表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/14

15回目③


15回目③


 王都神殿。

 白亜の回廊を渡り、陽光に煌めく礼拝堂の奥で、ひとりの少年が祈りを捧げていた。


「……願わくば、神の導きにより、災いが及びませぬよう……」


 その祈りの口調は、幼い外見にそぐわぬ落ち着きと年季を感じさせた。

 だが、それが“神の使徒”として過ごす年月の重みでもあった。


 


◆ ◆ ◆


 


 あの“共鳴”から数年が経った。

 神殿での生活は決して派手ではない。むしろ、清貧に近い慎ましさがある。


 朝は祈りから始まり、午後は礼儀作法や歴史、神学の講義。

 夕刻には“神気”と呼ばれる力の制御訓練を行う。


「使徒殿、足運びが違います。“貴人”としての所作を忘れぬように」


 立ち振る舞いひとつにまで気を配られる生活。

 村の自由気ままに育ったわしにとっては、どこか窮屈だったが、それでも受け入れていた。


 なにより、両親が無事であるという“事実”が、この選択の正しさを裏付けてくれていた。


(神の使徒として過ごせば、あの村を、あの家族を守れる。そう信じて……)


 


◆ ◆ ◆


 


 そうして月日が流れた。

 やがて“使徒”としての任務の一環で、王都の各区に顔を出すようになっていった。


 この日は、行商区――庶民と旅商人が集まる、市場のような場所であった。


 街路には香辛料や果物、革細工や薬草など、様々な品々が並び、人の声と笑い声が絶えなかった。

 使徒としての監査役という肩書きで、公平な商取引が行われているか見て回ることになっていた。


 だが、その時だった。


 人ごみの中、ふと目に留まった横顔があった。

 細い首筋に、紅の髪紐。

 整った目鼻立ちと、凛とした表情。


(まさか……いや、しかし――)


 心臓が跳ねた。

 喉の奥で名前を呼びそうになるのをこらえる。


 あれほど……あれほど、長く見続けた“絵”だ。

 彼女が、わしのかつての妻だった。村長だった頃、愛したただ一人の女性――。


(……間違えるわけが、ない)


 この胸の奥から滾り上がる確信。

 そして、使徒であるという現在の立場を忘れ――わしは、駆け出した。


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