ありがとう
シルは俺の前を、鼻歌交じりで歩く、
時折振り返り、今日一日の出来事を
思い出してああだこうだと話す。
今日一日余程楽しかったのだろう、
考えれば、今日ほど、シルと話したのは初めてだった。
いつも近くいる存在、ゆえにあまり意識して話すこともなかった様に感じる。
突然シルは歩みが止まる、、、シルは前を歩くカップルを見ている。
前を歩くカップルは、彼氏の腕に彼女が抱きつき、肩を寄せ合って歩いていた。
シルはおもむろに、俺に近寄り、俺を見つめる。
俺はシルが抱きつきやすい様に、腕を曲げる。
シルは嬉しそうに俺の腕に抱きつき、頬を腕に擦り付ける。
(どさくさに紛れて口拭いてませんよね?)
シルは子供の頃から母一人、子一人で、生きてきたのだろう、俺に父親像的なものを求めているんだと思う。
結局、ホテルに着くまで、シルは俺の腕に、
抱きつきながら歩いた。
部屋でパジャマに着替えて、ベットに入る。
シルはすでに、ベットで寝ていた。
今日は一日大はしゃぎだったのだから
疲れたのだろう、俺も今日はとても楽しかった。
そう思い、目を閉じると、シルが動き出し、背中に抱きついてきた。
「シル、どうした?寝付けないのか?」
「にーさん今日はありがとう、、、とっても楽しかった。」
「シルが喜んでくれて俺も嬉しいよ」
「あのね、今日お義父さんとお母さん二人でデートしたでしょ、あれ、私がお母さんにお願いしたの、、、」
「そうだったんだ、ローネさんいつもよりすごく嬉しそうだったから良かったね」
「うん!でも、まさかそのあと、お母さんいなくなるだもん、、、」
「本当、オトンもオカンも自由人だから参るよな、、、」
「うん、、、でも、にーさんいっぱいお話できた、、、甘えさせてもらえた、、、」
「シル姫に喜んで頂けて何よりです、、、」
「もぉ〜そうやってすぐからかう、、、」
「ふふ、ごめん冗談か過ぎた、、、」
「その後の、部屋決めも楽しかった、、、」
「本当によくこんなこと思いつくよなぁ〜
でも、今日一日の事は、オトンとオカンに感謝だなぁ、、、スゲー楽しかった、、、」
「すごく嬉しい、、、にーさん、、、」
その後、たわいのない話をした、、、子供の頃の話、なにが好きだった、嫌いだった、とか、、、
そんな時、ピピピピと、タイマー音がなった。
「にーさん、、、お誕生日おめでとう、、、」
「あっ、、、ありがとう、、、」
今日は5月5日俺の17歳の誕生日、、、でもなぜシルが、、、
「あのねさっきお義母さんがね、別れる前に
「シルちゃん、覚えてたらでいいんだけど、5月5日はソヨヒトの誕生日なの、良ければ私の代わりに、お祝いのことばを言ってあげて」
そう頼まれたんだ、、、」
(そうか、、、オカンが、、、)
「ありがとうシル、、、ありがとう」