食刑の時間
アルカードの力は、圧倒的だった。これまでの吸血鬼と比べるのもおこがましいほどに、圧倒的だった。
天使の欠片――数多の神・悪魔の力。堕天使とは、人間の想像するありとあらゆる神話の集合体のようなものである。それと死闘を繰り広げつつも、なんとか喰らいついている久世原阿久は、流石というべきだろうか。
風を放てば、倍にして返されて。熱で滅しようとすれば、冷気によって覚まされて。光は闇に沈み、毒は無効化され、魔眼も勇者の盾の前では効果を発揮できず、蜘蛛のような糸は剣によって断ち切られ、そして幻は天使の力によって切り裂かれてしまった。
結局頼りになるのは、自身の変身の力――《漆黒の腕》、そして第二の黒い腕による圧倒的な物理攻撃のみである。それでも、アルカードに対して有効打は与えられずにいた。
「啖呵切ったは良いが、マジでどうしようもねぇな、コイツは……」
呼吸を荒げ、アルカードの放つ無数の弓矢を、空中で漆黒の翼をはためかせ、超高速の旋回を行い回避しつつ、阿久は毒づいた。
“……あら、弱音かしら”
バクバクと疲労の色を見せて大きく弾む“心臓”が嫌味を吐くが、「お前だって疲れ切ってるだろうが」と返すと、“そんなことはないわ”と強がった。
「だったら俺も、弱音なんて吐いてねぇ。ただ現状を客観的に分析しただけだ」
これまで実に一〇〇を超える打撃を加えた阿久だったが、アルカードの展開した見えない盾は未だに破ることは叶わない。
まるで、鎧騎士にでも攻撃しているような、嫌な感覚。
騎士の鎧にいくら攻撃を与えたところで、鎧を破ることができなければ、本体である騎士には大したダメージは与えられないだろう。総ての衝撃を鎧が受け止めてしまうし、仮にどこかに叩き付けられたところで、そのダメージをも鎧が吸収してしまう。
阿久とアルラが咄嗟に思いついた中で、対鎧に対する攻撃方法は大きく分けて二つあった。
一つは、関節技である。鎧はその特性上、可動部分である関節は非常に弱く、また内側の人間の弱点でもある関節攻撃は、非常に有効である。これによる問題は、関節技を仕掛けるだけの状況を作る事であるのだが。
――こりゃ、無理だ。
阿久は、アルカードを見て思う。もともと見えない盾が鎧なのかかどうかもわからないし、アルカードの全身を囲うというよりは、アルカードの前方に円型の何かが展開しているといった感触だ。のみならず、四〇を超える巨体、そして爬虫類型の骨格である。
関節をきめようにもきまらないだろうし、その大きさ、そして骨格から関節技を行うなどは、肉体を大きく変身させなければならない。
阿久にも巨大化の変身も可能と言えば可能だが、もともとの大きさを大きく超えた変身は、質量の増加はできるものの、干渉密度が薄くなる。わかりやすく言えば、細かく動かせなくなってしまうというデメリットがあるのだ。
足元に置かれたボールペンを例えにおこう。
一般人ならば届く、自分の足元のボールペン。けれど力士などの巨漢は足元のボールペンに、自分の手は届かない。どころか、自分の尻も拭けないと聞く。阿久の巨大化に伴う変身も、そういうモノだ。本来の質量と比較して、あまりの巨体故に、細かな動きが難しい。可能ではあるが、メリットに対するデメリットが大きすぎるのだ。
となると、関節技は選択肢から外される。消去法的には、もう一つ――。
「こりゃいよいよ、鎧通しでもしてみるかァ?」
身に迫る黄金の矢を回避しながら、阿久は苦笑した。
鎧通しとは、日本刀の一種である。大まかに言ってしまえば、鎧の隙間をぬって相手を貫く短刀を指す。鎧に負けない強度を持つための頑丈な作り込みをされたものだ。
アルカードの硬い盾を抜けるためには、阿久自身の攻撃も、拳などではなく、鋭く短く固い杭や刃を構成し、キリのように小さな穴でもあけて、そこから一気に崩壊させるか、貫くしかないだろうと考えた。
