第1話
目が覚めたらベッドの中にいた。海に沈んだ後救助されたのかと思ったけれども部屋を見回して違和感を感じた。
それか何なのか周囲をよく観察して何がおかしいのか分かった。窓の外のから見えるのはは山の中に有るかのようなのどかな村の光景だった。潮の香りがまったくしない。そして部屋の中には電気製品は1つもない。僕が乗っていた船は太平洋のど真ん中を航行していた。
救助されたのならこんな所にいるのはおかしいし、どこかの島に流れ着いたのなら塩の香りがしないのはおかしい。まさかあの夢は本当で僕は異世界にいるのだろうか……
とにかく誰かに会ってここは何処なのか聞こうと思っていたら女の子が部屋に入ってきた。
「あ、目が覚めたんだ。森の中で倒れていたからビックリしたんだよ」
女の子は僕が目を覚ましたのを見てそう言った。そして僕は森の中に倒れていたと言われてあの夢が本当だったと知った。
*****
「どこの貴族様の坊ちゃんかは知らないけど騎士団に知らせたからすぐに迎えが来るはずだ。それまで大人しくしていろ」
「貴族?」
「そんないい服を着ているんだ、一発で貴族だと分かる。家出のつもりならもう少し服装を考えておくんだな」
僕が目を覚ましたと知ると女の子の兄らしい人がやって来て僕にそう言った。貴族だと誤解されているとは言えあまり歓迎されてはいないみたいだ。
「ねえ、あなたの名前はなんていうの?私の名前はね……」
女の子が僕に名前を聞いてきた。けれども女の子が自分の名前を言おうとしたら女の子のお兄さんが女の子の口を塞いだ。
「貴族様に名前を教えるな。それにこいつの名前を知る必要は無い!」
女の子にそう言うとお兄さんは部屋を出て行った。それにして僕を貴族だと思っている割には随分と乱暴な態度だ。この世界では平民が貴族にあんな態度をとっても許されるのだろうか?
「ごめんなさい。お兄ちゃんは幼馴染で初恋の人を貴族様に取られた事があるの。それ以来大の貴族嫌いだから、許してあげて」
女の子はお兄さんの代わりに僕に謝ってきた。
「別に気にしないけど、それよりも貴族に幼馴染を取られたってもしかして無理やり?」
「ううん、お兄ちゃんが振られただけ」
女の子が話した事が気になって聞くと女の子はあっさりそう言った。
「平民でも『マナ』の容量が大きければ貴族様の養子やお嫁さんになるのは簡単だから。お姉ちゃんは『マナ』の容量が大きかったから貴族様のからの求婚はたくさん来て、その中からいい人の所にお嫁に行ったんだ。私も『マナ』の容量が大きいから将来は引く手あまただって言われているんだ」
よく分からなかったので女の子に聞くと、この世界には『マナ』というものがあるらしい。その『マナ』はあらゆる生命の命の力を活性化させる力を持っていて、体に溜めておける『マナ』が多いほど強い力を持つ事が出来るそうだ。
そしてこの世界の王侯貴族は多くの『マナ』を持つ事が優先されその為に『マナ』の容量が多い配偶者を求め場合によっては平民でも養子や配偶者として求められる事がよく有るそうだ。
「でも変なの、お兄ちゃんも貴族様なら知っていて当然の事なのに?」
女の子がそう言ったので僕は誤魔化すのに苦労した。
*****
それから女の子は部屋から出て行き僕は1人でいろいろと考えた。僕をこの世界に送り込んだ少女達は僕が何をすればいいのかは僕を拾った人が知っていると言った。けれどもここの人達は僕の事を知らないようだった。
これから僕は何処へ行き何をすれば良いのか分からずに不安で悩んでいると女の子のお兄さんが部屋に入ってきた。
「妹見なかったか?」
「いいえ、昼過ぎに出て行ったきり見ていませんけど」
