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挿入・空港/怖い人
氷川悠斗は、空港へたどり着いた。
向かう先は、大英帝国連合。
かつてヨーロッパと呼ばれた国々の集まりが、百年前の災害によって誕生した、連合国。
そこには、かつて吸血鬼について調査していた施設があるらしく、そこを調べ上げるために悠斗が選ばれたのだった。
きゅっと、繋いでいた右手が不安げに握られた。
「どうしたんだい、トーア」
右手の少女――トーアに、悠斗は優しい笑顔を向ける。
どうやら彼女は、少し震えているようだった。
「あそこには、怖い人がいる……」
悠斗は初めて、怖がる女性を見たような気がした。
悠斗の周りの女性は、悠斗の気を引くためにわざと怖がったりして、それはもう吐き気を催すほど気持ちが悪いものであった。しかし、今の彼女のように、こうして心からものを怖がる女性はどうにも、不謹慎ながら可愛らしいなと思った。
自然と、笑みが出来る。
「どうして、笑うの」
機嫌を損ねたようで、唇を尖らせたトーアは、悠斗の右手の甲をきゅっと抓った。
少し痛いけれど、痛がるほどではない。そこがまた、彼女らしく、可愛らしくて。
「大丈夫だよ」
悠斗は、トーアの手を少しだけ強く握り返した。
壊れてしまわないように。やさしく、包み込むように。
「……うん」
トーアもまた、強く悠斗の手を握り返した。




