プロローグ
真っ赤な夕日が沈んでいく最中、張り上げられる少女の声がする。
少女は、コートの裾を振り回し、隣の少年に向かって身振り手振り激しく何かを訴えているようだ。それに対し少年は、学生服の上に羽織ったジャケットの襟を両手で引き上げ、首をすぼめて面倒くさそうにしている。
両側に住宅が並ぶ通りを歩く少年と少女は、喧嘩をしているようだが、二人歩調を合わせて歩いている。
「どうして残したのよっ!」
「残したんじゃないって。後で食べようとして、忘れてたんだって……」
「いっつもそうじゃないっ! 優柔不断で決断が遅いからっ、失敗するんでしょっ!」
「卵焼きくらいで大げさな……」
すると、頬を膨らませた少女は、少年の真横から体当たりをする。少年は、左の塀にべったんと貼り付くように衝突した。
「だいたいっ! 今日はしょっぱいのって言ったくせに、どうしてすぐ食べないのよっ!」
振り返った少年は、鼻を両手で押さえながら答える。
「だって、四時間目は体育だったろ? 持久走の後は、甘い卵焼きの気分だったから、後にしようかなって……」
鼻声の少年に返事を返さず、少女は前だけを向いて黙って歩いた。
しばらく進んだ所で、二人は足を止めた。
少年が伺うようにして少女を見るが、少女は背を向ける。そして、そのまま正面にあった家の門を開け、扉を開けて家へ入っていった。
それを見送った少年は、少女の家に背を向け、向かいの家へと入っていく。
「参ったなぁ。怒ったのかなぁ。謝ろうかなぁ……」
少年は、靴を脱ぎながらポケットから携帯を取り出した。
「ん~……、まあ、明日で……良いかぁ」
少年は携帯をポケットに戻し、二階への階段を上がっていった。
……その晩、アイツは死んだ。