一話【日常】
こんにちわ。 黄田です。 本日も私の作品を見ていただきありがとうございます!
どうか楽しんで見て頂きたいと思って書きました。
お願いいたします!
今日は風が気持ちがよく天気にも恵まれての絶好の日和だった。 ユウは朝早くから家を出て、立派な聖人になる為に魔法や勉学、そして剣術などを教えている学園の近くにある小さな木の上にスケッチブックと鉛筆を持って登っていた。 学園の場所は【始まりの木・ダンジョン】と呼ばれる空よりも上に伸びている木から少し離れた丘の上に建っていた。 そこからの眺めは街を眺めることができ、ユウにとっては二番目の絶景で気に入っている場所だった。
鼻歌交じりに街の様子をスケッチに書いていく。 もう何枚描いたか分からないその街の風景はどれだけ書いても飽きることはない。 賑やかな住宅街、朝早くから開いている商店街、今からダンジョンに向かう聖人達、これから勉学を学びに行くのに憂鬱そうに登校している生徒や友人と仲良く通い、楽しそうにしている生徒達。 この景色はいつ見ても心が晴れやかになる。
「・・・できたっと。」
もう今では一時間もあれば街の風景を書けるようになって余計に絵を描くことが楽しくてしょうがない。 一時期本気で絵を描く仕事でもしようかと悩んだ事がある。
「まっ、そんな訳にもいかないのが現実なわけでございます。」
そんな事を一人で呟いていると学園の門から何やら女性の歓喜な声が届いてきた。 しかし、これもこの学園に入ってから日常となっていたのでユウは気にもしなかった。
チラッとだけ見ても「やっぱり。」という言葉しかでない。
この学園には有名な生徒が3人いる。 その内の一人が今その女性に声をかけられながらも笑顔で校舎に入っていく人物。 彼の名前はアスタルト・デビバルト。 この学園で一番成績がいい優等生様だ。 目にかかるくらいの綺麗な紅い髪に、整った顔、そして誰にでも優しいという事で男女関係なく人気がすごい。
「アスタ先輩! あ、あのよかったらこれ食べてください!」
「ん? この匂いはクッキーかな? ありがとう、昼休みにでも頂くよ。」
「アスタ君! 今日もかっこいいね!」
「ありがとう。 そんな君も今日も可愛いね!」
「あ、あの先輩・・実は勉強でわからない所が・・。」
「うん? あぁ、確かここはこうしたらすぐにわかるよ。」
・・・男女関係なく人気ものです。 しかし、やはりそのほとんどが女子だという事も覚えておいてください。
やっと優等生様が校舎に入って賑やかだった女子達も中に入った所でそろそろユウも学園に入ろうと思い体を伸ばしていると、次は雄叫びを上げる男子生徒がクラスの窓から門の前まで顔を出して目をハートマークにして二人の女子生徒を出迎えていた。 急な雄叫びで木から落ちそうになったが何とか持ちこたえ、原因の二人の女子生徒を見る。 正確には女子グループの中にいる二人だ。 これもこの学園に通っていたら知らない生徒はいない。
一人はユウとアスタルトと同じ学年のシェリー・ブリーブ。 アスタルトの次に成績がよく、ほとんどの魔法をマスターしてしまった生徒。 人に教える事がうまくさらにまとめ上げることもできるので誰にでも好かれる。 彼女こそ男女問わずに好かれる人物である。 さらに男子から人気なのはそのスタイル。 ショートの水色の髪にスラッとした身長。 プラスそのスタイルで出ている所は出ている、世の男なら誰でも見てしまう最強の美貌である。
「あはは・・今日もすごいねベル。」
「・・・はぁ。」
苦笑いのシェリーの隣で少し小さめの女子が軽く溜息をもらす。 彼女はベルナ・デビバルト。 二つ下の後輩にあたり、あのアスタルトの妹。 その子は、この学園始まって以来の天才と呼ばれ、成績優秀のアスタルトとシェリーよりも勉学・魔法・剣術に置いてどれもずば抜けた才能を開花させていた。
