序・真祖 集合/思惑/目的
とある、城。
石畳の、洋式の造りの部屋。
――此処は、大英帝国連合のとある集落。その中心に建てられた大きな城。
名は、『csejte』。
そこには四人の男、そして一人の女が集まっていた。
「……ところで、《第八》はともかく、《第二》と《第七》はどうしたのかしらぁ」
女が、問う。
ほんのり不快を思わせた笑みを見せる二〇ほどの齢であろう女の表情には、しかし何十年も生きた者にしか浮かべないような何かがある。
胸元を開いた純白のドレスに、室内であるというのに手に持つ黒い日傘。所々ある赤い装飾が、純白によく馴染み、如何にも「お嬢様」という身なりであった。
「第八の方向性は決まっておる上、知らせるべきことは知らせておる。今更知らせることはない。それになにより、お主が此処へは招きたくないと願うと思うてのう」
「妥当な処置ね。私、家畜を家に招く趣味はないわ」
「それと第二と第七だが……。うむ、第二も第七も、集めようにも、行方が掴めずにおるのでな。自由気ままな第七はともかくとして、第二はどうも、意図的に儂らと行動を共にしない節があるでなぁ……」
僅かに髭の生えた顎をじゃりじゃりとさすりながら、古老の男が言った。
男は黒いローブを身に纏い、己の肉体を晒さない。少し意識してみれば気付くが、彼は己の腕を包帯やらで覆っている。しかし此処は暗い。たかが包帯にも、意識しなければ、気付けない。
「相変わらず、正義の味方でも気取っているのかしらぁ、アレは。ああん、もう……アレの事を考えるだけで臓物が裏返ってしまいそう……」
まるで体重にでも悩む婦人のように、しかし上品らしさを醸し出しながら頬に手を当てた女は、「はあ」と妖艶なため息をつく。
「それなら、」
ふひひと笑った青年は、道化のように両手で口元を隠しながら笑った。
彼の服装もまたやはり道化のようなもので、この空間において明らかに浮いている。顔を白く塗り、右目に黒い星のマークが描かれていた。
「第二の居場所を見つけたら、ボクはエリザ様に報告するよ」
ふひひと再度口元を隠すように笑った彼に、エリザと呼ばれた純白のドレスの女はクスリと笑った。
「それはそれは……ええ、これ以上ない名案ねぇ。探す手間が省けていいじゃなぁい。私は豚の成りあがりのあなたが、それはもう、この城に招くのも死ぬほど嫌で、今すぐ空気洗浄したいし、あなたが帰ったあとは、あなたが通った床、触れた壁、ぜーんぶ入れ替えるぐらいに、あなたが、だいだいだぁーいっっっ嫌い! なのだけれど。それでも、その下僕精神だけは、褒めてあげないといけないわよねぇ」
初めこそ、道化の青年をペットか何か、愛玩動物でも見るような視線であった彼女のそれは、次第に愛玩動物から汚らしい害蟲でも見るかのような視線に変化していく。
しかし道化の青年は気付いてか気付かずか、変わらずふひひと笑った。
「ふッ、ひ。ふひひひ……光栄です。《第四真祖》エリザベス・バートリ様」
「それで」女――第四真祖エリザベスがついと、目を向ける。
その先には、口元を、かつ全身すらも覆うほどの黒いコートを纏い、そして顔から炎が噴き出す松明のような男と、
シルクハットをかぶり、綺麗な栗色の髪を撫でつけるように後ろへ回し、ステッキを手に持った英国紳士を思わせる男がいた。
松明のような焔の男はそのまま見逃して、エリザベスの視線は英国紳士を思わせる男に向けられた。
それは道化の青年に向けるものと同様、人を人と思わぬ視線であった。
そして、最後に。
「どうして彼らを私の城へ招いたのかしらぁ。ねぇ――ケイジ・オオダイラ」
初めに口を開いた古老の男に、エリザベスは目を向けた。
彼こそ、第三真祖――ケイジ・オオダイラ。
ふむ、と髭をさすった彼は、ニンマリと口を開く。
「いやいや、我ら真祖同士、たまには全員で集まって話でも、と思い至りましてな」
へぇ。と、エリザベスはいぶかしげな目を向ける。
此処は、彼女の城だ。
黒いローブと包帯で全身を隠した古老――第三真祖オオダイラ、そして顔が燃える松明のような男――第五真祖アフム・ザーはともかくとして、道化の青年と英国紳士風の男を此処に招くことは、どうやら彼女は気に食わなかったらしい。
