終・真祖 ×/×/×
――雨が、降っていた。
「ふひ、ふひひひ」
雨が、降っていた。
それなのに傘もささず、彼はスキップでもするかのように、先へと進む。
速くしないと、誰かに先を越されてしまう。
先を越されては困るから、ボクがはやく助けてあげないと。もしニホンのケーサツや、教会の使徒共に来られたら厄介だからね。
そんなことを思いながら、彼はスキップをする。
そして、今。
倒壊したビルの前に立つ。
「ふひッ、ふひひひ……。どうしたんだい、《第七真祖》ジャック・ウォルター。とても痛そうだね。ボクが助けてあげようか」
彼は、瓦礫に話しかけた。
その瓦礫の正体は、阿久によって倒壊したビル。そしてそのビルは、第七真祖を押し潰したビルだった。
返事はない。
代わりにぐじゅりと、肉が蠢く音がした。
ぐじゅぐじゅと、ビルから這い出ようとする何かがあった。
もはや肉の塊といって差し支えないそれを見て、彼は瓦礫を押しのけ、ふひひと笑う。
「いやいや、天下の第七真祖、《鎌鼬》がここまでやられるとは意外だったなぁ。てっきりボクは、あの混血者と天使の姫君がやられるかと思ったんだけど」
ガタガタと瓦礫を押しのけようと、第七真祖と呼ばれた肉塊が蠢いた。
それはまるで、彼にこの瓦礫をどけろと言っているかのようでもある。
「ああ、ごめんごめん。この瓦礫が邪魔なんだね。今どけるよ」
その意図を察してか、彼はその瓦礫をどけた。
ずるずるとビルの瓦礫から這いでた肉の塊を、彼は見た。
「ところでウォルター。一つ聞きたいことがあるんだけど」
今は、お前に構っている暇はない。とでも言いたげに、肉の塊は雨の中、街の方向へと這い進む。
無視された彼は機嫌を悪くすることもないまま、言葉を続けた。
「キミは以前、ボクが《教会》に落とされそうになったとき、気まぐれだからとボクを助けてくれたよね。うん、あの時は本当にありがとう。とても助かったんだ」
だから、どうした。
はやく、血を吸わせろ。このままでは、本当に死んでしまうだろう。
そう言いたげな肉の塊は、彼を無視して先へ進もうとしたときに。
「だからね――」
肉塊の視界が、闇に覆われた。
肉塊はこれを見たことが無かったが、しかし、これがなんなのか知っている。
これは、捕食者が、獲物を狩る際に使用する、幻術――。
冷汗が滝のように流れるほどの嫌な予感に、肉塊は歩を止めた。
肉塊にもし目があれば、恐らく見開き、彼を見ていたことだろう。
「――ボクは、そんなキミの強さが欲しい」
――雨が、降っていた。
その日は、雨が、降っていた。




