第19話 フェザー・アーギュメント
『民主主義の緩慢な死』
アスタナたちがジャングルで激しい戦闘を繰り広げていた頃、第二惑星ドゥオに向かう途中で、リュウ・ラントはネットワークのニュースを検索中に、そんなタイトルの記事を見つけた。妹のルナが気になるので第三惑星トレスの情勢を報じる記事を探していたのだ。
軍内部のイントラネット掲示板には政治向けのことはほとんど書かれていないため、リュウは個人持ちスマートウォッチでグローバルネットを閲覧していた。場所は発進待機中の高速輸送艇ケンタウロスの操縦席、大型輸送艦コンロンにコバンザメの様にくっついたままだ。
『建国の功臣であるマクシミリアン・マオ軍務大臣が収監中のシュタインブルグ中央拘置所で死亡した』
記事を読み始めたリュウは、思わず声にならない呻き声を上げた。
「ダメだよ、仕事中にエッチなサイトを閲覧しちゃ」
横からグスタフが的外れなツッコミを入れる。
「違うわ! ほら、これ見ろよ」
「マジ?」
グスタフは空間に投影された小ぶりのスクリーンを覗き込み、目を丸くした。
『死因は不明。特に持病はなかったとされている』
「ショックな人、多いだろうなぁ」
グスタフはしみじみとつぶやく。
『同氏は国家反逆罪の容疑で収監されていたが容疑内容に不明な点が多く、軍内部からも批判の声が上がっていた』
「そういえば、トヤマ艦長もマオ軍務大臣に限って反逆なんてありえないって言ってたな」
他に誰がいるわけでもなかったが、リュウは声を潜める。
『マオ軍務大臣は、軍を使って反政府デモを鎮圧することに反対していたとの情報もあり、それが収監された原因とみる向きもある』
「ひょっとして目障りだから消されちゃったのかな」
グスタフがシレッと恐ろしいことを言った。
『先日もウェイ自治州の代表候補だったイヴァン・イグナシオ氏が逮捕収監されるという事件が起きており、現在、政権に都合の悪い人間は次々に表舞台から退場させられている状況だ』
「グスタフ、他の人の前でそういう憶測は口にしない方がいい」
「わかってるって」
『さらに、こうした異常な状況が続く中、総統のシュナイダー・シュタインフェルトは、一切公の場に姿を見せず、説明責任を果たしていない』
「ねえ、これ、正規のニュースサイトじゃないよね。こんなの見てたらマズイんじゃない?」
「そうだな」
グスタフの指摘に思わずリュウも頷く。
「この記事書いてる記者も危ないよな。ユーカ・ユキヒラって署名してあるけど、本名かな。本名だとしたら、いい度胸だ」
リュウはそう言いながらブラウザーを閉じた。
「マスコミも次々にアカウントが凍結されてたりして、嫌な雰囲気になってきたよね」
グスタフが嘆くように呟く。
「軍隊を投入しなきゃいけないレベルのデモや集会って、ヤバいよな」
「ルナちゃんが心配だよね」
「ああ」
リュウは暗い顔でうなづいた。
「また、メール送る?」
「ネタを思いつかない」
顔を覗き込むグスタフにリュウは首を振った。
「そんな特別のネタなんかなくても良いんじゃない?」
「その特別じゃないネタを思いつかないんだよ。この間もとりあえずメール送ったら、全く盛り上がらずにやり取りが終了したの知ってるだろ」
「だから、彼女ができないんだ」
「うるさいわ! お前に言われたかぁない!」
「僕は花より団子だからね。女好きの君とは違って」
「変な言い方すんな! それに女性に興味が薄いだなんて健全な男子としておかしくないか」
「正直、軍隊にいる女の人って、苦手なんだよね」
「じゃあ、どういう子がいいんだよ!」
「う~んとね、小柄で線の細い子がいいな。それで、笑顔をステキで、よくしゃべる子。優しい目で、きりっとした感じよりも、ちょっと目じりが下がってるくらいがいいかな。髪の毛はクセがなくてつやつやしてて」
