僕と君の紙飛行機
「今日は六年生最後の活動になります。今までの成果を生かして紙飛行機を作りましょう」
教壇に立つ立花先生は涙を浮かべ、それを見た女子は「たっちゃん先生、泣かないで」と同じく目を赤くしながら慰める。
男子達はそんな姿をからかっている。
僕はといえば、どんな紙飛行機を作ろうかと思案中だ。
先端を曲げようか。それとも、翼の部分を余分に折ってみようか。
あの子より遠くに飛ばしたいな。
立花先生に群がる女子の集団にいる黄色いワンピースを着た女の子を横目で見る。
古川さん。クラスが別々で話したこともない。
だけど、僕とあの子はクラブの中で飛行距離を争っている。
各々が作った紙飛行機を持って屋上へと上がった。
先生の合図を受けて一斉に空中へカラフルな色紙が舞い上がる。
僕のものは風に乗りぐんぐんと飛距離を伸ばす。
すると、反対側から古川さんの飛行機が近づいてきた。
胸が高鳴る。
間一髪だったが、接触せずに別方向へと飛んで行った。
「やっぱり、一番飛んだのは古川さんと太田くんだね!おめでとう」
立花先生がやはり涙声で称賛。
「またあの二人かよ」
「もう付き合っちゃいなよ」
「でも、古川さんって違う中学行くんじゃなかった?」
色恋沙汰は男女問わず盛り上がるようだ。
古川さんは静かに微笑み佇んでいる。
そんな中、僕は罪悪感に苛まれていた。
紙飛行機がぶつかることを期待していたから。
僕は夕日に照らされた河川敷の土手から体を起こし、学ランについた汚れを叩く。
「中学生にもなって紙飛行機を作って遊んでるなんて思わなかったな」
渾身の力作を手に取り、過去を振り切るように空へと放った。
すると、空気の流れに乗り徐々に高度を上げていく。
「おっ、いい風だ」
ふいに風が吹き、川を越え、向こう岸に座っていたセーラー服の少女の近くに落ちた。
「すごいっ!」
僕の様子を見ていたのか、ぱちぱちと拍手。
思わず一礼。
「今からそっちに届けに行くね」
なんだか聞き覚えのある声。
橋を渡り駆け足で近づいてくる少女。
輪郭が徐々に鮮明になっていくにつれて鼓動の音が内側から僕を鼓舞し始めた。
「やっぱり太田君だ。だよね?」
下から覗くように顔を近づけてくる彼女に何度も頷く。
「偶然だね。まだ紙飛行機やってたんだ」
「うん。恥ずかしいところ見られちゃったな」
「そんなことないよ、私もまたやってみようかな」
「一緒にやろうよ」
オレンジからリンゴ色に染まった古川さんの顔を僕は一生忘れないだろう。