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編・柑橘項

 ちょっと長くなりました。




 無言で進んで行き、突き当たりまで来たところで彼は漸く、私を振り返った。


「後、少しで着きますが、疲れはありませんか?」

「はい。大丈夫です」


 私が答えると、彼はまた前に向き直り歩き始めた。

 確かに彼の言ったとおり、それほど歩かずに、比較的小さな扉にたどり着いた。 「小さい」と言っても、今までの扉と比べてと言う意味で十分に大きく豪華なのだが。


「ここは?」


 思わず尋ねると、彼は先ほどまでの態度が嘘のような口調ではなし始めた。


「誰に聞かれているか分からないから、中に入ってからにしよう」


 私は、彼に続いて部屋に入った。


「そういえば、あなたは誰なのでしょうか?」


 私が訪ねると彼は少しきょとんとした表情になった後、私を眺めるといたずらを思いついた子供のような表情になった。


「君には、僕が何に見える?」


 パッと見た目で言うなら……。


「執事?」


 私の返答に彼は、嬉しそうな表情になった。


「……まあ、はずれだけどね。僕としては、そう思ってくれると嬉しいよ」


 そう少し寂しそうに笑った後、彼は爆弾発言をした。


「僕の主って話、あれ嘘だから。君と話したかったのは、僕自身」

「えっ、何のために……?」


 彼は、当然というように口にした。


「君に大切な話をするために」


 そう言った時の彼の苦しそうな表情を、私は一生忘れられないだろう。


「単刀直入に聞くけど、選定者に会ったのは君だよね?」


 このとき私は、驚きのあまり無言になってしまった。

 ……この無言を彼は、肯定と取ったようだ。


「選定者の姿を見ることは出来た?」


 軽く記憶を振り返り、私は頷いた。


「どんな見た目だった?」

「私に、そっくりな姿だった気がする」


 それを聞いて彼は、少し気まずそうな表情になった。


「ならば、ほぼ確定だな」


 呟きに首を傾げると、彼は「こっちの話」と言って急に真剣な表情になった。

 私も姿勢を正して、彼の話を聞く体勢になる。


「さっきの質問の答え合わせをしようか」


 ……彼が何に見えるかと言う話だっけ?


 そういえば、執事ではないとしか聞いていないものね。


「ええと、自分で言うのもなんだけど僕、魔王なんだ」


 ……魔王?

 ええっ、執事にしか見えないのに!


「それで君は、その後継者候補。……ほぼ確定だけど」


 笑い飛ばしたくなるような話だが、彼の表情からすると本当なのだろう。


「さっきも言っていたけど、どうしてほぼ確定だって言えるの?」

「選定者というのは元の魔王……君からすると、僕の魔力や魂の一部なんだ。玉座に着くときに分離され、新たな魔王を待つと言う使命だけを帯びた命」


 その時、選定者の寂しそうな声が唐突に頭に浮かんだ。


「そして、条件に合致する、または、未来にそうなる可能性のある人物に話しかけ、魔王の後継者か見極めるんだ」

「その条件と言うのは?」

「魔族・妖怪・人間のいずれか二種族の中で生活をしたことがあるか、ということが分かっている条件だ。一応魔族を統べる者になるから、他人のことを理解するために必要だと言うことだろう。それから、当然だけど、魔力・妖力・霊力のいずれかがずば抜けて高いことも条件だな」

「あなたも、二種族間で過ごしたことがある?」

「そう。僕はね、執事だった。僕が生まれたのは魔族の間で、仕えたのは妖怪だったんだ」


 だから執事と答えた時、嬉しそうだったのか。


「話を戻すけど、魔力の一部である選定者は相手のことを認めると、その人物の魔力になる。その証拠として、相手と同じ姿をとることが多いんだ」


 ……それで、ほぼ確定か。


「どうして、今、新しい魔王を決める必要があるの?」

「近い将来に、魔物が人間と妖怪の世を征服しようと計画しているらしい。それを止めるには新たな魔王が玉座に着くことで、威厳を示さないといけないんだ」

「それ、私である必要はあるの?」


 彼は、私の言わんとすることを正確に理解したようだ。


「僕だと駄目な理由はね、魔族は長い寿命が原因か、総じて飽きっぽくて新しいもの好きだからだね。……だから、暇つぶしも兼ねて最初の命令は必ず言うことを聞いてくれる。だけど、それ以降は気まぐれだからね。聞いてくれない可能性が高くて、大切なことを頼むのにはリスクが大きいんだ」


 魔王にならないと、私の「両親」やみかんたちにも危害が加わりかねないって事?

 ……それは、嫌だ。

 でも、魔王になるのは責任が重そうで、怖い。

 どうすればいいの……?


 その時、優しい声が響いた。


 ――雪のやりたいようにすれば良いよ。誰も強制はしないから。

 ……ありがとう。そういえば、選定者って呼ばれているけど、名前は?

 ――特にないわ。今までの選定者も、みんな名前なんて無かったもの。

 じゃあさ、私が決めても良い?

 ――え、良いけど。魔力として取り込んでしまえば、私の人格は消えるわよ?