「うーんと、……つまりぃ」
人差し指を顎に当て、かわいらしさを強調するかのように上目づかいを使ったエリザベスは、残った左手の人差し指でオオダイラの胸板をついとなぞる。
「あなたはぁ、私にぃ……――殺されたいという、ことかしら」
その視線に、冗談は無い。
彼女の指先は針のように鋭い爪へと変化し、僅かにオオダイラの体内へと侵入した。
「むぅ、これは参った。かような美しき乙女に迫られては、儂のような爺とて、年甲斐もなく赤面するほかないのう」
ふぁっはっはっは。
豪快に笑ったオオダイラの行為を挑発と取ったのか、エリザベスの瞳が真紅に染まった瞬間、炎が彼女の手首を包む。
熱さは感じず、また、服も燃えていない。しかし確かに、炎が包んでいた。そして、彼女の手首が、ピクリとも動かなかった。
「第三はもともと、こういうお方だ。多少の無礼はお許しいただきたい、チェイテの姫君、第四真祖エリザベス・バートリ殿」
松明のような、顔から火を噴き出した男。第五真祖アフム。彼がどうやら、炎の腕でエリザベスの手首を掴んでいたらしい。
その瞳は炎を照らして赤く燃えているが、しかしそれは吸血種の力を発揮する際の真紅ではない。
争う意志はないのだと、アフムの瞳が告げていた。
艶やかなため息を漏らしたエリザベスは、次はないわと手を下げようとする。
けれどアフムが未だ手首を離さずにおり、「離しなさいよ」と彼女は手を振り払った。
「……すまない。淑女の肌にいつまでも触れているものでは無いかったな」
「――あら、なかなか分かっているじゃなぁい、アフム。だから私、貴方のことは好きよ」
「それは、なんというか……至極、光栄の至り」
本当に、アフムは女子に対しての対応が分からない。
ふふふと妖艶な笑みを浮かべてアフムに迫るエリザベス。一歩、アフムが引く。
目を逸らし、言葉に詰まったアフムの代わり、助けられた礼のつもりか、今度はオオダイラがアフムとエリザベスの間に入る。
「茶化すのは勘弁してやってくれんかね、エリザベス。こいつはどうも、聖水と女子にめっぽう弱くてな。女ぐらいはいい加減に慣れろと常々言っておるのだが、一向に慣れんのだ」
ふぁっはっは。やはり豪快に笑ったオオダイラは、アフムを背に、皆の顔を見た。
「そろそろこの会合、エリザベスもお開きにしたいと見える。であれば、さてさて。そろそろ本題に入るとしようかの」
オオダイラ、エリザベス、アフムの三人を見て、「ふひひ」と笑い両腕を丸めて口元を隠していた道化の青年――第九真祖、クラウン・ゲイシー。
そしてそろそろこの場から去ろうと帽子を深くかぶり、全員に背中を見せていた英国紳士風の男――第六真祖、アルバート・クルックス。
彼らを輪に入れようと、そして今回の目的を達しようと、オオダイラは話し始める。
「今回貴君らを呼び出したは他でもない、力を貸してもらいたいと願ごうての」
――フム。
ここで初めて興味を示したのか、英国紳士風の男――アルバートが、かつんとステッキを床に突き、被ったシルクハットをくいと上げ、その目でオオダイラを見る。
「まさか第二真祖から直々にお願いとは、これまた珍しいこともあったもの」
これまでまるで興味を示さなかったアルバートが興味を持ったことに「ニィ」と笑った古老の真祖は、つづけた。
「まず、一つ。貴君らは《吸血鬼喰い》を知っているかな」
全体を見渡した。
第四、エリザベスは「ああ、アレ」と腕を組み。
第五、アフムには聞くに及ばず。
第六、アルバートは「ほう」と笑みを浮かべ。
第九、クラウンは「ふひひ」と笑った。
どうやら全員、知っている様子であるらしい。
「これはそこの第九、クラウンからの話であるが――第七が死んだ」
――っ。
既知であるアフム、そしてクラウンに驚きはなかったが、初耳であるエリザベスは「嘘」と大きく目を見開き、アルバートはやはり興味を深くした様子で、「フム」と口元を歪めた。
「《教会》の干渉も原因にあるが、しかし《吸血鬼喰い》、これが第七を落としたようだの。もともと頭に血が上りやすく、まぁそれは勝手な行動をとってくれる小僧であったが、こうしていなくなってしまうと、どこか寂しさを感じるのう」