シェリーよりも少し背が小さめではあるが、腰まで伸びている綺麗な黒い髪に、輝いて見える紅い瞳、そして誰でもその子が通ると遂見惚れてしまうくらいの存在感が男子には女神に等しく見えているらしい。
「まぁ、スタイルはやっぱりシェリーの方が上だがあああああああ!!」
落ちそうになっていた体を整えようとしていたら、足をかけていた木の枝が折れ、バランスを崩しそのまま落下してしまった。 頭を押さえてもがいていると門の方から強い殺気を感じとれた。
「ど、どうしたのべル。 急に魔法唱えたりして?」
「いや、なんか不愉快な事を言われた気がしまして。」
・・・すいませんでした。
今だ殺気をこちらに向けている女神に内心で謝罪しながらコソコソとその場を離れた。
*
まだ午前中が終わったばかりだというのにユウはすでに頭がパンク寸前にまで追い詰められていた。
「数式なんて覚えて一体何の意味があるんだよ。 あぁ~疲れた~腹減った~。」
後ろの窓側の席でずっとブツブツ言いながら姉が用意してくれた弁当を取り出し朝いた木の場所に移動する。 別に友達がいないわけではない。 どちらかというと多い方だ。 だがユウは大体はそこにいることが多いのでクラスの連中も用があればそこにいると把握しているほどである。
この学園は休み時間の間なら学園から近くにある食店街まで行って来てもいい事になっている。 だから別段門から堂々と出ても誰も文句は言われないが、もしも時間以内に戻ってこれなかった場合はそれなりのペナルティーがある。
「ユウ? 今からご飯?」
靴箱の所で朝から注目を得ていた女性が一人、可愛らしい弁当箱を持って立っていた。
「シェリー。 なんだべルでも待ってるのか?」
「ううん。 ベルなら先に行ってるよ。 ユウを待ってたの。」
「ふ~ん。」
特に気にせずシェリーの言った事をそのまま受け入れ、普通に靴を履き直したユウを見てシェリーは小さく頬を膨らました。
「えっ? 何その顔。」
「べっつに! なんでもな~い。」
いじけた様にユウと目を合わせず一人で先にいつもの集合場所に向かうシェリーの後を、怪訝そうな顔をしながら後をついていった。
門を出て木の方を見ると、すでに二人待っているのが見えた。
「お待たせー二人共! ユウが来たよ~。」
シェリーは手を大きく振りながら二人の元へ駆け足で向かっていく。
「遅いよユウ。 僕もうお腹が空いたよ。」
「はぁ、兄さんさっき女の子からもらったお菓子食べてたじゃない。」
「おや? そういえばそうだった。 流石よく見てるねベル。」
「・・・白々しい。」
妹に呆れた目で見られているのにそれを気にせず笑っていられるのは中々いないぞ。 木の下に座り待っていたのはさっきの優等生男子、アスタと天才少女のベル。 この4人は実は昔からの幼馴染でよく一緒にいることが多い。 この歳まで一緒に遊び、学び、夕食も一緒に取ることが多い。 いや、どちらかというとほぼ毎日だ。
「お前らホント仲のいい兄妹だな。」
ユウも呆れたような顔でアスタを見るが、本人はその言葉をそのまま受け取り、ベルはあからさまに嫌な顔を向けてきた。
「ユウ・・。」
「・・・ごめん。」
すぐさま謝った。 謝るしかなかった。 謝らなかったら殺される。
「ほら3人とも~。 早く食べないと昼休み終わっちゃうよ~?」
シェリーがベルの隣に座り、弁当に包んでいた布をほどいていた。
「あ、あぁ・・そうだな。」
