挿入・回想/かつての目的
第四真祖エリザベス・バートリは、人間が嫌いだ。
吸血鬼同様にそれぞれの考え方を持っているのに群れをなし、個々の意志を押しとどめてでも懸命に生きようとする人間が、どうしても気に食わなかった。吸血鬼の多くは群れることはしない。それは、個々が強いから。けれど人間は群れなければ生きていけない。それは、個々が弱いから。
かつて。これは今となっては、遠い昔の話。
男の真祖たちは皆乱暴なものが多く、特に第七真祖などは無差別に人を殺していたモノだから、トーアとエリザベスは、共に過剰な殺人を止めるために戦っていた。
それなのに。
――ある時。
助けたハズの者たちに、化け物だからと石を投げられた。
――ある時。
助けたハズの者たちに、村から出ていけと言われた。
――ある時。
助けたハズの者たちに、お前たちは生まれてこなければよかったのだと言われた。
――どうして? どうして?
わたしたちは、あなたたちを助けたでしょう? お礼を言うのが、礼儀じゃないの?
――そんな、ある時。
吸血鬼を倒した後に、一丸となった村人が、トーアを捕まえて処刑しようとした。
幸いにもトーアは吸血鬼。それも十字と火には耐性の強いものであったから、死ぬことはなかった。けれど、死ななかったからこそ、化け物と蔑まれた。
ある時エリザベスは、どうしてそんなことをしたのかと、村人の一人に問うた。
その村人は、何も答えない。大きな理由はないようだった。
ただ、気味が悪いからと言った。ただ、自分たちと違う力を持っているからと言った。そんなことで、彼は他の者たちと共にトーアを襲ったのだ。許せないと思った。そんな理由でトーアを傷つけるなどと言うことは、許せないと思った。
また、他の一人に問うた。
その村人も、同じことを言った。
また、一人に問うた。一人に問うた。一人に、問うた。
彼らは皆、何も答えない。けれど多くの仲間が背後にいるときは、彼らはやたらと大きく吠えた。
その時に、エリザベスは知った。
――これが、人間か。
――これが、人間というものか。
群れねば、何もできず。群れれば、異端を排斥しようとする。己一人では何もできず、しかし結束した時にはどんな醜いことであろうと、正義の名のもとに事を成す。
所詮は、家畜。所詮は、食料。これは、自分たちとは違う生き物だ。これとは、共存することは不可能だ。此方が信じても、信じても、信じても。いつかは必ず裏切るのだから、こちらから見限ってしまえばもう、苦しまずに済む。
化け物と蔑まれることもなく。石を投げられることもなく。
心身が傷つかずに、生きていける。
だからエリザベスは、トーアに言った。
もう、正義の味方をやめようと。
けれど彼女は、首を横に振った。信じていれば、いつかきっと報われるから。笑顔が苦手なくせに、笑顔を作って。
見ていられなかった。これ以上彼女が傷つくのを、隣で見ていたくなかった。
やがて、第四真祖エリザベス・バートリは。
第二真祖トーア・エンフィールドと、袂を分かった。
第二真祖は、人を助け続けた。弱者の味方で、そして正義の味方でありつづけた。
第四真祖は、人を憎んだ。弱者は敵、群れることしか能のない生物を家畜と罵った。
いつから、だろう。
かつてエリザベス・バートリがトーア・エンフィールドへと抱いた、憧れにも似た、そして恋慕にも似た、不思議な感情は。
――気付いた時には、憎しみへと変わっていたのだ。
そして、今。
二人の真祖は、此処に激突する。