「ちょっと待て! その条件すべてに該当する人物が身近に一人いるよな」
「ん、誰?」
グスタフは、周りをキョロキョロと見回した。
「ルナにちょっかい出したら許さないからな!」
リュウの目が怒りに燃えている。
「したくてもできないでしょ。隣で君が常時監視してるんだから」
「何! ホントはちょっかいだしたいんだな! こいつめ!」
リュウは、ぽちゃぽちゃしたグスタフの頬を左右に引っ張った。
「痛いってば!」
グスタフは太い両腕でリュウの肩を押し、しつこいリュウをはねのける。
「で、結局、メール送るの? どうすんの?」
グスタフがキレ気味に叫んだ。
「送る」
肩を落としてリュウは呟く。
『ルナ、元気ですか? お兄ちゃんは元気です』
音声メールの出来は、案の定、酷いものだった。
その頃、第三惑星トレスの衛星軌道上を航行する宇宙輸送船の質素な造りの広い操舵室で、大型肉食獣のような雰囲気を漂わせる巨漢が、空間投影スクリーンを前に腕組みしていた。第二惑星ドゥオ出身の軍人、フェザー・アーギュメントだ。
鏡のように輝く甲冑のようなデザインの宇宙服とヘルメットを身にまとい、腰に長さ一メートル以上の金属製の棒を提げている。治安警察などがよく使用する電磁警棒だ。
『本日、第三惑星トレスにおいて、ウェイ自治州代表選挙が実施されました』
空間投影スクリーンにはウェイ自治州政府庁舎前に抗議のプラカードを持って集まる群衆の姿が映し出されていた。『イヴァン・イグナシオを釈放しろ!』『こんな選挙は無効だ』、プラカードに書かれているのは概ねそんな文言だ。
「まもなく、トレスの環に到達します」
緊張気味の若い男の声とともに、中空に映し出されていたニュース映像が前方の宇宙空間を映す船外カメラの映像に切り替わった。夥しい数の岩塊や金属片が『太陽』の光を受けて白く輝いている。
「本当に大丈夫なんでしょうな」
フェザーの視界に脂ぎった中年男が現れた。体重だけなら巨漢のフェザーといい勝負かもしれない。モール飾りのついた艦内服は軍服ではなかった。フェザーは面倒くさそうにジロリと男を一瞥する。
「船長、ご安心ください。われらが警護している以上、積み荷も乗員も安全です」
不機嫌そうなフェザーに変わって、白髪長身のギルダー・アーギュメントが応えた。
赤いジャケットに黒いズボンというシーナ惑星連邦軍の軍服に身を包み、フェザーの横に立っている。フェザーと違って腰が低く、あたりも柔らかい。
「警護というから軍艦が一緒に航行してくれると思ったのに、戦闘服姿の兵隊が乗り込んでくるなんて」
「そちらの会社は、これで海賊の被害がなくなるならと快く了解していただきました。御協力をお願いします」
愚痴をこぼす宇宙輸送船の船長に対し、ギルダーは慇懃な態度を崩さない。
「強力な電波障害! 自然現象ではありません」
先ほどの若い男の声が裏返った。
「ターゲットが餌に食いついた。各員、装備の最終確認」
フェザーがヘルメットに内蔵された通信機で部下たちに指示を送る。
「ヴィクトール、いつでもいけます」
「エマ、装備の確認に努めます」
フェザーたちは、二か所あるエアロックに兵員を配置し、輸送船に侵入する敵を待ち受けていた。前回襲われた輸送船乗組員の証言から、海賊の装備がレーザーガンであることは確認している。フェザーが身に着けている鏡のような甲冑はレーザーガンに対抗するためのものだ。部下たちも同様の装備で身を固めている。
「本船の真下、宇宙船がとりつきます!」
金属同士がぶつかる重々しい音が、フェザーたちのところまで響いてきた。
しかし、船外カメラには何も映っていない。
恐らく、先日フェザーたちが取り逃がしたシェラネバタ級ステルス戦闘艦だ。
「取り付かれました! 後部二番エアロック」