エリザベスは、僅かに目を伏せ、黙祷した。彼女にとってウォルターがどのような存在であったのか、今はもうわからない。もしかしたら、手のかかる弟のように思っていたのかもしれない。
けれど、もう、過去の話だ。
「あの子の死に様、見たの?」
「ふひッ」
エリザベスがクラウンに視線を向けると、「見ましたよ」とクラウンが頷いた。
「どうして、助けなかったの」
「ふひひ。これは申し訳ない。ボクは彼に助けてもらった恩があったし、できれば助けたかったんですけどね、駆けつけた時には既に遅かった」
――ビルに、押しつぶされてました。
クラウンが言うと、「そう」とエリザベスは目を石畳に向けた。
――フム。と、アルバートが手に持つステッキをかつんと鳴らし、口を開く。
「《教会》の介入と聞いたが、やはりそれはアレかね――十三席かね?」
「然り。どうやら小僧を追って、教会は十三ともう一人を派遣したようでな。十三は言わずもがな、もう一人の小娘もなかなかにやるようでの。……しかし、うむ。聞けばその小娘、混血であるとか」
ふぁっはっは! ウォルターの死を悲しむこともなく大笑いを始めたオオダイラに、エリザベスはあからさまに不快な色を見せた。
「混血って……それ、ほぼ間違いなくあなたのせいじゃない」
吸血鬼は基本的に、人間相手に欲情することはない。
吸血鬼にとって、人間は食料だ。家畜だ。以下にはなっても、基本的に、それ以上にはなりえない。
人間が家畜を相手に欲情するとしたら、その人間は異常性癖者として扱われるだろう。それは吸血鬼にとっても同じことであるのだ。
吸血鬼と人間は、いくら身なりが似ていようとも、異なる部分は現れるものだ。
根本的な体力、筋力はもちろんのこと、僅かな臭いであったり、肌の質であったり。他にも多くあるが、今はそういう違いがあると納得してもらえれば結構だ。
それらが圧倒的に吸血種に劣るため、エリザベスは人間を豚・家畜と見下し、嫌う。
だからこそ、もとは人間であった《第八》の血族を、そして第九真祖を招くことを嫌がった。
しかし、吸血鬼の中にも異常性癖を持つ者はいる。
それが眼前にいる古老の男――第三真祖オオダイラである。彼は大変な色魔であるとされ、多くの人間の女を犯し、孕ませてきた。
もし混血者なる存在が現れるとするならば、その原因は、彼を覗いて他にはあるまい。
「これは耳に痛いのう! よもやかつて犯した女の娘が、未だ生きていようとは! それがまさか、教会に引き取られて使徒へ育てられていようとは! いやはや、まさか儂の娘子が、かよう立派に成長するとは心にも思わなんだぞ!」
親に捨てられ野たれ死んだか、犬の餌にでもなったのだと思ったわ!
腹を抱えて大笑いする古老の真祖は、ひとしきり笑った後に、「年甲斐もなく取り乱してすまんのう」と、表情をもとに戻した。
エリザベスは、オオダイラへの不快を隠すこともなく唇をかみしめていた。
「ともかく、だ。これで二人の真祖が死んだ。これは儂ら真祖と呼ばれる吸血種にとっては非常に由々しき事態。というわけで――此処で一度、教会を攻めてみんかのぅ」
教会を、攻める。
その言葉に反応したのはやはり、エリザベス。
「教会に? なにを言っているの、あなた。確かに戦力的に此方の方が有利だろうけれど、これまでそれができない決定的な理由があったじゃない」
彼女の疑問は、もっともだ。
教会には教会の目的がある。
それと同様に、吸血鬼には吸血鬼の目的がある。
吸血鬼にとって教会は、ただ邪魔な存在ではない。滅ぼすべき敵である。
真祖アルカード――すべての吸血鬼を産んだとされる、大いなる吸血鬼。その始祖。彼に番号はない。真なる始祖として、彼はただ「真祖」とのみ呼ばれている。
およそ八〇年前、教会は真祖アルカードを封印した。
その教会を壊滅させ、真祖をこの世に君臨させる。多くの吸血鬼たちの望みが、それである。
故に、これまで幾度も吸血鬼と教会との抗争が勃発していたが、しかし圧倒的戦力差を誇る吸血鬼が教会を完全に撲滅させることが出来なかった理由が、大きく二つ。
一つ。コーネリア・ルートレッジを中心とする、使徒の存在だ。
