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悪なるミタマ  作者: 九尾
第二幕 ウォルター編
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戦闘開始

「帰りてぇ……」


 思わず阿久は、その拳を強く握っていた。

 雑魚の処理で終わると思っていたら、まさかこんな化け物が紛れていようとは。


「エリアスは日本古武術、柳生新陰流(やぎゅうしんかげりゅう)一刀が最も己の身に合うと述べていましたが、わたしは違う。剣術も『霞ノ葉(アレ)』しか知りませんし、そもそも繊細な仕事に向いていません。だから、わたしの目指した戦い方(スタイル)は――」


 右手に持った、大きな鉈。

 そして更に、左手を背中に回して取り出すは。


「ただ押し潰すことのみを追求した、圧倒的な暴力です」


 もう一本の、鉈。

 鉈でも刃と数えるのか知らないが、とにかく。こいつは――二刀使いか。

 一刀でも厄介なのに、それが二刀。どちらも必殺、どちらも脅威。

 人に扱えるとは思えない凶器を二本とは、本当に。

 これは一体、何の冗談だ。

 まるで小さな包丁でも振り回すかのように、宙でくるくると鉈を回した女は、サーカスの道化師のように軽々と空中でその手に掴む。


「なんつー、怪力……」


 とても、人のものとは思えない。

 先の吸血鬼かくもあらんという加速にも驚かされたが、これはなんというか、もう。目の前の相手は、人と思わない方がよさそうだ。


「しかし、わたしに二刀を抜かせた吸血鬼はあなたが初めてです。流石、真祖に近い忌能を持つだけのことはある。――名前を聞いてもよろしいか」


 初めて、女は阿久に“視線”を向けたように思う。

 これまでのものはおそらく、彼女にとって挨拶のようなものなのだろう。その挨拶を受けてようやく、彼女の相手が務まると認められる。


「名前を聞く時は、自分からだろう。そんな礼儀も知らないか」


 阿久が言うと、「失礼」と女は頭を下げた。


「わたしは《教会》……ああ、詳しい組織名は秘匿のため明かせませんが、俗語としてそう呼ばれています。その教会の使徒、すなわち狩人。名は――」


 ――北条(ほうじょう) 久遠(くおん)


「へぇ、久遠ね。中々悪くない名前だ。親に感謝するといい」


「それはどうも。言われずとも感謝していますよ、あの偉大な母には。それはそうと、此方は名乗りました。あなたの名を教えてほしい」


 この女――北条久遠。

 あまり気の長いほうではないようだ。


「俺は無職、バックの組織は何もない。完全孤立の吸血鬼喰い、久世原阿久だ」


「久世原阿久。悪くない名です」


「そりゃどーも。名前に免じて、今日は見逃してくれねーか」


「此処であったが百年目、と言いますし」


「俺もお前も、長年相手を求めるような年じゃないだろ」


「わたしは求めている相手がいますよ。もっとも、その相手はあなたではありませんが」


 だったら尚更、逃がしてくれてもいいだろう。

 ぼやきたかったが、言ったところで逃がさないと言われるのがオチだ。

 いい加減、腹をくくるしかあるまい。


「――行くぞ、アルラ」


“ええ。行きましょう。こんなところでは終われない”


 右腕が、変化する。それは鋭く重い、斧のようなものだった。

 本来の腕の質量を遥かに超えた重量。超重量の鉈を相手するなら、此方もやはり重量で。

 目には目を、歯には歯を。重量武器にはやはり、重量武器を。


「いい覚悟です。では」


 始めましょうか。

 言うが早いか、久遠が駆けた。

 その加速はやはり、先の加速に匹敵するまでの凄まじい加速。

 惜しみなく加速するあたり、彼女のいった「押し潰すことのみを追求した圧倒的暴力」とは、全力を以て押し潰すと、言葉の意味通り単純明快なものらしい。

 そして阿久の攻撃様式(スタイル)もまた同様。

 ――二者は此処に、激突する。


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