「ヴィクトール、貴様のところだ。油断するな! エマ、後部二番エアロックに急げ!」
フェザーは指示を送ると、凄惨な笑みをギルダーに向けた。
「伯父貴、行ってきます」
「殺すなよ、フェザー」
ギルダーは甥を信頼しきっている。間違っても敵に後れを取るとは思っていなかった。
「気を抜くなよ!」
後部二番エアロック付近では、操舵室方面を背にしたヴィクトール・ヴォルコフ二等兵曹が十人ほどの兵士を指揮していた。エアロックから現れた敵は彼らにレーザーライフルの銃口を向け、立て続けに銃撃を加えてくる。
ヴィクトールたちは金属製の盾を掲げ、じりじりと後退した。
レーザーエネルギーを浴びた盾は黒く焼け焦げ、融解し、ところどころ穴が穿たれる。
しかし、ヴィクトールを始めとする兵士たちは、全員、光学兵器対策を施した鏡のような鎧を着ており、実のところ後退する必要などなかった。劣勢はフェイクだ。
輸送船に侵入した十数人の海賊たちは、要所要所をセラミックプレートで補強したブルーグレーの簡易宇宙服とヘルメットで身を固め、ゆっくり前進を続ける。
レーザーライフルの先端には、鋼鉄すら貫くタングステンカーバイドの銃剣をつけていた。
ヴィクトールたちにとっては、レーザーよりもこちらの方が厄介だ。
「頃合いだな。隔壁閉鎖、退路を断て!」
ヴィクトールの合図とともに、海賊たちの背後の気密隔壁が勢いよく閉まる。
背後の気密隔壁が閉じたことに海賊たちが気付き、動揺が広がった。
「観念しろ、逃げられんぞ!」
ヴィクトールがボロボロの盾を放り投げ、兵士たちの先頭に進み出る。
海賊たちのレーザーエネルギーが彼に集中するが、鏡の鎧が煌めいて、それで終わりだ。
「光学兵器なぞ利くものか。総員かかれ!」
ヴィクトールは、長さ一メートルを超える電磁警棒を振りかざして突撃した。
十人ほどの部下たちが雄叫びを上げ、それに続く。
「下がるな!」
動揺する海賊たちの背後から低い声が響き、海賊たちは銃剣を正面に向け、なんとか踏みとどまった。
しかし、ヴィクトールはタングステンカーバイドの槍ぶすまを器用にかわし、電磁警棒による一撃を放つ。
光り輝く蛇のように電流がまとわりつく打撃武器がヘルメット側面に当たり、先頭の海賊が火花を散らして昏倒する。
ヴィクトールの左右を固める兵士たちも同様に海賊たちを打ち据えた。
狭い通路なので同時に戦闘に参加できるのは各陣営三人ほどだ。
海賊たちの最初の三人は電気ショックと打撃によるダメージで床に転がり、次の三人も概ね同様の運命をたどった。
「いけるぞ!」
ヴィクトールの雄叫びに呼応したように左右の兵が突出する。
文字通り敵を蹴散らし、右に左に電磁警棒を振るう。
タングステンカーバイドの銃剣が折れ飛び、床に転がった海賊たちは呻き声を上げた。
「どけ!」
野太い声とともに、海賊たちが左右に割れた。
後方から大柄な海賊が、味方をかきわけて最前列にあわられる。
同時に、突出していたヴィクトールの部下が仰向けに倒れた。
危険を察知したヴィクトールは足を止める。
足元に目を向けると部下の鎧の腹部に穴が穿たれ、血が湧き出していた。
「茶番は終わりだ」
血濡れたタングステンカーバイドの銃剣を床に向け、血を滴らせながら大柄な男が進み出た。
獰猛な野獣のような殺気を身にまとっている。
無防備のようにも見えるが、とても勝てる気がしない。そう思わせる何かが男にはあった。
「怯むな! かかれ!」
ヴィクトールは奥歯を噛みしめると、男に向け突進し、自分自身を鼓舞するように電磁警棒を振るった。しかし、簡単に男にかわされる。
逆に電光のような突きが喉元に襲い掛かり、ヘルメットの一部が切り裂かれた。
ヴィクトール配下の兵士が男を攻撃したが、肘の関節部分を正確に貫かれ血飛沫を上げる。
「ちっ!」