多くの使徒は真祖にとって敵ではないが、しかしコーネリア・ルートレッジの能力は大きく人間を突き放し、真祖にまで迫るほどである。のみならず、これまでの抗争で生きながらえてきた一二使徒の末裔「白円卓」、そして近年現れた、第一三使徒。その半数以上は血筋ごと死に絶えたとはいえ、未だ脅威となるのは事実である。
また近年現れた《聖痕》という機構。これは真祖すら葬る代物だ。これまで圧倒的戦力差があった吸血鬼と教会、その差を覆しかねない。
そして一つ。教会の場所である。
これまで吸血鬼と使徒は数多の激戦を繰り広げてきたが、その悉くが、吸血鬼の潜伏場所を察知した教会が吸血鬼を殲滅するというもので、実質吸血鬼側は受け身の状態であった。その大きな理由が、教会が何処にあるのかわからない、ということだ。
場所が分からなければ、叩くも何もない。吸血鬼としては教会を落としたいのに、攻める場所が分からないために落とせない。
だからこそ、これまで吸血鬼は邪魔な教会を潰すには至らず、百年近い抗争を繰り広げていたというのに。
「まさかとは思うけれど、教会の場所が判明したというの?」
エリザベスの疑問に、これまで黙っていたアフムが口を開いた。
「よく考えてほしい、エリザベス殿。現状、第八を統べているのは誰か」
第八真祖――ヴラド・エンライト。
通称《串刺し公》。逆らうものを悉く串刺し刑に処したことからつけられたその名は、しかし彼の優しい人柄と相反するものである。吸血種を至高とし、人間を家畜とする。たしかに人間からしてみれば非常に悪なるものに相違ないが、こうした差別意識は人間にも存在する。
己の属する人種が正しい。ヴラドはそれを信じて生き、そして己以外の人種すべてを串刺しにしてきた。それ故の、串刺し公。
己の属する人種が正しい。そう主張する者の下には、必ず信者がついてくる。
そして彼が死んだ現在、ヴラドが残した「意志」、そして吸血鬼たち第八の勢力を引き継ぎ統べる者こそが、通称“ユダ”と称されるヴラドの血族、アラン・ダウエル。
もとは人間であり、そして――。
「――《裏切り》」
エリザベスは、総てを理解したように呟いた。
アラン・ダウエル。
第八勢力の統率者にして、第八の血族。そして――元教会の十二使徒。洗礼名“ユダ”。教会における白円卓、その第一二席に存在していた男である。
「然り。あやつは現在、教会に追われる身よ。それは此処で第八勢力を完全に落としたいという教会の意図もあるであろうがの、しかしなにより、大きな理由が一つある」
じゃり。と、オオダイラが、髭を撫でた。
――教会の場所を、あやつは知っておる。
それはすなわち、真祖が封じられている場所を知っているということ。そして、なによりも、百年前の真実を知る者にとって、大きな意味を持つものがある。
――《天使》の隠し場所が、判明する。
エリザベス、アルバートの二者がオオダイラを視る。
――お前、何を考えている。
二者の視線は、それを問うていた。
一人何も知らないクラウンは、ふひひと笑った。
「それで、オオダイラ様。ボクたちに攻めろと言うのですね。第八と共に、教会を」
にやり。
古老の男は笑う。
「――如何にも――」
☆
――というわけだ。
第五真祖アフムは、先ほど行われた会話の内容を、廃墟に潜む聖職者を思わせる服装の男に簡潔に語った。
「……なるほど。それで、強襲作戦には彼らが手を貸してくれると」
男の視線の先には。
松明のような男、第五真祖アフム。
道化のような身なり、白い化粧に目元の星型が目立つ青年、第九真祖クラウン。
三人の黒い服装に身を包んだ男。
そして、彼らに付き従う『通常種』の吸血鬼たち。
「如何にも。第三は所用のため直接の参加はできないが、その代理、及び第五の勢力としてこの己、アフムが。第九からはクラウン、第四からは、彼ら血族が手を貸す運びとなった」
「……ほう、第四が」
聖職者のような身なりの男――第八真祖血族、アラン・ダウエルは、数人の男たちに目を向ける。
彼らはまるで日本の『ニンジャ』を思わせる服装をしていた。
黒いマスクに、黒い服。それらがぴったりと身体を覆っている。
