チートバトラー HP2の64乗
注
アークライン-箱舟の軌跡-
フラットライン-対勇者戦線-
アナザーライン-遥か異界で-
レイライン-未来への回帰線-
以上のものとはほとんど関係のないことをここに宣誓します
ゲイルクロニクル。
仮想現実大規模多人数型オンラインゲームであり、メインストーリーよりもその独特の機能が有名になり、PvPが盛り上がりを見せるヴァーチャルリアリティーのオンラインゲームだ。
独特の機能と言っても、感覚を完璧に再現します。そんな謳い文句であったが完璧に再現されるのは痛みすらもだ。だからゲームにより現実性を求めるものたちが集まりなぜか人気が出てしまったのだ。
しかもRMT、リアルマネートレードや他のプレイヤーからのアイテムの強奪を運営が公認してしまっているためにその関係で稼ごうという輩まで集まって今となってはそこそこのプレイヤー数を誇るゲームとなっている。
大人数のウィザードたちが雇われてシステムの改修に当たったために、バグがないというプログラマー泣かせの代物となって安全性も抜群ということもある。
そんなゲイルクロニクルで今日も大会が開かれていた。このゲームでは定期的に”賞金”ありの大会が開かれるため、これもまた人寄せの一つになっているのだろう。
今回の大会名は”チートユニオン”というもので、もう名前の通りだ。1チーム6人で各々が思いつく”チート”を一つだけと好きな武器を携行できるだけ使ってのチームデスマッチだ。
しかしいくら”チート”と言ってもほんとの不正行為ではなく運営側の用意したものの中から最も思うものに近いチートが適用される。そのため”無敵”や”一撃必殺”などのゲーム性を著しく損なうものはない。
「つまりだよ、いくら感覚がリアルとはいえ結局はゲームで全部数値管理だ。だったらHP無限でいんじゃね?」
そう言ったチーム名”ヴァンダルズ”の一人。
「あーっと、それはねえな。イコール無敵とほぼ変わりねえからな」
「はぁ……そういやこのゲームのHPの変数枠って何ビットだ?」
「65ビットっすよ」
「中途半端だな、普通64だろ」
「知らねえっすよ」
「よし決めた、俺のチートはHP2の64乗だ!」
「イコール無敵……ありそうにねえが……ってあった!?」
こうして18446744073709551616ものHPを持つバカが一人、仲間とエントリーした。
分かりやすく表すと、1844京6744兆737億955万1616ポイントのHPということになる。見慣れない”京”という単位が混じっているあたりにあきれるほど多いことがわかるだろう。ちなみに18446744073709551616秒にすると約5850億年だ。
他の面子のチートを紹介しておこう。
メンバーB:スケープゴート”生贄の羊”効果は仲間内の誰かに同チーム全員のダメージを押し付けるというものだ。一見すると使えないものだが、メンバーAが膨大なHPを持つタンクであるため問題はない。
メンバーC:ミーミスブルン”知恵の泉”効果は視認した敵プレイヤーの位置と武装を永続的に把握できるというもの。
メンバーD:ウルザブルン”運命の泉”効果は視認している敵プレイヤーの行動予測を自分の視界に重ねて表示するというもの。
メンバーE:リジェネレーター”再生する者”効果は名の通りで自分が生きている限り同チーム全員のHPを最大HPに比例した量回復させる。
メンバーF:アイギスガード”山羊皮の盾”ありとあらゆる攻撃を遮断する盾を一枚だけ自由に展開できる。範囲は前方に半円状、矛盾する攻撃が来た場合は双方が砕け散る。
「うぉっしゃぁ!」
「行くぞ!」
戦闘開始の合図と共にホワイトアウトした視界に色が飛び込んできた。
「砂漠かよ……」
遮蔽物の一切ない砂の海。サボテンがなければ岩もオアシスもない一面砂のフィールド。
ぐるり周囲を見渡せばすでに交戦距離ないに一つのチームがいた。あちらも現状把握をして同時にこちらに気付いた様子で、恐ろしい速さで砂埃を上げながら駆けてくる。しかも手に持っているのは、
「プラズマソード……チートは超加速ってとこか? 撃て」
「……あ、あぁ」