けれど、アルラは呆れるようにため息をついた。
“そんなものが通用するようなら、とっくにあの盾は壊れてるでしょう。わたしたちの持つ《漆黒の腕》は、獅子の腕。百獣を狩る力を有した腕よ。あれが獣の形を模している以上、その効果は最大限に発揮されるはず”
「だが、あいつに直接当たってるわけじゃない。もしあの視えない盾が他の神性に関するもので、それも獅子に対して有効な盾で在る場合は、相性が悪すぎるだろう。突破できないのも当然だ」
背後にせまった、黄金の矢。どこまでも追尾してくるそれらを、両手に輝く不気味な光を振るい、残らず蒸発させた。
「そういうわけで、一丁試してみるのはどうだ」
“……なるほど。やる前から諦めるのも、つまらないものね。一度、試してみましょうか”
千切れた、片翼。
捻じれた片足、斬られた片腕、残る右腕も、辛うじての所で繋がっている程度。
変身に力を回すばかりで、ロクに治癒もできないボロボロの肉体。
それでも、二人は諦めない。勝機は、何処にもないだろう。それでも、何故か楽しいと思った。
今、自分たちは生きている。必死で、生き足掻いている。
生きるため、一瞬一瞬に命を懸けて。勝つために、生き残るために最善策を考えて。考えて、考えて、考えて、そうして、なんとか喰らいついて。
それが、なんだか。妙に、楽しいと感じたのだ。
「突っ込むぞ、アルラァッ!」
“ええ、あの化け物に一撃を加えてやりましょう!”
超高速でアルカードに向かった阿久に、アルカードは大きく口を開いた。上手くアルカードの盾を踏み台にして、阿久は大きく跳躍。重力に引かれる以上の加速をもって、玉砕覚悟でつっこんだ。
「ぶち抜けぁああああああああああッ!!」
己の拳を、阿久は変身させる。極限まで硬質化させた阿久は、小さな刃と変えて、その拳をアルカードの頭上――盾に向けて突き立てた。
――ピシリと、音がする。
ソレは一体、どこから来た音か。
阿久の腕が砕けた音か。それとも――。
アルカードの、視えない盾。それが、崩壊する音か――。
バリンと音を立て、阿久の右腕が破裂した。けれどそれだけではなく、阿久の足場となっていた盾もまた崩壊し、阿久の肉体はアルカードに向けて落下する。
“本当に破れた!?”
「いいから腕を変身ろ、早く!」
阿久に言われた通り、アルラは瞬時に両腕を再生させる。それに次いで、右腕を《漆黒の腕》へと変化させた。
顔のないスフィンクス。漆黒のもの。その腕はスフィンクス同様、百獣の王のものであり、故にその腕が宿す特性は、あらゆる獣に対しての有効打となることである。
姿形が人から大きく変わってしまったアルカード。その姿は既に人ではなく、爬虫類に近しいものだ。であるなら、この腕の特性が効果を発揮する。
阿久の漆黒の腕が、その拳でアルカードの頭蓋に叩き付けられた。
「GRRRROOOAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
この世のものとは思えない絶叫を上げて、アルカードは頭を大地に突っ込んで、そのあまりの反動から足が持ち上がり、大きく反転する。その結果、見事に仰向けになり、手足をじたばたと動かしてもがいていた。
初めての有効打。視えない盾を破った。そして漆黒の腕は、アルカードに対して有効。
それがわかっただけでも、阿久の瞳には希望が宿る。
敵は不死身だ。体力ももう、残り少ない。それでも、一撃を与えられた。もしかしたら、勝機はあるのでは――。
それを、思ったときに。
阿久の胸を、ナニカが貫いた。
「ご――は……」
胸元には、銀の刀剣。どうやら、アルカードが堕天使の力を使って出した、神器の一つのようだった。
阿久は吐血した。血液が、零れていく。イノチが、零れていく。
変身が解けて、腕は元に戻った。背中の翼は枯れ落ちて、その眼は、黒く本来のものへと変わる。
――それは、何故?