シェリーが自然に機嫌が直ったかと思うと次はベルの機嫌が悪くなり、ユウは気持ちが少し狭く感じながらベルの隣へ、そのままの流れでアスタはシェリーの隣に座り円を描く感じになる。 これも昔からの癖で、ピクニックとかになると大概この座り方になる。
それぞれが弁当を出す。 ベルとアスタは同じ具だが、アスタの方が大きく、ベルはシェリーと同じくらいの弁当箱。 具の種類は一口サイズのハンバーグに卵焼き、そしてニンジンの炒め物だ。
「今日はベルの手作りだからね。 米粒残さず食べ切ってやるさ。」
「!?」
ユウはすぐさま二人の弁当箱に目を向ける。 二人には親がいないがお手伝いさんで二人の世話をしている人が一人いる。 大概はその人が作っているのだが、たまにベルが作る時がある。 そして何故ユウがそこまでの反応を見せたのは理由が二つある。
一つはベルの手料理は本当に美味しい。 姉のマサミもかなり美味しいと思うと思っていたユウが、ベルの手作りを食べた時は感動のあまりしばらく忘れられなかったくらいだ。 だからたまに二人の家に夕飯をご馳走になる時は、ユウが土下座をして作ってもらう。 ベルはあまり乗り気ではなさそうだが、なんだかんだ作ってくれる。
二つ目はーーー。
「ユウ?」
「ふぁい!?」
弁当に集中しすぎてベルが顔を近づけていたのに気づかず変な声で返事をしてしまった。
「まったく。 そんなに見なくても少しなら分けてあげるわよ。」
こうなる事は分かっていたかの様にベルの弁当には少し多めにハンバーグが入っていた。 その中で一番大きいハンバーグをベルはユウの弁当箱に入れる。
「お、おい。 一番大きいのもらっていいのか?」
「いいわよ。 どうせあんたが欲しがると思ってそれ作ってきたし。 何いらないの?」
「いただきます!」
気持ちが変わる前に一口でハンバーグを口に入れ込む。
「・・・うめぇ・・・。」
本当に美味しくボソッとそう呟くとあまり笑顔というものを見せないベルが「そう。」と言いニコッと笑っていた。 ユウはその顔に見惚れてしまう。
二つ目の理由。 それはユウは学園内の天才美女のベルに恋心をひっそりと抱いているからだ。
「「ごっほん!」」
「!」
さっきまでジッと見ていたアスタとシェリーが一つ咳き込む。 ユウは慌てて目線を自分の弁当に戻し頬張る。
「え~と、ユウ?」
「ん? ほひた?」
シェリーに呼ばれ、まだ口の中に入っている状態で返事を返した。
「私も今日実はベルと一緒にハンバーグ作ってみたから味見をお願いしたいんだけど・・いい?」
「「!!?」」
「・・・」
その一言でシェリー以外の3人は集まって聞こえない程度の会議が始まった。
《おい妹よ! 今日はやけに朝早くでて僕より来るのが遅かったと思えば一体何をしているんだ!》
《顔近い、離れてアホ兄。》
《!!・・・これが反抗期か・・くっ!》
また馬鹿な事を言っているアスタは少し涙を流しながらも離れる様子はなかった。
《いやでもお前大丈夫なのか!》
《・・・・大丈夫よ。》
《おい、今の間はなんだ間は!》
こちらの様子をポカンと見ているシェリーにソッと目を向ける。 弁当の中身は卵焼きにソーセージが入っており、その横で何やら禍々しいオーラを纏ってるハンバーグのようでハンバーグではない物が数個入っていた。
《ハンバーグ以外は私が作ったのよ。》
《ならなんでハンバーグは別なんだよ!》
《しょうがないじゃない。 昨日の帰りハンバーグ作ってみたいって先輩が言ってたから・・その・・。》
《・・気迫に負けたんだな。》
《否定はしないわ。》
即答で答えながら昨日の事を思いだし小さく震えているベルを見ると多分昨日何かあったのだろうと推測はしたがそれ以上は踏みこまなかった。 いや、踏み込みたくなかった。
するとさっきまで一人で泣いていたアスタが復活し先ほど以上にベルに顔を近づけた。
