表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪なるミタマ  作者: 九尾
第三幕 ユダ編
34/100

エリアスという男

 これは、もう何年前の話であったか。


 少年は、いつものように朝目覚めると信じて疑わなかった。

 今日と同じ、明日が来る。

 布団に入って、またいつもの朝を迎え、大学へ向かうのだと信じて疑わなかった。

 なのに目覚めたのは、古びた城。

 石畳、古びた壁。人が住むとは思えない武骨な空間の中心には、女王のような女と、女が座す豪華な装飾がされた小奇麗な椅子。

 よくよく見てみれば、彼女と少年が起きた場所には段差があり、少年が彼女を見上げ、彼女が少年を見下ろすような作りになっていた。

 周囲を見る。

 父がいた。母がいた。そして、弟がいた。

 家族は全員、この場に連れてこられたようだった。


「最後の一人が、目覚めた様ねぇ」


 艶めかしい声、艶めかしい仕草。

 胸元を大きく開いた、色っぽさを感じさせる純白のドレスに身を包み、所々赤い装飾で己を引き立てる。その肌は美しく、またどの部位においても淫らな印象を与える、二〇代ほどに見える女王様。――いや、姫君と言った方が正しいのだろうか。

 彼女は、言った。


「さぁ、豚ども。楽しい遊戯の始まりよ」


 家族は、殺された。これ以上ないほど無残な形で、殺された。

 身も心も、凌辱されつくしたというべきか。

 考えられるほど残虐に、考えられるほど暴虐的に、少年の家族は蹂躙された。

 信じた筈の神は、助けてはくれなかった。

 命乞いをした。命乞いをしたのに、彼女は殺した。


「ダメよぉ、豚が命乞いをしては。大人しく喰われるのがぁ、良い豚なのよぉ」


 そういって、喰らった。

 吸血をした。

 次々と家族が殺される様を目にして、少年は震えた。

 椅子から降り、少年の前に立った美女は、少年の顎を撫でた。

 その仕草は、とても甘美で。

 唇も、瞳も、頬も、鼻も、まつ毛も、肌も、彼女はこれまでにない造形の美しさを秘め。その指、爪、些細な部分に至るまで、彼女は少年が思う完璧な女性であった。

 マシュマロのような肌が、少年の顎に吸い付くように触れ、そして滑らかに撫でた。


「あなたは、(わたくし)が直々に食べてあげる――」


 ――自分は、此処で死ぬんだ。

 こんな美しい女の殺されるのなら、それもいいかもしれない。

 諦めが彼の心総てを支配したその時に。


「……相変わらず、悪趣味」


 どこから現れたのか、黒髪で全身に包帯を纏い、小汚い布を被った、小中学生程度の年の少女が言った。


「……あんた、タイミング悪いわね」


「呼んだのは、あなた」


 舌打ちをした女は離れ、「興が削がれたわ」と少年を離した。

 倒れこんだ少年は、現れた少女に運ばれて、城の外へ出た。


「逃げなさい。もう、捕まってはダメ」


 少年は訳も分からず走った。とにかく、走った。


 ようやく家にたどり着いた少年には、何もなかった。


 家族は、いない。金も、ない。

 残ったものは、復讐心。

 あれはおそらく、吸血鬼。近年噂になっている存在だろう。

 思った彼は、決心した。

 ――吸血鬼は、殺す。

 親が死んだ。弟を殺された。それも、凄惨に。

 アレは、人に非ず。アレは、悪魔である。であれば、自分はどうあるべきか。

 ――正義と成るべし。悪を断つ剣と成るべし。

 己の総てを奪った吸血鬼。ならば、己の総てを掛けて貴様らを否定しよう。

 少年は、誓った。

 なんの機会か、少年は《教会》を作ろうとしている女と出会う。

 マリア、と名乗る女であった。

 顔を隠し、姿もほとんど晒さない彼女の下には、ルートレッジと名乗る、これまた顔を隠した女がいた。

 彼女らと共に、吸血鬼を駆逐しないかと誘われた少年は、同志があると知る。

 吸血鬼の弱点を聞いた少年は、しかし己には力がないことを知っていた。だから、学んだ。

 一時期銃を習ったが、リロードという隙があるために、好みに合わなかった。己の命を捨ててまで敵を殺すという自身の執念。そこに神風特攻と同じものを見出した少年は、『サムライ』のいる国、日本へ渡りその剣術を学ぶ。剣の師は、『柳生新陰流(やぎゅうしんかげりゅう)』――居合斬りの達人であった。

 いつしか剣を極めた少年は、師の下を離れ、そして我流の剣士となった。

 《教会》白円卓一二使徒、第三席。

 やがてその席を得た少年は、いつしか味方からも恐れられるほどの剣士となった。

 曰く、無慈悲の鬼。曰く、日本かぶれのサムライ。曰く、復讐の阿修羅(あしゅら)

 曰く、鬼神――エリアス・リッケンバッカーと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