その言葉に応えるように、胸の鼓動が、弱くなっていった。
宙から、まっさかさまに、堕ちて。
それを指摘する彼女の声が、聞えない。
胸を見た。その胸には、大きな穴が空いていた。それも、心臓の辺り。
「嘘……だろ?」
心臓の鼓動が、聞えない。
自分の肉体に、音がない。
――死。
阿久は、それを意識した。
そしてそれに、恐怖した。
自分のそれに対して、ではなく。
自分が守ると決めたものを失うことが、どうしようもなく怖かった。
「アル、ラ……返事……を……」
心臓は、答えない。
いつまでも、いつまでも。
堕ちる。
その、肉体が。
――堕ちる。
その、心が。
――――堕ち、る。
その、命が。
アルラは、死んでしまった。
その事実が、どうしようもなく、阿久の心を堕としていく。
二度と戻れない、奈落の底へ。光のない、闇の世界へ、堕ちる――。
阿久の瞳が、光を失おうとしたときに。
ドクンと、小さな鼓動を感じた。
小さな力ではあったけれど、心臓から血液が送られるのを、感じた。
“勝手に、殺さないでもらえるかしら”
まだ、アルラは生きていたらしい。けれど、一体どうやって? 胸には大きな穴が空いて、心臓は確実に破壊されたハズなのに――。
阿久の疑問に、アルラは簡単なことだと言った。かつて阿久が行ったことと同様に、アルラもまた心臓の位置をずらして、アルカードの攻撃を回避したらしい。
よかった。安堵する阿久とは対象に、アルラは暗い声で言った。
“安心するのは、まだ早いわ。今のであなたは、血を失い過ぎた。このままでは、間違いなく出血多量で死んでしまうでしょうね”
「なら、その前にカタをつければいい。行くぞ、アルラ」
まずはこの落下からどうするか。とりあえず背に翼を生やそうとするも、阿久の肉体には、何の変化も起らなかった。
“もう一つ、残念なお知らせよ。今の一撃で、わたしの半分ほどが削られてしまった。あなたの命を維持することがやっとで、もう――あと一度の変身すらも、不可能なの”
それは、どういうことだ?
阿久の考えまいとしたことを、アルラが単刀直入に告げた。
“わたしたちの、負けのようね”
戦うための、手段がない。
盾が無ければ、矛もない。
人は、武器があって初めて霊長の頂点に君臨する。けれどもし、武器が無いのなら。人は一体、地球でどの程度の位に位置するのだろう――。
――ちく……しょう。
――ちくしょう、ちくしょう。
奇跡は、起こせなかった。
相手は不死身の化け物だ。いつか此方が力尽き、敗北するだろうということは分かっていた。それでも、勝てると信じた。二人なら、奇跡を、起こせるかと思ったのに――。
「く、っそぉ……ッ!」
呻くような声を絞り出して、吸血鬼喰いは此処に堕ちようとしていた。
☆
――それにしても、おかしな話ですね。つい先ほど、あれほど盛大に裏切られて、あなたは彼と喧嘩をしようとしていたのに。今ではその彼を助けたいだなんて。
――まぁ、そうですね。わたしにも、わからないんですよ、どうにも。
ただ、わたしは裏切られたとは思いません。わたしを助けた彼も、彼。目的を成すためにわたしを殺そうとする彼も、また彼。結局、全部が彼なんですよ、多分。
下手なだけなんです、彼は。人との関わりが。
――ええと、なんというか。あなたは、惚れた男に利用される系女子ですか?
――ほほ、惚れ……!? い、いやいや。いやいやいや! あんな男、有り得ませんって!
死んで欲しいですね、今すぐに! っていうか殺したいですね! これまでの恨みつらみを込めた鉄拳で!
――……あら。それでは、彼を助けないのですか?
――ああいや、そういうことではなく!
――なんでしたっけ、そういうの。日本ではツンデレとか言ったような、言わなかったような。
――そんなことは良いんです! それより、タイミング! タイミング! 合わせて下さいってば! さっさとカウントしてくださいよ!