《もう一度聞くが妹よ。 それでも何故試食なんて事になっているんだ? あれは絶対に他に食べてもらえる為に多く入れているじゃないか!》
《兄さんの分もあるらしいよ。》
「シェリー! 僕のハンバーグはどれだい!!」
ものすごいスピードでシェリーのお手製ハンバーグの試食にいった。 シェリーも嬉しそうに弁当箱からハンバーグを取り出し、アスタの弁当箱に入れる。 それを取り、勢いよく頬張る。
「「・・・」」
「・・・どうかな? おいしい?」
「うんうんうんうん・・・・う・・ん・・・。」
アスタは顔を青くして仰向けに倒れてしまった。
「アスターーーーーーー!!」
駆け寄ると何かボソボソと話しているのに気づき、耳を近づけてみる。
「に・・・にが・・い・・・ガクッ。」
「・・苦いって、いったいあれに何が!」
恐ろしい物でも見る顔をしていると、シェリーは「う~ん。」と言いながら頬をポリポリと掻いている。
「やっぱり特性苦草を混ぜたのはまずかったか。」
特性苦草はダンジョン内でとれる薬草で、疲労回復・魔力回復の効果を持っているのだが、調合なしで食べると唯々苦い薬草なのだ。
「最近アスタ君疲れているようだったから少しでも回復させようと思ったんだけど。」
「たった今ライフが0になったよ!!」
少し強めにツッコミを入れたつもりだったのだが、シェリーには通用しなかったらしく、他のハンバーグを取り出してきた。
「じょあ次は、ユウね? はいあ~ん。」
「ひっ!」
学園に人気のある女子にあ~んをしてもらうなど男子にとってこれほど幸福な事はそうない事の筈なのだが、今この状況は命に関わる。 ピクピクしているアスタを置いてその場から逃げようとした時、後ろから小さい腕がユウの脇をガッシリと閉め逃げれない様にしてきた。
「!! ベル!」
「ごめんユウ。 先輩の料理、食べて!」
決死の覚悟と言わんばかりの顔を決めているが、この時からユウはシェリーの事でもハンバーグの事でもなく、背中に感じる柔らかい物を意識してしまいパニックになっていた。
「ちょっ! ベル! 放して!」
「いや、放さない。」
ジタバタ動くとより背中の感触が感じとってしまい、仕方なく動きが止まってしまう。 するとガシッと顔を強い力で固定された。 その犯人は言わずともなくシェリー本人。
「はい、あ~ん!」
昔からシェリーの料理は何故か普通の味にならない。 ある時はしびれ草を混ぜ、またある時は何の味かもわからないが一口入れると嘔吐するようなものまであった。 そしてそんな時のシェリーはとても怖い。
今までの事を思い出して逃げようとしても後ろには好意を抱いているこのハグがあり、まさに天国と地獄の境だ。 ユウは口さえ開けなければと思い強く口を閉じるが。
「往生際が悪い!」
「がぶ!!」
まさかの無理矢理ねじ込んできた。
「・・・。」
「どう? 美味しい?」
この後、ユウとアスタは午後の授業は休み、保健室で寝込むこととなった。
*
「ひどい目に合った・・・。」
あれからユウとアスタは下校時間まで保健室で休むことになり、ベルとシェリーは残って基礎トレーニングを、アスタは講師に呼ばれ連れて行かれた。 ユウは特別に今日はもうやることが無く、いつも道理に木の上に登り、夕暮れの景色に染まる街を描いていた。
「ユウ、また街を描いてるの?」
「!」
下からいつも聞きなれているこの声に気づき絵を描くのを途中で止め、下を見る。
「なんだベル。 ランニング中か?」
動きやすい様にTシャツに短パンを着て、髪を後ろの括りまとめているからかかなりの汗をかいているのが分かった。
「ん。 まぁね。 今終わったけど。」
「そっか。 お疲れさん。」
