16回目①
16回目①
《おぉ!使徒よ! 死んでしまうとは、情けない!》
《これからも我を愉しませよ》
「……また、じゃったか……」
血のにじむ意識の中で、薄れゆく景色を見送った。
次に目を覚ました時、すでに分かっていた。柔らかい毛布の手触り、窓から差し込む朝日──そして、小さな体。
再び一歳からのやり直し。
もう何度目になるのか、数えるのも億劫だった。
(あの娘を、処刑に追いやってしまったのは……ワシじゃ。神の使徒なんて、偉そうな名を語らなければ……)
やり直しをしてからというもの、寝ても覚めてもその後悔が頭を離れなかった。
けれど、だからこそ思う。もう同じ過ちは繰り返さない。
神の使徒? そんなものより、わしには家族がいる。
この世界でたったひとつ、確かな絆があるのだ。
──それにしても。
(どうにも、老人口調が抜けん……)
自分ではごく自然な話し方のつもりだった。だが、どうにも周囲からの反応は冷たい。
まさか、これが原因だったとは……今なら、よくわかる。
(だが、直そうにもどう直す? この言葉遣い、性根に染みついとるんじゃ……)
悩みに悩みぬいたある日、ふと考えが浮かんだ。
「いっそ、三人で王都に引っ越してしまうというのは、どうじゃろう?」
父と、母に、言葉遣いを矯正したい事と合わせて恐る恐る提案してみた。
普通なら笑われるか、はぐらかされるところだろう。
しかし──今回は違った。
父は真面目な顔で唸り、母は静かに頷いた。
「そうねぇ、村での暮らしも長かったし、一度環境を変えてみるのも悪くないかもしれないわね」
「言葉遣いなぁ…おかしいとは思ってたんだが、同じ年ごろの子供がいないからなぁ…この村で過ごしてたら言葉遣いは変わらないから環境を変えるか…隣町まで三人で移るのは難しいが……まぉ王都なら、なんとかなるかもな。昔の伝手もある」
「──え、えぇ?」
こちらが一番驚いた。
隣町には行けないのに、王都には行ける?
意味が分からない。
(まあ……よい。細かい理屈よりも、大事なのは結果じゃ)
こうして、引っ越しの話はあれよあれよという間に決まり、あっという間に荷造りが始まった。
王都へ。
涙したその場所へ──
(今度こそ、間違えないのじゃ)
心の中で静かに誓った。