ヴィクトールが兵をかばうように電磁警棒を振り回した。
しかし、野獣のような男には、かすりもしない。
『戦況を報告せよ』
ヘルメット内部の通信装置がフェザー・アーギュメントの声を運んできた。
しかし、ヴィクトールに返事をする余裕はない。
そして、良い報告ができない状況に焦りを感じた。
タングステンカーバイドの銃剣がヘルメットを完全に貫き、頬が大きく切り裂かれる。
「隊長!」
部下の悲鳴が、通信機越しではなく、肉声としてヴィクトールの耳に届いた。
ヴィクトールは床を蹴って大きく後退する。態勢を立て成す、そう思ってのことだ。
しかし、ヴィクトールと同じ速度で野獣のような男は間合いを詰めてきた。
「くっ!」
斜め後方に身体を傾けたがバランスを崩す。
おまけに味方が狭い通路に密集しているため、かわし切れない。
『やられた』
観念したその瞬間、ヴィクトールは物凄い勢いで後方の床に背中から叩きつけられた。
誰かが強引にヴィクトールを引き倒したのだ。
頭蓋の中で脳がシェイクされ、一瞬、意識が飛びそうになる。
だが、その代わり、野獣のような男の剣に貫かれることは免れた。
「休んでいろ」
その低く響く声は、フェザー・アーギュメントのものだった。
フェザーは、体勢を崩したヴィクトールを力づくで引き倒し、凶刃から彼を救った。そして、ヴィクトールに代わって最前列に進み出る。
狭い通路の中央で、二人の巨漢が対峙することになった。周囲に強烈な闘気が立ち込める。
野獣のような男は銃剣を槍のように構え、フェザーは電磁警棒を刀剣のように正眼に構えた。
空気が固まる。
「!」
裂帛の気合とともに銃剣が煌めき、電磁警棒が最小限の動きで神速の銃剣を弾く。
銃身に火花が散り、突きの軌道がそれた。
直後、フェザーの蹴りが男のみぞおち付近に吸い込まれる。
薙ぎ払うような大きなモーションの蹴りではなく、衝撃を体内に叩き込むような鋭い蹴りだ。
何かが炸裂するような音が響き、男は凍り付いたように全ての動きを止める。
そして、フェザーが蹴り足を戻す動きに引かれるように、男は前のめりに倒れた。
フェザーは予期していたかのように倒れてくる男をかわす。
「艦長!」
男の背後にいた二人の敵兵が悲鳴のような叫び声をあげ、銃剣を振り上げた。
だが、フェザーの電光のような動きに全く対応できない。
一人は電磁警棒でヘルメットを砕かれ、もう一人はあり得ない方向に腕が曲がる。
二人とも、その場に倒れ、のたうっていた。
残った数名は、恐怖の色を浮かべ気密隔壁まで後退する。
「つまらんな」
フェザーはそう言いながら電磁警棒の先端を気密隔壁を背にした男たちに向けた。
そして、部下に接するような態度で声を響かせる。
「さっさと降参しろ、手加減するのは面倒だからな」
「い、一斉にかかるぞ」
一人の海賊が健気にも銃剣の切っ先をフェザーに向けた。三人ほどがそれに応じる。
「やれやれ」
フェザーはうんざりしたような声を出した。特に身構えたりはしない。
甲高い気合とともに、四人が助走をつけて同時に襲い掛かってきた。
タングステンカーバイドの銃剣が次々に折れ飛び、二人が瞬時に前蹴りの餌食になる。
残った二人は倒れこむ仲間に巻き込まれて体勢を崩す中、殴られ、警棒で打ち据えられた。
倒れた男たちの半数は苦しそうに呻き声を上げるか無言で痙攣し、残りの半数はピクリとも動かない。突撃に加わらなかった二人の男は完全に戦意を喪失して、レーザーライフルを放り出した。
「結局、最初の奴だけだったな。歯ごたえがあったのは」
そう呟くフェザーのヘルメット内部に、別動隊を指揮するエマからのメッセージが届く。
『敵艦の制圧に成功しました』
「御苦労だった」
そう答えたフェザーの顔は、勝利したにもかかわらず、あまり嬉しそうではなかった。
