弐
あやかしの世にきてすぐのころ、夜曇からお面を渡された。
お面は、月詠にとってただの飾りではなく彼女の存在そのものを守るための重要な役目を持っている。
それは、あやかしの世界の住人にとって、彼女が「異質な存在」であることを示す一方、
彼女を保護する役目を果たしていた。
お面をつけることで、月詠はあやかしの力に干渉されず現世に戻る力を失わずに済む。
もし外してしまえば、彼女はその世界に引き込まれてしまい、二度と戻れなくなってしまうという。
そのお面は、純白の陶製で、漆黒の目が深く刻まれており、その黒色は夜曇を思い浮かばせる。
額の部分には神秘的な紋様が浮かび上がり、その模様は月詠の手のひらに触れるたび、ほんのりと温かくなる。まるでお面そのものが、月詠を守るために命を与えられているかのようだった。
夜曇はお面を月詠に渡したとき、優しく言った。
「これをつけなければ、君はこの世界にとどまることはできない。
だが、君がどれだけここで過ごしても、
現世に戻ることを可能にするためには、お面を外すわけにはいかない。」
彼女はそのお面を静かに顔に付ける。温かな感覚が広がり、視界が少しぼやけた。
「これで、君はこの世界で安全だ。しかし、忘れてはいけない。」
夜曇は月詠を見つめ、少し真剣な表情を浮かべる。
「君の本当の姿は、現世にある。決して忘れないで。」
月詠は夜曇の言葉を胸に刻んだ。
だが、次第に月詠は思うようになる。この世界で過ごす日々の中で、夜曇と過ごす時間がどれほど大切であったか、彼と共に過ごすことがどれだけ心の支えになっていたか。
それでも、月詠の心の奥底では、現世に帰りたいという思いが消えることはなかった。
彼女の心は、二つの世界の間で揺れ続けていた。
彼女はあやかしの世界での生活に安心しきっていた。
それでも、彼女の心に残る不安と希望の間で、月詠はその日を迎えることを決意していた。
どんな選択をしても、最終的に自分が望む場所へ向かうために。
夜曇と共に過ごす中で、月詠は次第に自分を取り戻していく。彼との絆が深まるにつれて、彼女は気づく。お面を外すというその時が、彼女の未来を決定づける瞬間であることを。そしてその選択を、どれだけ恐れたとしても、彼女自身が下さなければならないのだと。
まだ外さなくてもいい、そう考えていたのに。
もう何度目かも覚えていないお祭りでのこと。
お囃子の音につられて屋台に向かうと、向かいから走ってきたあやかしとぶつかってしまった。
夜曇が助けに入る間もなく、お面は地面に落ちてしまった。
段々と薄くなってゆく体が、月詠を現実に引き戻していることを告げる。
「夜曇、、わっ、私まだ、戻りたくないよ、、」
大粒の涙を流す月詠に、夜曇は言った。
「大丈夫。月詠が望めば、あの時のように来てくれれば迎えに行く。絶対だ」
「約束だよ…」
そう言い残して、あやかしの世界から月詠は消えた。
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