――はい、カウント始めますね。3、2、1。
――いきなりですか!?
――……0。はい、行きますよ。
――ああ、もう! 結構勝手な人なんですね!
☆
このまま、終わるのか。
やれるだけのことは、やったはずなのに。それでもまだ、届かないのか。
久世原阿久の人生は、こんなものなのか。
――後悔しないと、決めたのに。
ああ、確かに後悔はしていない。南かえでを失ったこと、多くの吸血鬼たちを殺してきたこと、そして、アルラという女と出会ったこと。
ああ、後悔など、していないとも。
けれど。
――けれども。
ほんの、片隅。
もう少し、こうすればよかったな。とか。
あの攻撃は、避けられたかな。とか。
どうしようもなく小さな悔いが、杭のように突き刺さる。
「ちく、しょう……」
最後に残った力で、歯を食いしばった久世原阿久の耳に。
――The toughness of the things was almost incredibele.Even the terrific pressure of the deepest sea bottoms appeared powerless to harm them.
Reenact the scene of a “Golden Age”.
――終焉のラッパを吹け。右に剣、左に秤を持ちて、公正を図り給え。神に似たるものは誰か。否、誰が神になれようか。
どうしてだろう。聞き覚えのある、声が。
聞えた気がして。
――主の目覚め――
――《公正判決》――
その、刹那。
「配列崩壊螺旋刃“D”!」
「“執行”ッ!」
裏返ったアルカード、その腹部を突き破って、二人の吸血鬼が姿を現した。
内側より、万象を破壊する螺旋の刃で腹を切り裂いた、第一真祖コーネリア・ルートレッジ。そしてその背後から、コーネリアの胸を貫いた教会の使徒、混血者の北条久遠。
何故かコーネリアの心臓を貫いた久遠は、《公正判決》の白杭を、空中より落下する久世原阿久の心臓に打ち付ける。
けれど不思議なことに、痛みはない。よくよく考えてみれば、久遠の放った白杭の場所、そこはアルカードに抉られて、空洞になっていた。
「久世原阿久! それを喰らいなさい!」
消えかかる、螺旋の刃。それを手から落として、口から血を流しながらも、コーネリア・ルートレッジはにやりと笑って、叫ぶ。
「わたしたちの心臓、あなたに託します! だから、必ず――」
咳き込むように血を吐いて、言葉を詰まらせたコーネリアの代わり、背後で阿久に向けて笑顔で微笑んだ久遠が背後で、言った。
必ず勝って、と。
普段敬語でものを言う久遠が。いつものような敬語ではなく、自分の言葉で。
「勝って、阿久! もし勝てなかったら、あの世で死ぬほど呪ってやるんだから!」
その言葉を最後に、以降、彼女が言おうとした言葉は、アルカードの絶叫にかき消されてしまう。
そしてアルカードの腹部は巨大な咢へと変貌し、二人を再度、喰らった。今度は、丸呑みするのではなく、二人の肉体を牙で切り裂いて喰らうものだった。
二人の姿は、消えて。
阿久の心臓に差し込まれた、何かだけが残る。
そして、二人の吸血鬼は死んだ。
残った吸血鬼は、本当に、阿久とアルラの二人だけ。
――あなたなら、勝てる。
久遠は最後、きっとそう言った。そして久遠とコーネリアが阿久に渡したものは。
「……そういう、ことか……」
力尽きた、阿久の肉体。
欠けてしまった“心臓”。
ああ確かに、絶望的な状況であった。ああ確かに、どうしようもない状況であった。
けれどそれはもう、過去の話だ。
阿久の肉体が修復できないのは、力が足りなかったから。
アルラが力を発揮できないのは、力が足りなかったから。
吸血鬼は本来、吸血することで真なる力を発揮することができる。しかし久世原阿久とその“心臓”たるアルラの二人は、吸血鬼ではない。必要とするのは、人間の血液では、無い。
