プロローグ
高校を卒業してもうすぐ一年になる。
俺はくたくた。隔週で変わる昼と夜のローテーションで、寿命は多分数日くらい縮まった。
たいした勉強をしなかった俺は、卒業と同時に有名電子メーカーの新工場立ち上げに伴う、臨時雇用の派遣となった。
いきなり正規雇用のレールから外れてしまったわけなんだけど、それでも親はきちんと職についたってだけで安心したみたい。
本当は高校時代から続けていたバイト先に残りたかったんだ。駅ビルの中に店を構えて、ギターやらCDを扱う音響堂って店なんだけど、運が悪いことにそこは高三の冬にテナントを撤退した。
夜勤で訳わかんない部品を組み立ててる時とか、ふと思うんだよな。音響堂が残っていたら俺の人生変わってたんじゃないかなって。
給料は安いよ。
でもさ、みんなが寝てる時間に働いて、家電に組み込まれるへんぴな部品作るよりは、ガキ共にギター売ってた方が楽しいよな。
この仕事だって最初は新鮮だったし、まぁ楽しくはないけど嫌でもなかった。だけど仕事なんてものはすぐにマンネリになり、すぐに退屈な毎日の繰り返し。可能性は無限大なんてよく言ったもんだ。
昼も夜もわからない工場の中でこき使われる俺には、その可能性とやらもどこにあるのかさっぱりだった。
そんな仕事を終えたある晩、落とした携帯を拾おうと床にかがんだ。俺の視界に入ったのは、放置された卒業アルバムだった。最後に開いたのはいつだったっけ。
薄く積もったホコリを払い、なんの気なしにページをめくる。これといった思い出もないアルバムだったけど、ただひとつだけパッと見ただけで当時にトリップできる写真がこのアルバムにはある。
文化祭実行委員が撮影したその写真は、どんな有名写真家の作品よりも俺の心を揺さぶり、言いようのない妙な感情を掻き立てる。
でたらめなテンションで拳をあげるオーディエンス。拳の向こう、薄暗い体育館ステージに立つのは俺たちのバンド。
名前はユニオンジャック。
これから綴るストーリーは、三年間をバンド活動に捧げた俺の高校生活を詰め込んだ物語だ。
最初に断っておこう。
俺は死のゲームに参加したことなんてないし、異世界で化け物と戦ったこともない。
重病の恋人もいなければ、幽霊だって見えやしない。
つまり、あまり期待はしないで気楽に読んでほしい。