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ローダンセの回転がだんだん遅くなりやがて止まると、光の壁は粒になり消えていった。


「さぁ、着いたよ。」


ミリューは小さな街ではあるが、フィーネやルダンと比べるととても賑やかな街だ。街の真ん中には噴水があり、それを囲むようにベンチが並んでいる。


「近くの露店で買った食べ物をここで食べたりするんだよ。僕のオススメはクレープ!ミリューに住んでる女の子に教えてもらったんだけどすっごく美味しいんだ。甘くないクレープもあるから、甘いものが苦手な人でも気にいると思うよ。」


そう言いながらリヒトはパチっとウィンクした。そう言えばここに歩いてくるまでにリヒトは何人もの女の子に声をかけられていた。何度か配達に来るうちに仲良くなったと言っていたが、声をかけてくる女の子はみな頬を赤らめて話していた。リヒトはあちこちでモテているんだろうなとソルは思った。


「リヒトはずっとルダンに住んでるの?」


「いや、僕はルダンの隣町の孤児院で育ったんだよ。ほら、ソルも行ったことあるでしょ?」


隣町の孤児院はブランの事件があった孤児院だ。ブランはリヒトが15歳で孤児院を出た後に来たらしく、リヒトは面識がないらしい。孤児院を出てそのままルダンに移り住んだそうだ。


「僕の誕生花はバーベナなんだ。魔力って花言葉があってね、体の中にどんどん魔力が溜まってっちゃうんだよ。小さい頃はよく魔力暴走起こしちゃってね、ステラのお母さんによくお世話になったよ。暴走を起こさないようにシエルに定期的に魔力を見てもらったりもしてたんだ。だから孤児院を出た後はルダンに来たんだ。」


孤児院を出る頃にはローダンセが咲き、そこに魔力を注いでコントロールできるよう特訓したらしい。ローダンセの力を進化させたのはそういう事情もあってのことなのだろう。とはいえ本人の努力は相当なものだ。どんどん溢れてくる魔力をコントロールするなんてソルには想像もつかない。


「今は宅配の仕事とかたまにシエルや博士を運んだりして魔力を使ってるからコントロールなんてしなくても暴走することはないけどね。」


「宅配の仕事はそのためにしてるの?」


「それもあるけど…。孤児院の頃一緒だった子を探してるんだ。ひとつ年下の子なんだけど、僕が植物園で診てもらってる間に引き取られていったんだよ。誰とも打ち解けられなくて、僕にしか懐かなかった子だったんだけど、どうやらその人には気に入られたみたいでね。幸せに暮らしてくれてればいいんだけど。どこに引き取られたのかも教えてもらえないし、宅配の仕事で色んな所へ行けばそのうちまた会えるんじゃないかってね…。」


リヒトにとって大切な人なのだろう。別れの挨拶もできなかったことで、後悔もあるのかもしれない。幸せに暮らしているところをひと目見たら、リヒトの心残りも少しは軽くなるかもしれない。


「会えるといいな。」


「ありがとね!ソルは優しいね。今日初めて会った人の話をすぐ信じちゃって、逆に心配になるよ。」


リヒトは冗談ぽく笑って言った。でもソルにはリヒトの話が嘘だとは思えなかった。その子の話をしている時のリヒトの顔はとても優しく、しかし寂しげな顔をしていたからだ。それにソルにとってはシエルやステラが信用しているというだけで、信用するには十分だった。


それからは他愛もない話をしながら街を見て回った。そしてステラが言っていた洋菓子店の前へついた。

扉を開けると甘い香りに包まれた。お店の奥はカフェのようになっており、店内で食べて行くこともできるようだ。ショーケースの奥に厨房があるようで、店員さんがケーキの飾りつけをしているのが見えた。