ユウはまた街の方を見てスケッチを再開した。 すると、ベルはその小さな体を身軽に使いこなしユウのいる木の枝まで登ってきた。
「どした?」
「別に、今日はどんな感じに書いてるのかなって思って。」
後ろから顔を近づけ耳にベルの息が軽くかかる。 それがとても緊張して、それでとても心地がよかった。
「相変わらず絵うまいね。」
「まぁな。 毎日書いてれば誰だってうまくなるよ。」
なんとか普通に装うが内心は心臓が破裂するんじゃないかというくらいドキドキが止まらなかった。 自分の好きな子が振り返れば目の前にいる状況で緊張しない人なんていないだろう。
そんな数分の時間が何時間にも感じ、そしてもっと欲張りな考えが次々と沸いて出てくる。 もしも、今告白なんてしたら、彼女はどう思ってくれるんだろう。
彼女と恋人同士になれたらどれだけ嬉しいか。 そんな事を頭の片隅で考えていると、門のほうからシェリーの声が聞こえてきた。
「ベルー! もう皆走り終えたから次のメニューするよー! 戻ってきてー!」
「・・・だってさ。 早く行きなよ。」
「うん。」
ベルはそこから飛び降りてそのまま駆け足でシェリー達の所に向かっていった。 その後ろ姿を見てユウはスケッチブックの紙を一枚戻し、先に書いてあった絵を見る。
「・・・告白なんて、無理か。」
そこにはベルの笑顔な顔が描かれていた。
*
今日はユウの家に集まり夕食をする事になっているので日が暮れると同時にまっすぐに家に帰った。 3人はまだやる事があるらしくもう少し時間がかかるらしい。
「ただいま~。」
家に入るとグツグツと何かを煮込んでいる匂いと、一定のリズムで包丁のトントンという音が聞こえる。
「あっ、お帰り~。 もうご飯の準備できるから手洗ってきな。」
台所で今日の夕飯の準備をしている姉のマサミにその隣にはデビバルト家のお手伝いさんという形で働いているレリー・ベルトルトさん。
「こんばんわユウさん。 お邪魔してます。」
ニコッと笑いながらの挨拶は誰が見ても惚れ惚れする。 何か彼の後ろにキラキラとした何かが見えるくらいだ。 何故こんあイケメンが今だ恋人もいないのかと思うが、そんな事を考えているとあの優等生3人にも浮かれた話は一切聞かない事を思いだし、考えるのをすぐにやめた。
「いらっしゃいレリーさん。 今日のご飯は?」
「ピッグラビットの蒸し肉と炒め物。 ほら3人もすぐに来るからあんたも手伝って!」
「は~い。」
ピッグラビットとは豚のような体系をしているのに関わらず、音だけで近くの危険を察知して、脱兎の如くその場からものすごい距離を飛ぶ生き物だ。 これの捕獲はあまり難しいものでもないので商店街ではこれの品ぞろえの方がいい。 それに、価格がお買い得なほど安いのではあるがこれがかなり美味しく、すぐに売り切れになるほどだ。 だから普段忙しくしている家庭ではあまりお目にかかることができない。
それぞれ部活やら学校の仕事などで疲れて帰ってくる優等生達の為にマサミの手料理を手伝っていると、最初にアスタが帰ってきた。
「ただいま~。 おじゃましま~す。」
「「いらっしゃ~い。」」
「今日もお疲れ様ですアスタさん。」
ユウとマサミは手を離せず台所から声をかけ、レリーさんは玄関まアスタを迎えにいった。
「あっ、レリー。 もう来てたの。」
「はい。 今日もまた色々とマサミさんから料理を教わっていましたもので。」
「へ~・・・ところで今日の夕飯は?」
「アスタさんの好物なピッグラビットです。」
「よっし!」
小さく拳を握り喜んでいると、さらに玄関が開き、シェリーとベルが帰ってきた。
「ただいま~。おじゃましま~す。」
「おじゃましまーす!」
「お疲れ様です。ベルさん。 シェリーさん。」