 一見否定的な意見だが、声音は期待が滲んでいた。


 ――どうせなら、雪を連想させるようなものが良いわ。


 それどころか、結構ノリノリだ。


 そうだな……。六花とかどう?

 ――りっか……。どんな意味なの?

 あまり詳しくないけど、雪って意味があったから。


 そこまで言った途端に食いついた。


 ――うん。それが良い。これから私のことはそう呼んで?


 気に入って貰えたみたいで、選定者――六花は何度も名前を口にしている。

 その様子を見ていると、やっぱり六花に消えて欲しくないと思った。

 私は、六花の消滅を回避するために思いついたばかりの作戦を相談してみることにした。


 ねえ、六花。***って出来る?

 ――面白いことを考えるわね。規則で決まってはいないから、出来ると思うわ。

 ……じゃあ、私やってみるよ。

 ――応援するわ!


 私たちは、鏡のような顔を見合わせて笑った。


 視界を魔王城に戻すと、彼は私の方をじーっと見ていた。


「決まった?」

「うん。受けることにしたよ」

「一週間後に、この城で儀式を行うから。……本当にいいの?」

「大丈夫」


 心配そうな声音に、私はにっこりと笑い返した。



 部屋に戻るとみかんたちに心配されたので、何があったか軽く説明した。

 最初は皆反対していたが、私の作戦を聞くと納得したようで、にやりと笑って送り出してくれた。



 今日は、あれから丁度一週間経っていた。……つまり、儀式を行う日だ。

 この場には、そこそこの人数の魔族が集っている。


 なかなか悪くない状況だ。

 ……これだけいれば、良い証明になるだろう。


 私が内心でほくそ笑んでいるうちに、式は始まりを告げた。

 儀式と言っても選定者を取り込むことで魔王であると示し、王の証である冠を戴くだけだ。


「魔王様。選定者を呼び出して下さい」


 司会の魔族に頷いてから六花を呼ぶ。

 次の瞬間には、音も無く六花が姿を現していた。

 これは、一週間の練習で身につけた技術だ。

 魔族たちは、私と瓜二つの六花の姿を見て感嘆の声を漏らした。

 勿論だが、これは似ていれば似ているだけ良いらしい。


「では、お願いします」


 私はゆっくり深呼吸をした。


 ……ここから、作戦開始だ。


 私は魔方陣を六花の足元に作り出した。

 魔力をある程度吸い出すように設定してあるので、私はのんびり見守った。


 ……本当はここで最後まで吸い取るらしいけど、冗談じゃない。


 魔法陣が消えるとそこには、幼い姿になった六花がいた。


 ……うん、成功だ。


 初めて六花に会った時に見た記憶の中の私と、丁度同じくらいの年齢だ。

 魔族たちは、予想外の事態に少し騒がしくなった。


「静粛に。魔王様どういうことか、ご説明いただいても宜しいですか?」


 司会も理解はしていないだろうに、落ち着いた対応だった。……仕事が出来る人だ。


「この者を私の配下に加えることにした。異論は認めない」


 ……威厳のある雰囲気にしようと頑張ってはいるけど、物凄く喋り難い。舌噛みそうだ。


「……では、王冠の授与に移ります」


 ざわついていた会場が静かになる。

 司会の魔族が、元魔王に合図を送る。


「これより、魔を統べる者の称号は、この者に移る」


 彼が言うと同時に、大きな拍手が巻き起こった。


「魔王様から、お言葉を頂戴します」


 私はもう一度深呼吸をすると、一歩前に進み出た。

 作戦も大詰めだ。


 ――ねえ、六花。仮契約って出来る?


 私は、あの時の言葉を思い出しながら言った。


「私は魔王の仮契約をしたいと思う。適任者が見付かり次第、私はこの立場から退こう。私がもし、本気で魔王を続けたいと思った場合はこの者の力が必要になるだろうから、全ての魔力を吸い取ることにする。……反対意見は、今のみ受け付ける」


 六花を消すなんて、ありえないけどね。


 心の中で舌を出しながら、私は魔族の方を見る。

 唖然としているからか、誰も反応しない。


 ……私たちの勝ちかな。


 司会は、全体を見回してから言った。


「……では、決定とします」


 こうして、私は仮魔王になったのだった。



 私は控室に戻り全員とハイタッチをして、作戦成功を祝った。


「すだち。俺たちも配下にしてくれ」

「全員で話し合った結果ですわ」

「頑張ろうね」

「これからも……よろしく」

「私も手伝うわ!」


 みかん→なつちゃん→ひゅうが君→いよ君→六花の順だ。

 皆の言葉に嬉しくなった私は笑顔で言った。


「ありがとう。こちらこそ、よろしく」



 歴代魔王の書物には、変わった魔王が載っている。

 曰く、冠を載せたのは儀式の一度きりで、配下に妖怪が多く、傍らには常に彼女にそっくりな子供が控えていたという。

 そして、その子供がいなくなることは、一度も無かった。

 彼女が魔王を辞める時には、魔族の性質に似合わず、かなりの人数に惜しまれたとか。



                        ~Fin


 これにて完結です。

 気が向いたら、スピンオフや後日談を書くかもしれません。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

                           かっぱまき

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