『一番に味方に引き入れるべきは、例の宇宙海賊の連中だろうな』
フェザーの脳裏には、叔父であるギルダーのかつての発言が蘇っていた。
「殺せ」
民間の宇宙輸送船を囮に使い、第三惑星トレスの環の近くで、フェザー・アーギュメントたちが拘束した海賊たちのリーダーは、フェザーが最初に打ち倒した野獣のような男だった。
肌は浅黒く、黒い髪は短く、眉は太く濃い。釣り目気味の三白眼で、ギルダーとフェザーを睨んでいる。薄暗く狭い部屋で、暴れることができないよう後ろ手に電磁手錠で拘束され、木の椅子に座らせられていた。
「名前は?」
男から安全な距離を取り腕を組んだ白髪長身のギルダーは、立ったまま男を見下ろしていた。
「ダミアン」
男は短くそれだけ答えた。
「トレスの環に潜んでいるのは、お前たちだけか?」
ギルダーが問いを重ねたが、ダミアンと名乗った野獣のような男は答えようとしない。
「答えろ」
巨漢のフェザーが不機嫌そうに低い声を響かせる。彼はギルダーの背後で腕を組んでいた。
そこは民間輸送船の小さな会議室で、ダミアンを尋問しているのはこの二人だけだ。
「言うと思うか?」
ダミアンは凶悪な瞳をフェザーに向ける。フェザーの巨体が怒気に包まれた。
「貴様は!」
「まあ、いい。エマが航行と通信の記録を押さえている。真実は自ずと明らかになるだろう」
身を乗り出したフェザーを制するように、白髪のギルダーが冷たく静かにダミアンに告げる。
ダミアンはフェザーを睨んだままだ。
そんなタイミングでギルダーの手首でスマートウォッチが着信音を奏でた。音声通話だ。
ギルダーは躊躇なく通話を開始する。
『こちらエマ、お取込み中、恐縮です』
連絡を入れてきたのは、海賊船を制圧したエマ・エルランジェ二等兵曹だった。
「どうした?」
『敵艦内に子供がいます。それも五人ほど』
「こども?」
ギルダーは眉を顰めた。
『一番年嵩の子で五歳、乳児もいます。尋問の項目に加えていただければ』
「わかった」
『報告は以上です』
ギルダーは軽くため息をつきながら、ダミアンを睨んだ。
「子供がいるそうだな。さらったのか?」
「違う」
ダミアンは低い唸り声をあげる。
「では、お前たちの子か?」
ギルダーの問いにダミアンは無言を返した。肯定の意味だとギルダーは解釈する。
「十年は長い、艦内で子を産み育てたか」
「戦闘艦の中でか? 虫唾が走るな」
ギルダーの背後でフェザーが吐き捨てた。ダミアンは思わず目を伏せる。
「さて、どうするか」
「海賊は男女問わず、すべて処刑。十八歳未満の子供は全員施設送りだ」
思案顔のギルダーに、フェザーは何の逡巡もなく答えた。
「やめろ!」
会議室にダミアンの鋭い声が響き渡る。
「態度がデカいな。命令できる立場か?」
フェザーが氷のような視線をダミアンに落とした。ダミアンは思わず歯を食いしばる。
「俺は殺されても構わん。だが、子供たちと、その母親たちは見逃してくれ」
「虫のいい話だ」
懇願するダミアンをフェザーは冷淡にあしらった。
「子供五人に、何人かは知らんが、その母親。お前ひとりの命では足りぬな」
ギルダーは獲物を見つめる猛禽類のような瞳をダミアンに向けている。
「では、どうすれば助けてくれるのだ」
「助けてやるわけがないだろ」
ダミアンとフェザーが睨み合った。
そんなフェザーを制するようにギルダーが身を乗り出す。
「乗員は全部で三十人だったな」
「そうだ」
「では、母親と子供たちの命を助ける代わりに、お前たち全員の命をもらおうか」
「伯父貴!」
ギルダーの発言に何かを感じたフェザーは目を怒らせた。
「どういうことだ?」
「何、我らに忠誠を誓ってくれればいい」
ギルダーは、納得がいかないという風情のフェザーに軽く目配せすると、困惑顔のダミアンに悪魔のような笑顔を向けた。