「不味いな、今隣のパワースポットから魔物があふれ出てきたと知らせが入った。もし森に入ったのなら魔物と出くわすかもしれない」
そう言うとお兄さんは部屋を出て行った。僕は女の子の事が心配になったのでお兄さんの後を追いかける事にした。
「ついて来なくていい。部屋で待っていろ」
「助けて貰ったし。僕も彼女の事が心配なんです」
僕が追いかけてきたのを見てお兄さんは付いてくるなと言ったので僕は女の子の事が心配だと言った。
「うるさい、妹はお前にはやらん」
いきなりそう言われて訳が分からずにいるとお兄さんは話を続けた。
「妹はあいつ以上の『マナ』の容量を持っている。『マナ』の容量は子供に受け継ぐと言われているから妹は貴族様から養子に来いといわれ続けてきた。もっと上の貴族様に差し出すためにな。王様が貴族様でも無理やり養子に取れないように法を定めてくれていなければ妹はとっくに連れて行かれてた。お前も妹に目をつけたんじゃないのか?」
お兄さんにそう言われて僕は違うと言った。『マナ』の容量には興味は無い。ただ純粋に助けてくれた事に対してお礼がしたかっただけだ。
「子供だな」
そう言うとお兄さんは僕の事を馬鹿にするかのように言った。さすがに僕もカチンと来て言い帰そうとすると森に入っていた女の子を見つけた。
「お兄ちゃん達、2人してどうしたの?」
僕とお兄さんの組み合わせが珍しかったのか女の子は不思議そうな顔をした。
「魔物が近くまで来ている、すぐに村に帰るぞ!」
お兄さんはそう言うと女の子の手を引いて村に帰ろうとした。その時だった近くの茂みが揺れて異形の生き物が出てきたのは。
そう異形の生き物だ。物語に出てくるような凶悪そうな魔物ではない。体のバランスが崩れた醜悪と言っていい生き物が目の前に現れたのだ。
「っ、飽和型か!走れ!」
お兄さんがそう言って女の子を抱えあげると村に向かって走り出した。僕もその後に続いたけれども目の前を走っているお兄さんが立ち止ったので僕も止まった。
「囲まれた」
見ると異形の魔物に囲まれていた。まるで同じ種類のオオカミの体の所々を発達させたような姿。しかし似ているが同じ姿の個体はいなかった。
「おい、妹を連れて逃げろ」
「お兄ちゃん!」
お兄さんはそう言うと女の子を僕に預けた。
「飽和型なら俺一人でも何とかできる。お前は妹を連れて逃げろ」
「お兄ちゃん駄目だよ。魔物になっちゃうよ!」
「早く妹を連れて逃げろ!汚染されたいのか!」
魔物になるとか汚染とか言っている事が分からない事もあったけれども、お兄さんの気迫に押されて僕は女の子を連れてこの場から逃げようとした。
「幸せになれよ。リーリア」
お兄さんは女の子の名前を呼んで魔物に向かって行った。
「お兄ちゃん!」
僕は兄の名を叫ぶ女の子…リーリアを連れて走ろうとした。その時誰かが僕の横をよぎって言った。
「騎士様?」
リーリアがそう言ったので僕は後ろを振り返った。すると鎧を身にまとった1人の青年が魔物を次々を倒している姿を目にした。騎士だと思われる青年は小型の斧を武器に魔物を殲滅した。すると魔物の死体から黒いモヤが浮かび上がってきた。
そのモヤを騎士はその体に吸収していった
「あんなに多くの瘴気を吸収出来るのか……」
お兄さんはそう呟いた。騎士は全てのモヤをその身に吸収すると今度は体から光のオーラを発散させた。そして僕を見ると黄金のドラゴンマスクを取り出して僕に近づいてきた。
「あ、御神体のマスク」
マスクを見て僕がそう言うと、騎士は僕にかしずいてこう言った。
「ソラノ様ですね。コクボ様の命によりお迎えに上がりました」
これが僕の異世界での冒険の始まりだった。