Thorn3
王都を埋め尽くす無数の茨。
響き渡る天使の歌声は、限界を迎え、周辺の者にしか届かない。
街には未だ、空虚で鬱屈とした空気が淀んでいる。
誰もが茨によって夢を吸い取られ、零れ落ちる救いの歌にさえ気付かない。
歌声に呼び起こされた者も、待っているのはこれまでの後悔や厳しい現実。愛する人の名を呼び、嘆きに身を沈める。
暗闇が光に変わる兆しは、まだ無い―。
茨の城では王都の惨状とは真逆の、眩いばかりの光景が広がっていた。
花々はまるで世界一の幸福を謳歌するように花弁を広げ、無数の光が風と戯れるかのように揺らめいている。
茨姫は幸せそうに光を眺めていた。
そこには無限の夢や愛が詰まっており、しかし、本来彼女のものではないはずの、夢と愛の結晶。
その事実から逃げるように一度目を閉じ、愛おしげに手を伸ばす。
その瞬間――。
極彩色の花畑から色が抜け、ボロボロと音を立てて朽ち果てていく。溢れていた光は、指が触れるのと同時に弾け飛んだ。
残されたのは、底無しの暗闇と、立ち尽くす茨姫ただ一人。
「…どうして、どうして、どうして!!!」
頭をかきむしり、ぬぐいきれない孤独感と絶望が茨姫を襲う。
そう、ここはあくまでも夢の中。
どんなに人の夢を奪っていても残るのはいつも枯れた夢と自分という存在、ただ一人。
その事に気付いているのか、いないのか。
茨姫自身ですら、もう分からない。
解るのは満たされない心。ただそれだけ。
満たされるまでは……。いいえ、たとえ満たされても目覚める時は来るのだろうか。
茨姫は今日も眠り続け、夢の中で幸福と絶望を繰り返す。
救いであるはずの天使の歌さえも茨の一部に取り込み、彼女はより深く、自身の殻へと閉じ籠っていく。
そこがいつか壊れる運命にある『仮初めの楽園』だとも気付かずに。




