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どうもすみません、孤児院出身メイドの私が王子様と結婚することになりまして。  作者: 有郷 葉
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どうもすみません、孤児院出身メイドの私が王子様と結婚することになりまして。前編


 私、オルディアは孤児院で育った。我慢しなければならないこともあったけど、それほど悪い環境じゃなかっただろう。食事もおやつもちゃんと貰えたし、学校にも通えた。

 普通の家の子と違うのは、いずれ自分だけの力で生きていかなければならないという点だろうか。


 孤児院には毎年、王国の学術機関から研究者達がやって来る。

 子供達の適性を判断し、将来へのアドバイスをくれる有難い人達だ。また、彼ら十五歳になった子にクラスを授けるという役目も担っている。

 そして、私も今年、十五歳を迎える一人だった。


 私は女性の研究者と向かい合って座る。

 この人、ずいぶん若く見えるな。まさか私と同い年くらい……?

 まじまじと顔を見つめる私に、彼女は小さく微笑んだ。


「若いから心配? 大丈夫よ、私は人より少し頭の回転が速くて、少し才能があるの。規定の試験も全てパスしてるわ。じゃあ、まずはあなたの適性を見るわね」


 はっきり言う人だ。でも、あまり嫌味な感じはしないね。


 去年までの適性判断で、私は体を動かす仕事が向いていると言われていた。私自身も、事務的な作業などより、そっち向きだろうと思う。


 やがて女性研究者は「やっぱりね」と呟いた。私の目をまっすぐ見つめる。


「オルディアさん、あなたの適性はメイドよ」


 え……、メイド限定? 確かに体を動かす仕事ではあるけど。

 戸惑う私に彼女は言葉を続ける。


「あなたが得ることになる魔法は、国の運命をも左右する可能性があるわ」


 そう言われた私はさらに戸惑うしかなかった。

 通常、【メイド】が発現する魔法といえば、〈拭いた窓が綺麗になる〉や〈干した洗濯物が早く乾く〉なんかだ。


 国の運命を左右……? ピンとこないにもほどがある。

 しかし、そんな風に断言されては、他の職業にします、と言える状況にはとてもなかった。結果、私は【メイド】のクラスを授けてもらうことに。


 発現した固有魔法は〈聖母〉だった。

 いや、私まだ独身だし、恋愛も未経験なんだけど……。


 一仕事終えた研究者の彼女は、納得したようにうんうんと頷いている。


「メイドの業務は母親的なものが多いし、きっと【メイド】関連の最上位魔法ね。私の名はルクトレアよ。よければ職場も紹介してあげましょうか? とてもいい所があるんだけど」

「じゃあ、お願いします……」


 と紹介されたのはなんと国の中枢、王城。

 国内最大と言ってもいい職場で、メイド以外にも色々な業種の人が勤務する場所だけど、私は持ち前の人当たりのよさでどうにかなじむことができた。


 ちなみに、ルクトレアが所属する機関もこの城に入っている。私と同い年だった彼女は、何でも気軽に話せる友人になった。

 ルクトレアは私の休憩時間に合わせてしょっちゅう遊びにきた。

 ああ、今日も先にいるね。


 メイド達の休憩室に入ると、すでにテーブルにはルクトレアの姿が。


「あ、来た来た、早くお茶入れて」

「早速それ? 別にいいけど」


 すると、部屋にいた他のメイド達も口々に、私にも私にもと。別にいいけど。


 私の固有魔法〈聖母〉は常に発動しっぱなしの魔法だ。

 その効能は、私の育んだものは全て何だかいい感じになる、というもの。植物の種を植えればすくすくと成長し、お茶を入れればとても美味しくなる。

 そんなわけで、……私は皆から便利に使われていた。


「はぁ、美味しい。さすが〈聖母〉のお茶だわ」


 一息ついたルクトレアは思い出したように。


「私、昇進したわ。所長になったの」

「早すぎない? まだ十六歳じゃない」


 前に、ルクトレアは私に自分のことをはっきり言ったのだと思った。けど実は、かなり控え目に表現したのだと今なら分かる。彼女は相当仕事ができた。

 また、彼女は公爵家の令嬢で、自ら人生を切り開く権力が欲しくて今の研究職に就いたらしい。そのクラスは【セージ】。固有魔法は〈導く者〉だ。

 予知のようなこともできるようで、それで私の元にやって来たんだって。


 能力が高くて家柄も良く、おまけに未来も見えるなら色々と自由自在に違いなかった。彼女は日々、着々と権力を蓄えている。もう権力に取り憑かれていると言ってもいいかもしれない。

 と思っているのがルクトレアにバレたみたい。


「権力はあればあるほどいいのよ」

「……そんなこと堂々と言う人、初めて見た」

「実際役にも立つわよ。オルディア、貴族からいじめられたら私に言って。家と私個人の力を使えば、大抵の人は潰せるから」

「何を怖いことを……。貴族は私なんて眼中にないよ」


 王城には仕事に就いている貴族もいるけど、そうじゃない貴族も日々わんさか訪れる。

 主にご令嬢様方だね。

 ただ、彼女達も遊びに来ているわけじゃない。少しでもいい結婚相手を獲得するために、家柄や容姿を武器に戦いに来ている。そう、ここは彼女達の戦場だ。メイドの私に構っている暇なんてないだろう。


 それでも、周囲で仕事をしている私には、嫌でもご令嬢様方の話が耳に入ってくる。

 もちろんほとんどが殿方に関する話。どうやら一番人気はこのヴェルセ王国の第一王子、アルフレッド様らしい。人間性は素晴らしく、見目も麗しいんだとか。射止めればゆくゆくはこの国の王妃だし、確かにこれ以上の人はいないよね。

 まあ、アルフレッド様を見たこともない下層メイド(仕事場がだよ)の私には、全く関係のない話だった。



 そんなある日のこと。夜勤中に休憩室に戻ってみると、見知らぬ男性が立っていた。


 ……立派な服装、位の高い役職の人かな?

 彼は私を見るなり申し訳なさそうに切り出してきた。


「あ、ごめん、ここはメイドさん達の休憩室だよね? 人にこの場所で待っておくように言われたんだけど……」

「そうなんですね、じゃあ待っていてもらって全然構いませんよ」


 と私は彼に椅子を勧めた。

 それにしてもこの人、ずいぶん疲れてるように見える。そうだ、あれを分けてあげようかな。


「これ、自分用の夜食に作ったシチューなんですけど、ご一緒にどうです? 元気が出るかもしれませんよ」

「いいの? お腹空いてるし、いただこうかな」


 シチューを一口食べた彼の顔が輝く。

 次々にスプーンを運び、あっという間に完食してしまった。


「とても美味しかったよ。何だか本当に元気が出たし」

「それはよかったです。お茶どうぞ。きっとさらに元気になりますよ」

「え? ……あ、そうだ。君は俺が誰かは知らないの?」

「存じ上げないです、すみません。私、下層メイドなもので。あ、仕事場がですよ」


 私の言葉を聞いた彼は途端に笑い出した。

 何かおかしなことを言いましたか?


「ごめん。俺のことはアルと呼んでくれ。大した身分でもないから敬語はいらないよ」

「じゃそうするね、アル。私のことはオルって呼んで」


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