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こころ

作者: ぺけお

想像力の欠如は、語彙力の欠如より重い。

どんなに口を開いても、その心が揺るがない。

私も、その子も、酷く困り果ててしまうのだ。


美しい言葉が好きだ。

安い言葉は聞けばわかる。

例えば、角砂糖を崩すこと。

柔らかそうな丸い角を少しずつ削って、それから赤い紅茶に溶かしていく。

スプーンで丁寧にあの角を壊すのが、僕の密かな楽しみ。


クラクラと目眩がする。

しかし、少しだけ心地いい。

この熱に浮かされ、何か夢を見たい。

君の痛々しい包帯の、その下の美しい瞳には…

さぞかし広大な銀河が広がっているのだろう。

僕は、確かにあの日…君に恋をした。

塞ぎ込んだ心の奥底、固まったロウソクに火がついたかのように。

ごめんよ、眩しいかい?

君の目は今にも光が染みると訴えそうに艷めいていた。

嗚呼、しかしどんな輝きよりも…色とりどりの光よりも…

あの子供のような君の横顔に酷く見蕩れていた。

チカチカと眩いばかりに点滅して見せる観客たちのどよめきの中のこと。

低い低い地響きがなったかと思うと、

つぎは光が尾をひいて天へ昇る。

そうして光が消えた途端に、また大きな破裂音がする……。

暗い闇に金色の珠が浮かんでいた。

これが、生きていると言うことなのか。


巡る季節の隙間に、雨と平穏の空間があるなら、

僕はその若葉に乗せて言葉を紡ごう。

世界の見方は一つではなく、移り変わり常に変化するんだよ。

まるで四季のように、

いや、それこそが正しいこの世のあり方なはず。

君のその汚れた頬からも、傷をつければ血が滴るのだから。

情けなく震える僕の手と、

その内にあるほんの少し黒鉛のついたカッターナイフに、全てを委ねよう。

週末への期待と、心地いい開放感。

苦しいと思うことに溺れる僕は、何かの病気なのかもしれない。

助けてと言えないまま、深い悲しみに酔っている。

夏になり、空が高くなるとよく上を見上げるようになった。

あの入道雲の向こうから暗い夕立が来る前に

麦わら帽子の隙間から溢れる光を掬うと、少しだけ心が満たされた。

生きるとは何だろう、使い古されたこの疑問にはまだ答えが見つからない。

私と君の欠片を合わせ、足りない部分を補えればどんなに良かったろう。

おいかけると逃げる君は、決して僕を探さない。

君の金色の洒落た懐中時計の輝かしい蓋に、僕は決してうつらない。

朝露がのった真っ赤なトマトに頬張り齧り付いた、午前五時。

純粋なばかりのまっさらな瞳に、戦争が色を添えてゆくのだ。

よく磨かれた薄桃色の空き瓶が、

菫の砂糖漬けでいっぱいになってゆく幸福。

君に久しぶりと声をかけて、また少年の日に愛することを誓う。

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