此処に問う。――彼らは一体、何者か。
彼らは正義の味方に非ず。人を守護する、剣に非ず。
毒を毒にて破壊する。呪いを呪いで腐らせる。悪を悪にて滅し、外道の心を外道の心で喰い潰す。人に害なすものを、同じ害なすものと成って害すもの。邪悪となりて、邪悪を撃ち滅ぼすもの。
此処に問う。――果てして、彼らは一体、何者か。
邪なるもの、邪なる己の『食』なる名を持つ欲求に応じて、忠実に喰らうもの。
彼らは。――二人で一人の、吸血鬼喰い。
彼らが欲するは、血液に非ず。彼らが求めるは、心臓。吸血鬼の、心臓。
そして、彼らの力の源は。吸血鬼の心臓は、今、此処に――。
ドクン、ドクンと、鼓動を刻む。
白銀の白杭に貫かれ、阿久の胸元に贈られたものはすなわち、混血者北条久遠と、第一真祖コーネリア・ルートレッジの心臓だ。
「……ああ、確かに。お前たちの“心臓”は、受け取った」
二つの心臓を。久世原阿久は、喰らった。
残る力を振り絞り、彼女らの心臓を、喰らった。
ドクン、ドクンと。
久世原阿久の、“心臓”が。
ドクン、ドクンと。
“心臓”が、跳ねた。
阿久の肉体に、明確な鼓動が生まれる。感情が生まれる。全身に血液を巡らせ、冷えた心を熱くする。これが、“心臓”。これが、生の“鼓動”。ああ、生きている。自分は今、此処にいる。確かに此処に、存在している。
肉体の損傷は、残らず復元されて。
瞳は、闇に蠢く炎の如くに、真紅に光り輝き。
爪は、鉤爪。牙は、鋭く。
背に、漆黒の両翼がずるりと生えて。
その額は縦に割れ、ギョロリと、燃えるような瞳がそこから覗く。
両手に浮かんだ《聖痕》は、六芒星。
北条久遠の《公正判決》と、そしてコーネリア・ルートレッジの《未来予知》。
阿久の中に、第一から第九、総ての真祖たちの力が集まった。
阿久が直接喰らっていない、第三と第五。それらの力は、《公正判決》がその心臓を貫いて、天使の欠片の一部を内部に蓄えていた。そして《公正判決》ごと久遠の心臓を喰らった今、その力の支配権は、阿久にある。
“――阿久。早速だけど、この聖痕、使わせてもらいましょう”
「……ああ」
無意識化で《未来予知》が起動する。すると、阿久の頭には並ならぬ情報が溢れ、その脳は、世界を知ることになる。
――《未来予知》。
これは未来だけでなく、どうやら万物を理解することも可能な力だ。それをもって、久世原阿久は、己の“心臓”を識る。
堕天使とは、人間の想像する神話の集合体のようなものだ。あらゆる願いを叶える願望器。人の想像を総て現実に変える魔法の力。故にその形は、人の想像する神の形となる。
では、久世原阿久の胸にある“心臓”は、なんなのか。堕天使、その欠片の一つである彼女は一体、『誰』なのか。
――アルラとは、なんなのか。どの神話の『欠片』なのか。
アルラは、『強壮なる使者』の名を持つ神である。
アルラは、『闇に潜むもの』の名を持つ神である。
暗黒神。暗きもの。大いなる使者。燃える三眼。顔のないスフィンクス。月に吼ゆるもの。魔物の使者。――無貌の神。這い寄る混沌。
その名は、すなわち――。
その答えを、導き出して。
にやりと、笑う。
「――なるほど、邪神。なんだアルラ。お前、俺にぴったりの欠片じゃねぇか」
“無貌の神、這い寄る混沌ね……。なんだか、妙に納得したわ”
アルラが頷くとほぼ同時、阿久は空より着地し、身体をもとの体勢に戻したアルカードを睨み付けた。
「真祖アルカード。貴様のような外道には、俺のような外道の制裁が相応しい。」
紅蓮に揺らめく炎の如き三つ目の瞳が、しっかりと開かれて。
眼前の巨大な怨敵を、見据えて。
「行くぞ、お前ら。――食刑の、時間だ」
久世原阿久は、最後の刑を執行する。