同じようにレリーがで向かうと台所から同じようにユウも顔を出した。
「お疲れ~。 もう準備できてるから3人共早く手洗ってこ~い。」
「「「は~い。」」」
適当な返事ではあったが、3人共家に上がるとそのままダラダラと手を洗いに行き、一人ずつ席についていった。
今日の夕飯はピットラビットの煮込みスープに炒め野菜の付け合わせ。 そして白米にキュウリ似たモノの漬物だ。 このレシピは実はユウが昔食べたいといってマサミに手伝ってもらいながら考えたレシピだ。
「どうユウ? 今回はかなりの自信があるんだけど?」
確かに自信ありきな顔でグッと顔を引き付けてきたマサミに少し避けながらスープをすする。
「うん! いつも通りおいしいよ。」
「そっ、ならよかった!」
正直マサミは料理が得意だから何を作らせても大概うまい。 むしろ普段はパンとジャガイモの蒸したものや肉を焼いたといったシンプルなのが当たり前なのにここまで習得しているのはすごいことだ。 実際はユウ自身、なぜ料理にここまでこだわっていたのかはわかっていない。
「本当に美味しいですよマサミさん! 私も大概は作れる方だと自負しているつもりですが、いつまでたってもマサミさんには敵いません。」
レリーが摘まんだ炒めモノを食べながら味の感想を伝える。 マサミは褒められて顔を少し赤くしながらそんなことないと言い、次々にご飯を口に含んでいく。
「僕もマサミさんが作ってくれたご飯は大好きですしレリーの料理も好きですよ。 あっ! ベルのも勿論大好きだよ?」
何故か最後はカッコつけながらベルに目線を向けるが、ベルは目を閉じて黙々と食べていた。
「ははは・・これが思春期か・・。」
「いや、ただお前がうざいだけだろ。」
キラッと目に涙を浮かべながらいるところにユウが隣で突っ込みを入れる。 テーブルの配置は男子3人女性3人が向き合って食べており、レリーの正面にマサミ、アスタの正面にはシェリー、そしてユウの正面にはベルが座っている形になっている。 別に狙ってこの配置になったわけではないが、ユウにとってこの食事の時間は一日の楽しみの一つなのだ。
黙々と食べるベルがたまに視界が入る。 目をつぶり味をしっかりと味わっているようだ。 そして目を開けて目当てのおかずを取るとジッとそれを見てから口に含みまた黙々と味わう。 これが食事が終わるまでユウはチラチラと見ることが最近日課になりつつある。
しかし、ユウはそれだけでなく、こうやって全員が集まってにぎやかにご飯を食べることが好きなのだ。 デビバルト家を一緒に食事をすることを誘ったのはユウからだった。 マサミと二人で食べるのもいいが、何となく当時この地に来たばかりの3人を元気になるようにしたかった。
気持ちを許し合えた人達と食事をとるというのはとても心が安らぐモノだ。
朝食では今日何をするのかとか、昼飯にはこれからどうしようとか、夕飯では今日どんな事があったのかと色々な話を聞いて喋る事が出来る。 こんな当たり前の光景がユウはとても好きだった。
「・・・ねぇマサミさん。」
「ん? なんだいシェリー?」
さっきまで静かに食事をしていたシェリーがお椀を置いてマサミの方に真剣な顔で見る。
そして、この後にぎやかだった食事の時間が重い空気へと繋がることを誰も知る由もなかった。
「私も作っていいかな?」
*
あの後、マサミ以外の全員が食事の手を止め一時停止した。 マサミも勿論シェリーの料理の腕を知ってはいるが、マサミはあまり気にしていないようなので・・・
「勿論作れるよ! 今度一緒に作ろう!」
---と応援する方向にもっていった。 喜ぶシェリー、身震いする男性3人、再び黙々と食べる女性で思い空気がしばらく流れた。
