになるかもしれない。

そう思ったケイ子は「久利人と代わって!」と思わず叫んでいた。目に涙を浮かべて。

「え?え?なに!なに!なに!?」

千枝子はケイ子の泣き顔を覗き込んでうろたえる。

「久利人がっ!久利人がっ!」

どがっしゃああああああああっっ!!!!

スマートフォンから壮絶な破壊音が聞こえてきた。

ケイ子は思う。電話の向こうの禿は今、グランド・セフト・オートでもプレイしているのだろうか?

ゲームのSEがスマートフォンから聞こえているだけなら良いのに。

そして、滅多なSEに続けて、滅多なセリフが聞こえてくる。

『ぐあああーっ!いでででで!効いたわぁ~!うぉーい!少年!生きてるかー!』

ケイ子は顔色をなくして下あごをわなわなと震わせている。禿は久利人に対して「生きているか」と聞いているのか?そんな状況なのか?

肝が縮み上がるほどの間があって、かすかなうめき声が聞こえてきた。

久利人だ!

久利人の声だ!

『はっ!はっ!はっ!しぶとい奴め!』

『どうかな?自分は死ぬ寸前だ。いててて…』

『はっ!はっ!はっ!リヤフェンダーがいきなり吹き飛んだときは驚いたよな!声を失ったよ!』

『ロケット花火が暴発した程度に言ってくれる。』

『おっと、電話を待たせていた。少年。ちょっと待っていてくれ。もし、もーし。』

「久利人は無事なの!!」

ケイ子がスマートフォンにかじりつく。

『これくらいで死ぬような男なら、とっくに死んでいる。って、誰だお前?痩せじゃあないな。女かぁ?』

「良かった…本当に、良かった…」ケイ子は床にへたり込んでぐしゃぐしゃと泣く。

「禿だけに怪我(毛が)無くて良かった。」

千枝子のこのいかしたジョークは軽くスルーされた。

ブラコンの妹は、三歩離れた場所に座ってすねた。

「さぁ、本題よ。あなた、大庭良久が放った刺客ね。本件から手を引いて。私の久利人に手を出さないで。」

『だから誰だと聞いている。お前はなんだ!少年の彼女か?』

これはグッドクエスチョンだ。

千枝子をチラ見するケイ子。

ジョークが滑ったことに腹を立てて、千枝子はすねてそっぽを向いていた。

つまり千枝子には、この会話は聞こえていない。

今こそ、次の通り返事をするとき。既成事実を積み重ね、いつか真実にするために。

「そう考えてもらって構わないわ。」

『うーむ、』

「…」

『リア充はぬっ殺すしかねーなー。』

「何ですって!?」

『あ、スマン。つい、二人目の俺が…。』

禿とケイ子の会話中に、久利人のVAIO Phone Bizに着信。

万梨阿からだ。

『占いが出たわ。天辛盤で地盤は己の入獄自刑にゅうごくじけい。そして杜門。あなた今、誰かと行動を共にしているわね。その者はあなたの行く手を阻む。お逃げなさい。』

「…わかった。ありがとう。」

禿とケイ子の会話は続く。

『彼女なら安心しろ。』

「彼女ですって!!?」

気持ちを立て直して戻ってきた千枝子が、禿の発言に殺気立つ。

ケイ子が「勘違いしているだけ。面倒だから聞き流して。」と耳打ちする。

それを聞いて千枝子は落ち着きを取り戻した。

何たる策士か、六車ケイ子。

『俺は巨大な謀略から少年を保護するために、少年を打ち倒して保護下に置くつもりなのだ。』

「ハン、」千枝子が鼻で笑う。

「兄様が負けるなんてあり得ないわ。身の程を知りなさい。」

『そうかい?ところがどっこい、俺が負けるっつーのも馴染みがねぇ。』

「大庭良久ならば先ほど失脚しました。あなたの話が本当ならば、戦う理由はない筈です。」

ケイ子が禿を説得する。

『まじで、』

「ええ、」

『そんな簡単に?』

良久は小物だが、ドブネズミなりにしぶとい男だというのが禿の印象。よって違和感がある。

それでもケイ子の返事は「そうよ。」だ。

ドドドドドドドドド!!!!

大地を揺るがす轟音。

禿と久利人は横浜市三ツ沢公園の馬術練習場に不時着していた。

ドドドドドドドドド!!!!

轟音のする方を見て、禿は『本当に奴は失脚したのか?』と問いただす。

「もう、大庭良久には何もできないわ。」

『何もできない…だと?』

ドドドドドドドドド!!!!

『じゃあ!なんだ!!これ…わああああああっっ!!!!』

電話はそこで切れた。


牛だ!

牛の大群が馬術練習場になだれ込んでくる。

どの牛も目を真っ赤に血走らせて、その野太い角で人の生き血をすすらなければ収まりがつかないといった荒くれようだ。

「少年!立てるか!」

「ああ、」久利人は満身創痍の身体をよろめかせながら立ち上がった。

来る!

牛の大群が来る!

