15回目⑤
15回目⑤
──なぜ、あんなことに。
吐き出すように言葉を繰り返しながら、神殿の回廊をふらふらとひとり歩く。
壁に映る己の影が、まるで他人のようだった。
神の使徒。
その名のもとに、何人もの人がひれ伏し、崇め、命すら投げ出す。
でも──
あれは、ただの少女だった。
ほんの、言葉の行き違いだった。
軽い拒絶のつもりだったのだろう。彼女にとっては。
(わしが、止めればよかったのだ)
脳裏に焼きついた、拒絶の姿。
あの時、あの一言さえなければ。
いや──“神の使徒”でさえなければ。
歯がゆい。
あまりに非力で、あまりに無力だ。
(それでも……)
思い出す。
幾度となく、死に戻りを繰り返し、積み重ねてきた記憶。
村での暮らし、両親の笑顔、温かな手のぬくもり。
そして、妻として過ごした時間。
(やっと……やっと会えたのに……)
見上げる先、神殿の高窓から月が覗く。
夜風が、冷たい。
誰もいないはずの通路で、なぜか背筋にぞわりとした感覚が走った。
──あれ?
振り返る間もなく、胸元に鋭い痛みが走る。
「ッ……あ、れ……」
目を見開いたまま、地面に崩れ落ちる。
見下ろす影。
いつの間にか神殿の出入り口にいたひとりの神官服の女。
「神の使徒が、女に心を寄せて動揺するなど──神の意志に反する。あなたは、もう不要なのよ」
血に染まった視界の中で、その言葉だけがはっきりと聞こえた。
……あぁ、またか。
こんな風に、終わるのか。
心に浮かぶのは、あの少女の横顔。
村の両親の、あの怯えた瞳。
そして、自らの声。
(わしは……間違っていたのか……?)
黒く染まりゆく視界の中で、ふいに聞こえた。
《おぉ!使徒よ! 死んでしまうとは、情けない!》
「神様……わしは……」
かすれた声で呟く。
返ってきたのは、いつもの声だった。
《これからも我を愉しませよ》