あまりにバカな相手というかなんというかで対応が遅れたが所詮人が走る速度にしては速いな、と思う程度であり、六人のアサルトライフルの斉射であっけなく終わってしまった。HP残量を示すバーが表示されることすらなかったほどにあっという間だ。
別に好きな武器で、という条件だから剣と弓に鎧でも、銃とアーマーでも装備は個人の自由だ。さすがに全裸や高露出などは禁止されているが。
「……」
「なんだったんすかね?」
「さ、さあ?」
CとFをポイントマンにして、素早く砂漠を駆け抜けていくと横合いから致命弾が飛来する。それはBの脳天に直撃したが、
「ん? なにか当たったか?」
とダメージを押し付けられたHPバカのAが呟いた。すべてが数値で管理された状態では、受けるダメージもHPの量に合わせたものとなる。そのためありえない最大HPを持つ彼には本来即死判定並みの大ダメージすら小さなものと感じられるのだ。
その時、チーム名”メメント・モリ”の狙撃手は「無敵チートあったの……」と言ったとかなんとか。
無論そんな叫びなどアウトレンジのため届くことはなく、撃たれた側も気づくことなく砂漠を超えて廃墟の街へとたどり着いた。
「敵確認!」
ポイントマンのその言葉ですぐに陣形を変える。不死身の軍団として突撃するというものに。本来ならば身を隠しての戦闘になるところ、HPとダメージを押し付ける”スケープゴート”というものの関係上ほぼ無敵に変わりないためにできる戦い方だ。
「前方錆びた車の陰!」
「オーケー」
視認されて位置が割れた敵の一人がいる場所に容赦なくフルオートで銃弾を叩き込むと、あちこちから照準用のレーザ光線が照射されて轟音が響き始めた。通常の戦闘であれば間違いなく足止めか全滅を食らいそうな状況だが、HPの関係上それはなく、逆に姿を見せたことで位置が割れたチーム名”マシンガン愛好家”の集団が沈黙させられた。
「楽勝じゃぁ!!」
「連中マシンガンにレーザーサイトとかなにやってんの?」
それの意味が、五秒狙った相手にサテライトキャノンをぶち込むというものだったとは知らないまま、彼らは市街地を進んでいく。ちなみにこのゲームではサテライトキャノンは一部のクエストを除いて使用はできないことになっている。
そんな彼らが廃墟の一角を通りかかったとき、いきなりの爆発音とともに周囲一帯の建物が崩れてきた。降り注ぐ瓦礫はトン単位の重さがあり、当たれば通常ならば即死判定並みのダメージが入るのだが。
「瓦礫がなんぼのもんじゃぁい!」
と、一割と五分ほどぐーんと減ったHPゲージをしわじわと回復させながら、墓場のゾンビさながらの形でずぼっと手を突き出して叫び、脱出。
爆弾を仕掛けたチーム名”SGR”の少年兵は「……おい、ちゃんと潰れるように計算したはずなんだけど」と空を飛びながら呟いていた。続けて耳に流れてくる声を聞く。
『クライス、クライム、一旦離脱だ。後で仕掛けなおす』
「たいちょー……なにゲーム程度に本気になってんすか……そもそも本職の工作兵と戦術指揮官と兵士投入してる時点で職権乱用ですよ」
『む? お前が小遣い稼ぎがてら暴れまわっているゲームだろう、少しくらい俺にも暴れさせろ』
『うっわ、いくら上の命令のストレス発散だからって』
「中佐殿、控えるようにと進言します」
『うむ、却下だ。それに今の俺は中尉でも中佐でもない、単なるゲーマーだ』
「現役の小隊長がなに言ってんですか……」
と、重力関係の数値を弄る”チート”を使っている少年兵はあきれた表情で戦闘域から離れていった。某所ではジェットや漆黒武装小隊と呼ばれている何でもこなす現役の兵士たちなのだった。
次に”ヴァンダルズ”の六人が行ったことは待ち伏せだった。遮蔽物の多い廃墟で近寄ってきたチームを仕留めようというのだ。
「よし、今のうちに完全にリロードしておけ」
「アイサー」
ガチャガチャと音を出しながら点検まで終えた彼らは、窓枠から銃身を出さないように構えて待っていた。ちなみに窓や曲がり角などで武器をあらわにしてしまうのはたいてい素人さんたちだ。
「来た、瓦礫右側」
静かに射線を合わせていくと見えた敵の数は三人。統一性のない服装にナイフや拳銃と言った武器、そしてなにより頭のバラクラヴァが特徴だ。見た感じはそのまんま強盗でチーム名も”バンクロバー”だ。