第四真祖エリザベス・バートリは、人間が嫌いだ。
しかし彼女も吸血鬼、人間を喰わねば生きてはいけぬ。だから彼女は、己の城に飯を運ぶ。その際に活躍するのが、彼らのような血族と呼ばれる吸血種である。
吸血種には、主に三つの区分がある。
それが、 『真祖』 『血族』 『通常種』 の三種である。
真祖。これは言わずもがな、選ばれし九人の吸血鬼を差す。これはそれぞれが確立した存在で、そのどれもが異なる《忌能》と特性、そして勢力を持ち、この世界に君臨する最強種である。
通常種。これは主に真祖を含めない吸血種を指す。教会の分けた区分によれば、真祖を第一世代とするならば、第二世代、第三世代、それ以降がこの通常種に該当する。その中でも第四世代以降は、下等種と位置づけられる。第二世代の多くはまだ理性が残っており、また吸血種としての力が強いため、通常種の中でも上位種と扱われることが多い。
そして、血族。
これは基本的に第二世代の吸血種を差すものであるが、それだけにとどまらない。血液を吸われたのち、真祖から直接血液を流し込まれて通常種の枠を抜け、《忌能》を身に付けたモノを指す。おおよそ二週に一度は真祖が直接血液を与えなければならないために、多くの真祖は血族の保有を好まない。元は人間でありながら、真祖からしてみれば、己の血を分けた家族も同然の存在、血族。日本風に言うならば、『契りを交わした仲』というやつであろうか。
定期的に己の血液を与えなければならないが故に、真祖によって、その血族を保有する数は異なる。
第二真祖は吸血鬼としても異端で、血族どころか、そもそも人間の血をほとんど吸わない。故に勢力は一人のみ。
第三真祖オオダイラもまた、一人での行動を好む。女を犯し孕ませることはあれど、血族を作ることはなく、基本的に一人の勢力だ。
第五アフム、第六アルバート、第七ウォルターもまた、彼ら同様に一人の行動を好むため、血族はない。勢力も一人のものである。
しかし第四エリザベス、そして第八ヴラド、第九クラウンの下には多少の軍勢がある。
もっとも、第八と第九が保有する勢力はすべて通常種。第八勢力を纏めるアランは、そのものが血族であり、また第九を統べるクラウンも元は血族であった。彼らの下に他の血族がいないというのは、頷ける。
しかし第四は、彼女がほとんど城から出ないために、餌の調達から資金の調達、何から何まで下のものに行わせているお姫様だ。そして彼女の忌能もまた、彼女が軍勢を持つに相応のものである。
故に、第四の下には血族が多く存在する。その数おおよそ、一〇。そして彼女が従えるとされる吸血種の総数は、一〇〇を超えるとされている。彼女の居場所を特定していても、あまりの勢力に教会が手を出せないというのはそれが理由である。
血族は真祖と比べてしまえばその力は圧倒的に劣るが、しかし同時に相手取れるのは真祖でも三人が限界だ。如何に真祖であれども、できれば彼女と争いたくはないだろう。
そのエリザベスの血族が、三人。それも、数十の通常種を引き連れて、だ。エリザベス一人が直々に戦場へ赴くとほぼ同等かそれ以上の戦力を、彼女は第八真祖血族、アラン・ダウエルに与えたのである。
己が家畜と罵る人間の身でありながら吸血鬼となった、この男に。
さしものアランも、これには驚きを隠せずにいた。
「まさか、ここまで協力的だとは。彼女の性格を考えれば、何か裏があると思わずにはいられないね」
笑ったアランに。
「違いない」
アフムは、言った。
「しかして、第六は」
あの場には、異端の第二、所要の第三、そして故人となった第七、第八の他にもう一人、真祖がいたハズだ。
その真祖、第六真祖アルバートはどうしたと、アランは問う。
「ああ。第六はグルメ旅であるから、此度も不参加だそうだ。今頃中国にでも赴いて、孤児を攫ってナイフ片手に食を極めているのだろう」
松明のような男が、呆れたように肩を竦めた。
「……なるほど。そっちはいつも通りで、逆に安心するよ」
では、と。
立ち上がった第八血族アランは、この場に集まる総ての吸血鬼に語り掛ける。
「よく集まってくれた、諸君。それでは、《教会》強襲作戦の概要について説明する」