「くっそ!めちゃくちゃだーっ!」

禿はボクシングのような構えを取り、華麗なフットワークで蝶のように舞い、ひらりひらりと牛どもをかわす。

一頭の牛が角を下げて、今はまだ朦朧として立って居る久利人めがけて突進してきた。

「少年!」

禿は届かぬ距離と知りつつも、少年を助けるために手を差し伸べる。

「くっ!」

久利人は下から突き上げてきた角の上にひゅっと飛び乗り、そのまま首の上を走って牛の背に乗った。

少年Aのこの一手で話は変わった。このままでは少年に逃げられてしまう。禿は焦った。

「うおお!ちょっと待て!待ちやがれいっ!!」

少年は牛の背にまたがり、ようやくひと心地ついた面持ち。

「助けてくれてありがとう。礼は言っておく。」

「違う!お前を助けるのは!これからが本番なのだ!!」

その叫びもむなしく、牛の背に乗った少年Aの背中はみるみる小さくなってゆく。

自分も牛の背に乗ってやろうと思いついたが、時すでに遅し。

牛の大群はやり過ごしてしまい、彼が乗れる牛は一頭も残ってはいない。

「まだだっ!」

ここは馬術練習場。幸いにも馬がいた。

「かせっ!」

手綱を奪い取り、馬の背にまたがる。

禿は馬を駆って、すでに町中に入り四散してしまった牛の大群を追った。


横浜にある、とある動物病院の前に牛が一つぽつんと立っている。

久利人に手なずけられ、今や童の様な穏やかでつぶらな瞳をしている。

その動物病院の中。

「とっ、とととと、取り敢えず一本打っときますか。」

如何にも不健康そうに顔色の悪い女医が、ガタガタと震える手で注射器を構えている。

「ま!まてい!」

久利人は愛猫ビラリーを抱きかかえて、女医に背を向ける。

「だ、だだだ、だーじょーぶ…げふぉぉーっ!ごっほ!」

盛大にせき込んで、吐血しやがった。

「大丈夫そうに見えぬ!」

縁山へりやま麗菜れいな

フェリーの船長キイスが、「めい医」と紹介してくれた女医だ。


麺痔州人は良久を伴って、久方ぶりに筑波山をおりた。

二人にとって筑波山の下は下界。滅多にもおりることはない。

ハイヤーを呼んで、つくば市街へ。

「おい。電話を貸せ。」

老獪なる白髪は痩せ男に手を差し出す。

痩せ男は自分の懐を探り、合点が行かぬ様子で自分の体のあちこちを触る。

「どうした?」

「申し訳ありません。どこかで落とした様です。」

老人は首を振る。

「いーや。きっとお前の電話は六車の畜生の手の中だ。」

「え!?」

「だから複雑な機械は嫌いなのだ。昔ながらの単純な機械だけを使っていれば、大事な情報が漏れることはない。」

良久はスマートフォンを盗まれた失態を恥じ入りうつむく。

「恐れ入ります。」

「確かあの酒屋に公衆電話があったはず。おい、運転手。道を戻ってくれ。」


大阪は中之島に立つ超高層ビル。弩鳴塔。

現職の日本総理大臣、弩鳴どなる洋札ようさつは窓辺に立って下界を見下ろしていた。

スーツのポケットの中でSIRIN LABS SOLARINワンオフ技適取得スマートフォンがぶるぶると震える。

着信だ。

公衆電話からの様だ。不審に感じながらも出る。

『朕じゃ。』

「おお。これは迦諾迦先生。」

『至急、財団まで来い。』

「公務がありますので…」

『至急じゃ。』

「…分かりました、スケジュールを調整してみましょう。」

『今こそ貴様の出番じゃ。貴様の時代を作るがいい。』

電話はそれで終了。

しかし、その最後の一言で用件は呑み込めた。

洋札は息子の芭良ばろうに電話をする。

「やんごとなき御用にて、二日ほど消える。後は何とかしておけ。」

洋札はプライベートジェットの手配をし、キャデラック CTS-V カーボンブラックパッケージのショーファードリブンストレッチリムジン改造車で大阪国際空港へと向かった。

素人小説が好きだ。

私は世で売れまくっている小説の良さが全く理解できず、素人の小説に救いを求めている。

私の小説に対する趣向は、残念ながらずれていると思う。

その点において、人生の楽しみが人より少ないのではないかと卑屈になってしまう。


私の本業はプログラマで、こっちは天職だと思う。

正しく機能することはもちろん、メンテナンス性やポータビリティーまで考慮に入れて、お客様が求めているプログラムが書ける。


文字を書くという点では同じなのに、なぜ自分は読み手が求めている小説を素直に書けないのか?

常に「プロの手口=売れる方程式」に反逆してしまう。

書くだけでなく読む方としても、そういう素人小説が大好き。

プロは上手下手の差こそあれ、売れる方程式でしか書いてくれない。


それを踏まえたうえで念を押しておきますが、この小説は「コメディー」です。

「コメディー」

ネタを一発決めるために、その導線としてシリアスっぽい展開が延々とある。

コメディーを追求した結果、シリアス成分がめっぽう増えたという…本当にプロは絶対にやらない。


あと「めい医」は「迷医」じゃないので。

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