表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

12回目

12回目


《オォ!シトヨ! シンデシマウトハ、ナサケナイ!》


 若干聞き取りにくい声が聞こえてきた。


《コレカラモワレヲタノシマセヨ》




 六つになった――といっても、誕生日らしい祝いは素朴なパンと母の歌だけだが、それでも月日の流れを感じるには充分だった。


 朝一番、父が木刀を振るい、母が畑の苗を撫でる。いつもと変わらない村の光景。けれど通りに停まった行商人の荷馬車は、わしを見るなりわずかに顔をこわばらせた。


「……また来てくれて、ありがとうござりまする」


 自然と口から出た言い回しに、行商人の目が泳ぐ。


 行商人は荷を下ろすと、いつもの世間話もそこそこに早々と村を去った。去り際、御者台でつぶやいた「やっぱりあの子、変だよな……」という声が風に溶ける。


 それでも両親はいつもと変わらない。父は「気にするな、良い子だ」と笑い、母は「あなたはあなたのままでいいのよ」と頭を撫でる。それが嬉しくて、わしはただ笑い返す。



 そして、その夜が来た。


 月が雲に隠れ、村の外から犬の遠吠えが二度。

 父が戸締まりを確かめるふりで刀掛けに手を伸ばし、母がわしを寝台へ押し込む。胸の奥がざわめく。いま何が起きようとしているのか、身体が覚えているのだ。


 軋む床板。屋根を渡る複数の足音。

 一拍置いて、扉が激しく叩き割られた。


『食い物を寄越せ!金目の物は俺達のだ!全部俺らが有効利用してやるよ!』


 あられもない罵声とともに、男たちが雪崩れ込む。


…あぁ、こいつらがおったのぅ


 父の剣閃が光り、飛び散る火花。母の悲鳴。わしは狭い納戸に押し込まれ、細く開いた隙間からただ見ていることしかできない。


 何も出来ぬまま、父が一人、二人と押し返す。だが数が違いすぎた。背後から振り上げられた棍棒が父の側頭部を打ち砕き、続いて母の叫び声と肉を裂く鈍い音が続く。 


 納戸の戸が引き剥がされ、男の影が覆いかぶさる。

 短剣が振り下ろされる、その瞬間だけが、やけにゆっくり見えた。


 血の匂い。足元に広がる暗い水たまり。視界がぐにゃりと傾き、世界が闇に沈む。



《オォ!シトヨ! シンデシマウトハ、ナサケナイ!》若干聞き取りにくい声が聞こえてきた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