どうもすみません、孤児院出身メイドの私が王子様と結婚することになりまして。後編
出会った日から、私とアルはたまに夜の休憩時にお茶をするようになった。
不思議なことに、その時は部屋に彼と二人きりになる。
これについて他のメイド達に尋ねても、ニヤニヤした笑みを浮かべるだけだった。何なの? その方がアルもゆっくりできるだろうから、別にいいんだけど。
どうやら彼は大変な仕事をしているらしい。
いつだったか、こんな話をしていた。
「また戦線に戦士を送ってほしいと催促がきたよ……。人は物じゃないんだ。皆、家族だっている。そんなに簡単には、送れるはずないだろ……」
人類は今、魔獣という共通の外敵と戦っている。
戦線はこのヴェルセ王国からは遠く離れているけど、戦況が思わしくないみたい。アルがよく疲れた顔をしてる理由が分かった気がする。
……彼は、すごく優しいからだ。
よし、今日はアルの好きなトマトリゾットを作ってあげようかな。
休憩室に行く前に、私は鏡でささっと銀色の髪を直した。
いや、何も意識してないよ。確かに、アルは綺麗な金髪で見目も麗しいけど、私は何も意識なんてしてない。
そうして、アルとお茶をするようになって半年が過ぎた頃だった。
彼が突然、大事な話がある、と切り出してきた。
いつになく真剣な表情だ。
「いきなりだけど許してほしい。もう時間がないんだ。オル、俺は君ともっと、そしてずっと一緒にいたい。どうか、俺と結婚してくれ」
……なんてストレートな言葉。心に直接響いてくる。
と思った時には、もう自然と口が動いていた。
「いいよ、結婚しよう」
口が勝手に返事してしまったけど、まあ私の気持ちも同じだ。
「私も、もっとアルの近くで、そしてずっとアルのことを支え続けたい」
「オル、いや、オルディア……、ありがとう」
あれ? 私、本当の名前言ったっけ?
休憩室の入口でルクトレアが笑みを湛えて立っているのが見えた。彼女はパチパチと手を叩きながら近付いてくる。
「おめでとうございます、アルフレッド様」
アルフレッド様って、まさか……。
「アルってもしかして……、第一王子のアルフレッド様?」
「そうだよ。オルディア、いつか気付くだろうと思っていたんだけど」
ルクトレアがポンと私の肩に手を乗せてきた。
「最後まで気付かない辺りがオルディアよね。アルフレッド様、隣国の姫君との縁談話、それに今回の件を元老院に認めさせるのも、後は全て私にお任せください。それほど難しいことではありません。お隣の姫様は予知しなくてもあの浪費癖で国を衰退させるのは明らかですし」
私に視線を移してきた彼女の笑顔が一層輝く。
「対して、オルディアが王妃になれば固有魔法〈聖母〉が国全体に適用されるのですから」
〈聖母〉が、国全体に適用……!
「確かに魔法もすごいけど、俺はオルディアの飾り気のないところが好きになったんだよ」
……ありがとう、アルフレッド様。嬉しいような、あまり嬉しくないような。いや、それより……。
「……ルクトレア、最初から全部仕組んでた?」
「あなたの魔法は国の運命をも左右すると言ったでしょ。それに恋愛は本人達の意思が大事。私はちょっとお膳立てしただけよ。あとは根回しね、彼女達に」
彼女達……?
もう一度入口に目を向けると、メイド達が怒涛の如く雪崩れこんできた。
「おめでとう! オルディア!」
「やったわね!」
「王妃になっても友達よ!」
「王妃になってもお茶を入れてね!」
み、皆、ちょっと待っ……!
そのまま同僚達に連れ去られた私は、衣装部屋に放りこまれる。着たことのない豪華なドレスに袖を通し、飾り気のなかった私は大いに飾り付けられることになった。
気付けば、大広間でアルフレッド様の隣に並んで立っていた。
目の前には貴族の皆様方。
まずアルフレッド様が何か話した後に、進行を務めるルクトレアが「ではオルディア様、ご挨拶を」と振ってきた。
え、急に言われても。何を喋ればいいの?
見回すとご令嬢様方の姿もあちこちに。呆然とした表情で私を見つめている。
そうだ、彼女達にしてみれば、私のような者に一番人気の男性を取られるのは想定外に違いない。ここはちゃんと謝っておいた方がいいかも。
「どうもすみません、孤児院出身メイドの私が王子様と結婚することになりまして」
呆然としていたご令嬢様方の口がパカッと開いた。
……逆に失礼なことを言ってしまった気がする。どうもすみません。
――婚姻から程なくして、アルフレッドは父王様から王位を受け継いだ。
その最初の年から私の固有魔法〈聖母〉は目に見えて効果を発揮する。国中の作物がたわわに実り、他国との商談も次々にまとまって取引件数も急増。
ヴェルセ王国はかつてない繁栄の道を歩み始めた。
一方で、私自身も新たな命を授かることになった。
誕生した女の子に、私とアルフレッドはオルセラと名付ける。この子の人生がどうか幸せなものでありますように、と私達は願わずにはいられなかった。
「私は孤児院育ちで両親もいなかったから、オルセラには本当に幸せになってほしいよ」
私の言葉にアルフレッドが頷いて同意を示す。
「そうだな、この国の王女として二人で大切に育てよう」
ところが、ルクトレアがオルセラを見るなり、
「この子の適性はメイドよ」
と言った……。
あまりにも残酷な宣告に、私もアルフレッドもその場で凍りつく。
「ちょっと待って。王女なのに適性がメイドなの? また、国の運命をも左右する、とか言い出すんじゃないでしょうね?」
「国どころじゃないわ。……ふふ、私としたことが、完全に見過ごしていた。考えてみれば当然よ。だって、あなたの魔法は〈聖母〉なんだもの。母親となってからが本領発揮だった」
ぶつぶつ呟いた後に、ルクトレアは確信を持って言い放った。
「この子は世界の、つまり人類の運命をも左右する可能性を秘めているわ」
えー……、生まれてきたばっかりなのに、世界一重そうなものを背負わせるのやめてあげて……。
「王女をメイドにするには、どうすればいいんだろう……」
私の呟きにルクトレアが「そうねー」と考える仕草。
「親なし子として孤児院に預けて、十五歳になったら私が城に送りこむ、とか?」
おや、どこかで聞いた話だね。
…………、断固拒否する!