まあ強盗にしては動きが良すぎるのが問題だが。一列に並んで先頭を行くものがまるで銃口を揺らさずに進み、最後の者はときおり後方を警戒するために振り返っている。角を曲がるときは鏡を使って確認している。
「強盗の格好した兵士かよ」
「んなまさか、ゲーム程度に兵士が来るわけねえだろ」
そう言ってしっかりと狙いを付けた瞬間、気付いていないはずの覆面野郎たちがいきなり照星越しにこちらをしっかりと見て発砲。
「おっと、撃ち返せ!」
ズダダダダと銃声をが響き、一人を戦闘不能に。残りは素早く瓦礫の陰に身を伏せた。
「やつらのチートはなんだ」
「狙いをつけられたら相手の位置がわかるとか?」
「どうだっていい。拳銃程度なら……つか俺たちにダメージはないも同然! つっこめぇ!」
三人が仲間に当たることも構わず制圧射撃、残り三人が銃弾と一緒に走り、まさか来ないだろうと思っていたかもしれない二人にヘッドショットをプレゼントして退場させる。
その後も廃墟で数チームほどムチャクチャな方法で撃破すると地下鉄へと降りていく。廃墟という設定……のはずなのに綺麗で照明もきっちりとついている地下鉄の駅から線路に下り、進んでいくと複数の線路が集まる広い場所にでる。
そこで彼らはゴォォーという何かが近づいてくる音を聞いた。
「なんだ?」
「まさか列車か」
「だったら別のチームが乗ってるかもな」
「お、C4仕掛けようぜ、持ってきてたろ? なあ」
そんなのりで赤外線起爆式の信管を突き刺したプラスチック爆弾を設置するとその場を大急ぎで離れていった。三百メートルほど走ると大きな爆発音と金属が擦れる甲高い音が強烈な風と共に追いかけてきた。
「やったか!」
「おっし見に行くぞ」
どんな”チート”があるか分からないため、しっかりと警戒しながら地下鉄の線路を進む。
すると見えてきたのは。
「ガン○ム……だと!」
「いやこれはナイト○アフレームだろ」
「いやいやバトロ○ドじゃね?」
巨大なロボットだ、パイロットは誰だろうか(注・ロボットの定義はドラ○もんや鉄腕ア○ムのように自立型の機械なので厳密に言わずともロボットというのは間違っている)。多少擦れたような後はあるがほぼ無傷と言っていい。しかも脚部のミサイルポッドのようなものと巨大なアサルトライフル……サイズが銃ではなく砲だが、がしっかりと動きそうなのを見た瞬間に。
「逃げろ、いくらなんでもあんなマジの戦争兵器全員で食らったら死ぬ!」
アイギスガードを展開したFを背負い、その盾に全員が収まるようにして全力疾走。
背後からは機体が兵装をフルに使って全力で撃ってくる、ということはなかった。巨大なアサルトライフルで射撃……ではなくセミオートいうのもなんだがそれで砲撃してくる。
「うっひょぁああああっ」
「死ぬひぬひぃんじまうぅ!」
壁に当たって炸裂した弾頭から数百発の子弾がまき散らされ、それを逃走する方向、つまり正面からもろに浴びた彼らのダメージが一人に集約されていく。ぐーんと減ったHPゲージはどんどん減り続け、ついに消える寸前……で止まった。そしてすぐに回復を始める。
「どんだけダメージたけえんだよ!」
そうして逃走する彼らを機体と一心同体になった彼はなぜ死なないのだろうと思いながらも、しつこく攻撃を続けた。機体カラーは鮮やかな赤、鮮血のような色で赤色の装甲版が張り付けられており、腰のところには二本の斬機刀というものがぶら下がっている。
チーム名”二刀流の魔狼”。彼が選んだ”チート”はゲーム内で扱えないものを扱えるようにするというものだった。そして彼が選んだものが別のサーバーで乗り回している機体だった。シェルやヴェセルなどと呼ばれる戦闘用兵器で、適正の高い者が乗り込んだ一機があれば単独でも作戦行動が行えるほどの戦力になるものだ。
「おぉぉぉぉぉ冗談じゃねえぞ!!」
叫んだ瞬間に横穴を見つけた。
「止まれ! しゃがめ!」
六人が止まってその場に急停止。強固な盾が機体を引っかけて、勢いも手伝って遥か前方に投げ出した。すかさずトンネルを崩す思いでバックパック一つ分の爆薬を、玉入れのように放り投げて最後に信管を無線信管を突き刺したものを投げると横穴に飛び込んで起爆。
