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悪なるミタマ  作者: 九尾
第二幕 ウォルター編
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狂気の第三幕

 ――激突。

 激突、激突、激突。

 翡翠と真紅が、激突する。

 二本の鉈が、空を裂き。

 不可視の風が、天を斬る。


 その異常な情景を、阿久は、放心状態で眺めていた。

 ――……久、阿久!

 しばらく眺めていたところで、“心臓”から響く声を聞く。


「……アルラか」


“阿久、ごめんなさい。わたし、真祖があそこまで……”


「いや、仕方ない。正直俺も、ビビってた」


“ここは一時、撤退を”


「ああ、そうだな。それが妥当な――」


 判断、――と。そこまで考えて。

 なにか、おかしい。

 なにか。


 お。


    か。


       し。


          い。


 疑問が、阿久の胸にあった。

 そういえば、彼女はどうした。彼女は、どこへ行った。

 一人、居たハズだ。守るべき存在が、居た、ハズだ。

 あの少女は、一体、

 

 何、処、へ――?

 

 ふと、記憶が蘇る。


 第七真祖ウォルターは、吸血していた。


 ――ソレハ、ダレカラ?


 人払いはしたと、久遠が言っていた。

 ならば他に、人などいないハズなのに。


 そういえば、ウォルターは阿久に吸血を促すために、何かを此方へ渡さなかったか?


 ――ソレハ、ダレ?


 阿久は、見た。

 少女を抱き起し、顔を、見た。


「あ――ああ……」


 すっかり青ざめた、守りたかった少女の、南かえでの、変わり果てた姿だった。


「ああ――ああ――」


 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!


 ――阿久は。


 なんで、なんで。どうしてだ。どうしてコイツが死ななければならなかった。どうして俺が生きて、こいつが死ななければならなかった。

 どうしてどうしてどうしてどうして――。

 誰が、殺したッ!


 ――阿久は、優しいね。


 かえでの笑顔が。表情が、声が。

 事細かに、思い出せるのに。


 ――助けてくれて、ありがとう、阿久。


 その総ては、もう。

 取り戻せない。


 ――ドクン。

 心臓が。


 ――ドクン、ドクン。

 心臓が。


「……なぁ、アルラ」


“……なにかしら”


「俺は、第七真祖(あいつ)を殺したい」


 ――激しく、同意。

 いつものように、やはり感情を感じさせない“心臓”は、しかし確かに、黒い何かに身を焦がす。

 撤退の(げん)は、取り消しだ。

 阿久もアルラも、言葉はなくとも、同じ鼓動を感じていた。

 腕を、剣にした。

 目の前の少女の、小柄な体躯に突き刺して、その心臓を、取り出した。

 まだ、暖かい。

 このまま彼女を放置しておけば、彼女もまた、あの家族と同じものになってしまう。

 それだけは、許せない。二度までも彼女が消える姿を、見たくないし穢させない。


「なぁ、かえで……」


 こんなところじゃ、寒いだろ。あまりにも、冷たいだろ。

 だからせめて、一緒にいよう。

 この心臓(ココロ)だけは、一緒にいよう。

 阿久は取り出したその心臓を――喰らった。

 暖かい。まだ、暖かい。ほんの少し前まで生きていた。

 なのに、なのに。

 なのにどうして、こんなにも。お前の身体は、冷たいんだ――。


 ――ドクン。

 心臓が、跳ねた。

 ――ドクン、ドクン。

 心臓が――跳ねた。

 鼓動が、生まれる。阿久の内に潜む新たな胎動が、この世界に、生れ落ちようとしている――。


「ウォルタァアアアアアアアアアアッ!」


 阿久の肉体に、明確な鼓動が生まれる。感情が生まれる。全身に血液を巡らせ、冷えた心を熱くする。これが、“心臓”。これが、生の“鼓動”。ああ、生きている。自分は今、此処にいる。確かに此処に、存在している。

 ――南かえでは、もう、居ない。居ないのに。

 ――自分だけが、どうしようもなく、此処に、居る。

 瞳は、真紅に光り輝き。

 爪牙は、更に鋭く。

 その背に、漆黒の片翼がずるりと生えた。


 久世原阿久の咆哮に、否、あまりに禍々しき存在に、第七真祖ウォルターが、そして北条久遠が視線を向けた。


「貴様のような外道には、俺のような外道の制裁が相応しい――狂い哭き叫べ、食刑(しょけい)の時間だ」


 此処に、本日の第三幕。

 第七真祖(ヴァンパイア)と、復讐者(ダンピール)

 その二人の抗争に。

 第三勢力(クルースニク)が、牙を剥く。


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