にーさん
私に父と呼べる存在は居なかった、私が生まれてすぐに父は死んだ。
私のいた世界には邪竜と呼ばれた魔王が、数百年をかけて世界を征服しようとしていた。
父はエルフ族、獣人族、そして人族と協力して、魔王率いる魔族と、数百年間戦ったがエルフ王国は滅んてしまった。
王と王都を失ったエルフ民は、徐々に魔族に勢力圏を奪われていき、エルフ民は滅びるか魔族に降るかの選択肢しかなかった。
そんな絶望の中異世界から天人が降臨した。
天人はたちまち魔王を滅ぼし、争いの無い世界の新しい秩序をもたらした。
その人が私の義父ノリヒトさんだ。
この世界に降臨したノリヒトさんの願いは、邪なものだったが、それを知った母の猛アタックの末、ノリヒトさんの心を射止めた。
それから程なくして、私たちは異世界に引っ越すことになる。
はじめはすごく嫌だった、どんなところかわからない異世界に住む、確かにノリヒトさんは面白く、優しく、素敵な人だけどノリヒトさんには、異世界に妻子がいる。私たちの世界でも貴族が側室を持つのは当たり前、だけど母は、、、
結局、母の思惑通りに事後進み、私は地球に住むことになる。
地球は思っていたよりも良かった、いいえ思っていた以上に素敵な場所だった。
数百年も終わらない、戦いに明け暮れた血に塗られた元の世界に比べて、地球は平和で文明レベルも高く、比べ物ならないぐらいの治安の良さと、豊かな資源に人々は飢えを知らず、毎日勤勉に務める姿に、びっくりも悔しささえもあった。
けれど、ここでの暮らしに慣れたころ、この世界にも戦争がある事を知りショックを受けた。
こんな素敵な世界にも戦争があるなんて、鮮やかに見えた世界に対する期待が、大きな反動として返ってくる。(元の世界と何も変わらない)
そう思うとようになると、世界がモノクロに感じるようになっていた。
そんな時、ノリヒトさんの家族と再び出会った。
義母のサチさんは、母との関係性が、微妙であるのに、母と仲が良く2人で結託して義父をいさめてたりもする。
私に対しても
オカン
「まぁ〜なんでもて可愛いの〜お人形さんみたい〜私、ずっと娘が欲しかったの〜仲良くしましょうね!」
と、実の娘として迎えてくれた。
義兄のソヨヒトさんは、初めこそ警戒したものの、サチさんと同じで、私たちに優しく、ノリヒトさんの暴挙に同情と共感さえもしてくれる。
初めてBBQで会った異世界人の少年が、私の兄になるとは、、、兄は私よりも若いけど、物知りでとても賢い人だと思う、やはりご子息なだけあってノリヒトさんに似ている。
そんなソヨヒトさんに、居間でテレビを観ていた時にこんな質問をしてみた。
シル
「結局、この世界も戦争に明け暮れて、今も人々が苦しんでるんですね、、、」
その日に見たテレビのニュースは、他国で始まった新たな紛争を伝えていた。
ソヨヒト
「異世界の事はわからないけど、この世界は二度の世界大戦を経験している。
まぁ〜俺には戦争の良し悪しを判断する知恵が無いので、なんとも言えないけど、俺自身は戦争は嫌いだね、だから、少しずつ少しずつ俺みたいな戦争を嫌う人々が増えたから、昔よりも戦争の規模は小さくなってきたんだと信じたい、、、」
私は彼の何気ないその言葉に感動を覚えた。
なぜなら悠久の時を生きるエルフには無い発想だからだ。
私たちエルフは、平均で1000年は生きる。
それゆえに、世代の交代も遅く個々の遺恨も残りやすい。
けれど、人族、特に地球の人々は100年も生きれない、ゆえに世代交代が早いので、エルフに比べて個々が持つ遺恨が残りにくいのかもしれない。
また、ソヨヒトさんの人の良さを感じるのは、とてもデリケートな話題にたいして、主観的に話す事がなく、事実を述べて、わからない事は素直にわからないと言い、自分の考えを肯定する事なく、それでいて自分の思いも相手に伝え、話の終わりを完結にするのではなく願いとしたこと。
とても16歳の子供が出来ることでは無いと思った。
少なくとも私は出来ていなかった、、、。
彼は私よりもずっと大人なのかも知れない、、、。
彼の言葉で私の中にある。
モヤモヤ(遺恨)が少しずつ消えてゆく。
そう〜少しずつ少しずつでいい、、、。
私は悠久の時を生きれるのだから、、、。
親愛を込めて彼をにーさんと呼ぼう。