「は、ははははははは見たか! 生身でも巨大兵器に勝てるんだよ!」
言った傍から絶望が襲った。機体を埋もれさせた瓦礫に素早い太刀筋が見えたかと思った刹那、細かくなった瓦礫を押し退けて装甲が少しだけ削れた機体が姿を見せた。
しかも武装が変わっている。彼らは知る由もないが火炎放射器……狭い場所で使用すれば輻射熱と酸欠であっという間に丸焼きである。それに加えてもう片方の手に新たに出現していた兵器には見覚えがあった。
「プラズマ砲!?」
「おい死ぬ気で走れぇ!」
ぽん、と最後に残ったC4に信管を刺し込んで横穴の奥へと逃げ込んで起爆。これで撃ちこまれないだろうと安心して光の中へと飛び出したらそこに敵チーム。砂漠エリアだ。
「一人だやっちまえ!」
一斉に構えて不意の強風。再現されるリアルな感覚は目に入った砂の痛みも再現するため、反射的に目を閉じた。しかし砂が襲い掛かってくることはなく、目を開けて見たものはその一人が接近してナイフを突き立てる光景だった。
それが引き起こした結果が信じられなかった。HPバカのゲージががくっと半分まで減ったのだ。
「どんだけ攻撃力あんだよ!?」
「ああ、逆か」
何でもないようにそいつは言うと、ぐさっぐさっと二回刺して、一回目でHPゲージが全回復して、二回目ですとん、とゼロになった。
意味が分からなかった。
「はっ?」
「はっ?」
「はっ?」
「はっ?」
「はっ?」
だから残った五人はそろってそんな反応を示した。
そして呆けている間に狙われたのはメンバーDだった。彼の視界には何重にもぶれて見える予測パターンが表示されていて、どうしたらいいかも分からないうちに喉を引き裂かれて即死判定。
我に返って銃の引き金を引こうとしたメンバーBが、ナイフを向けられた途端に即死判定を食らった。見れば喉にナイフの刃が刺さっていた。
「飛び出すアレか!」
弾道ナイフ、またはスペツナズナイフと呼ばれるナイフだ。柄だけになったナイフを捨てた不愛想なそいつが次にとった行動はその場に伏せることだった。
訳が分からなかったが、メンバーC、E、Fの三人は撃とうと狙いを付け、アウトレンジから音もなく飛来した弾丸に吹き飛ばされた。CとEは即死判定でダウン。Fは”アイギスガード”という最強の盾である”チート”を失い、そのまま何もできずに再度飛来した弾丸に撃たれて退場となった。
-後日-
「でさ、結局あいつのチートは何だったんだってことだよ」
「HPを半分に……ってわけじゃないよなぁ……回復してたし」
彼らはメンバーの誰かの部屋に集まって話し合いをしていた。いろいろと仮定をするのだがどうも答えに辿り着かない。
「で、結局なんでなんでなんでなんでなんで私たちの出番がなかったんですか!」
「そうですよ!」
「初期地点待機で優勝で終了ってなんか嫌なんだけど!」
「そもそもあんたら二人で勝ったようなもんじゃん!」
「…………」
「そんなこと言われてもな……」
ヴァンダルズをアッサリと全滅させたメメント・モリのリーダー(男)とメンバー(全員女)は彼の部屋に集まって賞金を分けていた。
彼らのうち狙撃した少女が使った”チート”は完全消音だ。それによって大口径ライフルの砲撃音を完全に隠していた。
そして、リーダーが使ったのは”シフト演算”……。チートというよりは機能といういうべきか?
「別にいいだろ? 勝手についてきたのお前らだし」
と、ヘッドギア型のデバイスをラックに置きながら彼は言った。
合成樹脂弾の嵐を浴びながら彼らは仮想世界の訓練場を走り回っていた。
「中佐ぁぁぁぁーー!! マシンガン二丁持ちってあんたどんだけ筋力あるんだ!!」
「いうだけ無駄だぁぁーーー!!」
『二人とも、中佐のご機嫌をこれ以上損ねないように生き残れ、以上』
「少佐もステルス状態で隠れてないで助けてくださいよ! 割とマジで!」
「いってぇぇぇぇ!!」
黒尽くめの少年兵たちは上司の理不尽な回避訓練というなのストレス発散に付き合わされるのだった。
面白ければ続編書きますが?
書いている途中で横から
かなり横槍をぐさぐさと刺されて
かなり変な方向に書きあがった
かなりアレでアレな作品です
面白かったら続きを書くかも