「すみません、ルダンの植物園から来たんですが、ケーキの予約をお願いします。」


ソルが声を掛けると厨房から少しふっくらとしたおばさんが出てきた。リヒトは顔見知りのようで「おばさん、久しぶり」と親しげに声を掛けた。


「いらっしゃいませ。あら、リヒトくん久しぶりね。ルダンの植物園ってことはステラちゃんとこだね。ってことはいつものケーキだね!」


そう言っておばさんは予約表をちゃちゃっと書くとソルに手渡した。


「この後はすぐルダンに帰るのかい?新作のケーキをステラちゃんに味見して欲しいんだけど。」


「僕はソルを植物園に案内したらすぐルダンに帰るから届けるよ。植物園行った後また来るからそれまでに用意しておいて!」


「わかったよ、ありがとね。」おばさんはニコッと笑って手を振るとカフェにいたお客さんに呼ばれて行った。


洋菓子店を出るとお店が並ぶ通りを抜けて歩いて行った。やがて少し静かな街並みに入り、小さな川を渡ると植物園が見えてきた。ルダンの植物園と違い天井が三角形の家のような形の温室がある。植物園の奥は森になっていた。


「あの森には魔女がいるんだって。子供が一人で入ると魔女にさらわれちゃうんだよ。」


リヒトがニヤニヤしながら言った。


「もう17だぞ。そんな脅しじゃ怖がらないっつーの。」


リヒトは「もう、つまんないなぁ」とガッカリしている。なんだかいたずらに失敗した子どものようで、それを見てソルはハハハと笑った。


植物園に入ると無精髭を生やした博士が出迎えてくれた。


「ソルくん、リヒトくん、いらっしゃい。僕はラムルの同級生のルイだよ。ラムルとステラちゃんは元気かい?」


「ルイ博士、久しぶり。ラムル博士もステラちゃんも元気だよ。僕は一旦ルダンに戻るからソルを宜しくね。」


そう言ってリヒトは洋菓子店へ戻って行った。ソルはルイ博士に植物園を案内してもらうことにした。


「植物の種類で言うとルダンの植物園の方が多いけどね、ルダンの植物園にはない植物もあるんだ。ほら、これ。」


そう言って博士は濃いピンク色の花の前で立ち止まった。花はツンツンとした球状の花で、葉は丸みのない細い葉がついていた。


「可愛い花だろう。アザミというんだ。棘があるから触っちゃだめだよ。僕にはね、この花がツンとした子猫のようでなんともいじらしく見えるんだよね。この棘で必死に自分を守ってるというか、でも可愛らしさも捨ててなくて、あぁなんて健気な花なんだ。」


博士が興奮して熱く語り始めた。もうソルのことが見えているのか分からないほどだ。きっとラムル博士が来たときはこの調子でお互いがどんどんヒートアップして止まらなくなるんだろうな、とソルは納得した。


「ごめんごめん、植物のことになるとついね…。この花はね、近所に住むラークさんの娘さんの花なんだ。初めて見せてもらったときに一目惚れしちゃってね。それで植えることにしたんだよ。」


それから博士は時折興奮を見せながら温室の植物を紹介してくれた。初めて見る植物もたくさんあり、ソルにはとても勉強になった。


「ルダンの植物園になくてここにはある花ってのは大抵毒性のあるものだ。ラムルはステラちゃんが間違って触ってしまうといけないから、どんなに興味があっても自分の植物園には植えないんだ。まぁ僕は独身だし、何よりも植物が1番だけど、ラムルの1番はステラちゃんだからね。」


ステラはもしかしたら自分のために植えていない植物があるのを知っているのかもしれない。だからこそラムル博士がここに来た時はなるべく長く時間をとれるように迎えは4日目と決めているのかもしれない。ラムル博士にとってステラが大切なように、ステラにとってもラムル博士は大切なのだ。きっとシエルも同じだろう。口には出さないがみんながお互いのことを思い合っている。改めてソルはそんな素敵な人達と過ごせることを幸せに思った。


「温室の外には畑があるんだ。」


そう言ってルイ博士は温室の外を案内してくれた。畑には様々な野菜が植えられていた。畑の奥は果樹が植えられているようだ。


「今日はここで取れた野菜や果物をごちそうするからね。楽しみにしててよ。愛情込めて育ててるからね、本当においしいんだよ。」


そう言ってルイ博士は籠を用意して野菜をいくつか収穫していった。気付けば辺りはオレンジ色に染まっていた。周りの家からは美味しそうな匂いが漂ってきた。籠をいっぱいにしたルイ博士は「さぁ、夕飯の準備をしよう」と言い家へ案内してくれた。


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