あれから、食事も終わり、少しユウの部屋で遊んだ後、それぞれ家に帰って行った。 マサミも後片付けをした後、自分の部屋に戻って就寝したようだ。 ユウはまだこの時間は窓から見えるダンジョンをスケッチする事も日課になっていた。
ユウのスケッチには必ずダンジョンが写るように書いてある。 無自覚ではあるが、なんとなく書いてしまうのだ。
今から数年前、まだユウがマサミに保護されたから一年しか経っていないあの時、大量の魔物が入口から現れ、人々が一時期パニックに陥った事件があった。 その時の記憶をユウは覚えていない。 正確に言うと、しっかりと覚えていない・・だ。 所々覚えていることがある。
真っ暗な場所で彷徨い、耳に張り付く嫌な笑い声が聞こえていた。 そしてそんな中、不気味な声の中で別の声が聞こえていた。 誰かの泣き声だった。 ユウは泣き声の方向に向かって歩き、たどり着いた場所は・・・よくわからない。 ただ、ただ分かった事は、何かの血の匂いと、少し離れた場所にうずくまって泣いている子供がいたように気がする。 しかしその後の事を思いだせないでいる。 気が付いたらユウは自分のベッドで眠っていて、そこでベル達に初めて出会った。
この時の魔物が現れたあの現象を【魔物の暴走】と周りのみんなは言っていた。 魔物には人間のように知性がない。 だから入口がどこにあって結界をどう破るかと考えたりはしない。 あの時はきっとダンジョンにいた聖人の誰かが、何かのミスをして魔物達を入口に導いてしまったと考えられたいる。
あの時偶然にもユウだけでなく、ベルもレリーの付き添いでダンジョンに入って、はぐれていたそうだ。 レリーがベルを発見して出口に向かう途中にユウを発見し、保護したのだという。
「はぁ~あ・・寝るか。」
日課のスケッチを作り上げ、電気を消してベッドに潜り込む。 明日も自分が片思いしている子に会えることを楽しみにしながら。
*
ユウが就寝についた同時刻、少し離れた小さい二階建ての家にあるのがデビバルト家が住んでいる家だ。 ベルとアスタはとっくに眠っていた。 下のリビングのテーブルではレリーが今日マサミに教えてもらったレシピをオプションに書き写していた。 オプションでデータとして残して置きたいのなら、オプションが付いている手の方の人差し指で二回、トントンと叩いたら、そこにパソコンのように画面が表示されて、叩いた所にキーボードのようなものが出てくる。
レリーはなれた手つきで黙々と記入していく。 画面には【料理ページ】と書かれたページが表示されている。 これくらいなら今の世の中ほとんどの人ができるのだが、マサミはあまり機械をうまく使いこなすことができないようで、普段は紙に書いていた。 だからレリーも同じように紙に書こうとしたら止められた。
「別に私と同じようにしなくてもいいですよ? レリーさんにはレリーさんなりにやりやすいやり方がいいと思います!」
真っすぐな目でそう言ってくれた。 その時の事が不意に頭によぎりクスリと笑ってしまう。
「ふぅ、終わった。」
オプションを直して、窓から見える月に目が移った。
「・・・旦那さま・・。」
今はレリーが預かっている二人の子供の親の事を思い出しまたポツリと言葉がでた。
「こちらの暮らしは、貴方様のほぼ言われた通りでございます。」
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました!
本来一週間に一回のペースで投稿していきたいのですがあまり上手くいかないものですね・・・。
それでも二週間も遅れることがないように頑張りますので次回もどうか目を通して頂きたいです!
それではまた次回に!