15回目②
15回目②
王都へと向かう馬車の中
「……右手の小川の先にある林の中。あそこは、ゴブリンの巣があったんじゃ。気付かれずに通るには、夜明け前がよいぞ」
ぽつりと呟いたその言葉に、馬車の前に座っていたギルドマスターが片眉を上げた。
「……それ、誰に聞いた?」
「ワシは神の使徒なのじゃぞ」
ギルドマスターは口を閉ざした。
数刻の沈黙ののち、今度は別の話題を振った。
「隣町の東門の見張り、気難しくて有名だったよな?」
「ああ、あの老兵じゃな。根は優しいのじゃが、孫が盗賊に殺されてな……それ以来、見張りに妙な執念があるのじゃ」
ギルドマスターの手が止まった。
誰も、そんな話を語ってはいないはずだった。
いや、語れるはずがない。村の子、それも六歳の子供が、そんなことを知る術など――
「……なるほどな」
ギルドマスターは一度深く息を吐き、続けて言った。
「俺は、あんたの父親に“英雄”ってあだ名をつけた張本人だ。あいつとあんたの母親が、どれほど真面目で正直だったか、よく知っている。そんなふたりが怯えながらおまえを差し出した時点で、ただごとじゃないってわかってた」
馬車が石畳に揺れ、遠くに城壁が見えてきた。
王都だ。高い塔と白い神殿が、光に浮かび上がっていた。
「神の使徒、ね……。信じたくないが、信じざるをえんわな」
◆ ◆ ◆
王都の神殿では、ギルドマスターの紹介状が通じたこともあり、わしは“仮の使徒候補”として丁重に迎え入れられた。
その日のうちに、神との“共鳴度”――神気の波長に触れるための儀式が行われた。
祭壇の前に立たされた子供に、神官が祈りを捧げる。
そして、光が爆ぜた。
神殿全体が揺れるかと錯覚するほどの光量。
神官は尻もちをつき、周囲の祭司たちが一斉に後ずさった。
「なっ、なんだ!? これは……!」
測定結界が軋む音を立て、まるで今にも破裂しそうな神気を放っていた。
祭司長が、膝をついたわしを見て、震える声で呟いた。
「……本物……いや、“想定外”だ……」
◆ ◆ ◆
その日を境に、神殿にて正式に“神の使徒”として扱われるようになった。
儀式、祈り、礼儀作法――村での生活とは一転し、王都の格式ある世界が始まった。
だが、わしにとって何より大事だったのは、ただひとつ。
(村が……両親が、無事であるように)
己の“繰り返し”が、少しでも正しい方向に進むことを信じて――